#28 いざダンジョンへ
さて、そんなこんなで道中色々ありながらも、私たちは特に何事もなくダンジョンにへと辿り着いた。
初めて来たが、やはり相当な大きさの建造物だ。この間の湖畔の瑠璃遺跡の五倍はありそうだ。これは人ではなく神が造り上げたと言われても納得してしまいそうなほどには。
だが、本当に神が造ったのかどうかなどはわからない。私たちは、今からそれを調べに行くのだ。
「さぁ、覚悟はできているかい?」
「愚問ですよレイアさん。もう体が疼いてしょうがないですよ!」
「私は十八で冒険者になった時ですら初めてのダンジョンは怖かったんだがな………まぁそれなら構わない。皆、行こうか!」
第四階級推奨ダンジョンノーマリエ。それがこの場所の名前だそうだ。
遠く離れた村からでもその姿が確認できるほどのサイズを誇るこの建造物は、内部も相当広く、そして入り組んでいた。
初めて入るダンジョンの内部に感嘆の声を漏らしていると、隣ではレイアたちが手慣れた様子で地図を取り出し、持参していたランタンに魔法で火を灯す。一部を除いて皆がすでに得物を取り出しており、臨戦体制となっていた。
「シルカ、ここからはいつ魔物がこちらを襲ってくるか分からない。警戒を怠るんじゃないぞ………だがまぁ、正直ここからしばらく続く迷路区間ではほとんど魔物は出ないんだがな。と言っても、油断は出来ん」
「了解です……!」
そうして私も剣を抜く。一週間もの間ただ手入れすることしかできなかった愛剣は、磨かれに磨かれて刀身がかつてないほどにピカピカだ。ようやっと振ることができると思うと、なんだか自然と私の顔に笑みが浮き出てくる。
「あの……自分の剣眺めながらニヤニヤすんのはやめた方がいいんじゃないか……?」
「ふふふ……存分に使ってやるからな………」
「駄目だコイツ話聞いてねぇ」
もうこれがなければ生きられないかもしれない………また引いているかの方な顰めっ面をまた浮かべるテリーのことなど知らず、私はまた剣を触れる喜びを噛み締めていた。
このダンジョン、入った瞬間に魔物が襲ってくるということはなく、序盤辺りは仕掛けが施された迷路が基本となっている。
入り組んだ道、何本にも枝分かれしたそれらは一時気を緩めれば即座に方向感覚を狂わされかねないものであった。
だが流石はここに何度も足を運んでいる冒険者たちだ。もはや道を暗記しているのだろうか、地図を見ることもなくどんどん足を止めずに進んでいく。本来マッピングしながら地道に進んでいくのだろうが、それはきっともっと前にレイア達がやってくれているのだろう。
そして道中、いくつものトラップ、隠し通路、転送魔方陣………
「いつになったら魔物は出てくるんだ……………」
「はいそこの戦闘狂娘は黙ってましょうねっと………というか、本来魔物がいないことはありがたいことなんだぞ?余計な体力を消耗する必要もないし、生存率もグッと跳ね上がる」
「まぁ……それはそうなんだろうが………」
確かにテリーの言うことも一理ある。私も最終的には魔物の根絶を目標としているのだし、いないのはむしろいいことだ。
だが今は一刻も早く剣を振りたいのだ。素振りではない。剣は舞など魅せるためではなく戦うためにあるのだ。敵を斬るためにあるのだ。
「安心しろシルカ、この迷路を抜ければ嫌と言うほど魔物が出てくるぞ」
「早く行きましょうレイアさん!」
「魔物と戦う前にそんなに楽しそうにしてるのはシルカさんだけじゃないかな………?」
その後も迷路はもう少し続いた。落とし穴に粘着床、矢の発射される弓の仕掛けなどもあった。これはもし私が一人で来ていたのなら危なかったかもしれない。というか、そもそも前半の迷路の時点で迷っていたかもしれないな………
ずっと続く石造りの三×三メートルの空間。そのどれもがこれといった特徴もないただの通路であり、ダンジョンというものがいかに知恵が必要とされるのかがよく分かった。
知識と先へと進む勇気、そして確かな実力。この三つがそろわなければ、この神の試練と呼ばれるだけのことはある。
かつて私が生きていた時からこのダンジョンというものはあるにはあったが、そのどれもが完全な未開拓。さらに言えば、そんな調査をする余裕もないほど戦火が広がっていたのだ。
そう考えれば、平和な世とはまだまだ言えないものの、いい時代になったと言えるのだろうか。
こうして仲間と共に歩み、そして一つの事を成し遂げる。そんな点ではこのダンジョン調査も戦争も変わらない。
(意味のない争いを続けるよりも、こうして未知に挑戦する方が、双方にとってよっぽど重要であっただろうに)
当時世界中で、数えきれないほどの死者が生まれ、そしてその死者によって現在の魔物が生まれた。
そしてそれは、今までの人間の負の歴史を繰り返した罰なのだろうか?人の地位が人ならざる者に揺るがされつつあるこの状況を受け入れるしかないのだろうか?
(………いや、今考える事でもなかろう。終わったものは終わった。それでいいじゃないか)
過去と今は繋がっているのだ。こんな楽しい日々を送れるのも、あの負の歴史があったからこそなのだろうし。




