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戦王剣は新米冒険者〜生涯無敗で世間知らずな元騎士長は、我流剣術と共に自由気ままな二度目の人生を〜  作者: 瀧原リュウ
凍結火山編

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#241 追跡

 その後、私の体はヒユウに背負われてそのまま赤い扉があった方に空いていた穴から脱出。そのまま初めに来た道を戻り、ダンジョンを後にした。


「っ!? 熱っ……!?」


「火山が……元に戻ってる……!?」


 ダンジョンに入る以前は極寒の地であったはずのグレアシスタの面影は完全に消えており、あるべきであった活火山の姿を取り戻していた。


 流れる溶岩、溜まるマグマ、そしてそれにより生まれる灼熱は燃えるように熱く、人間が活動できるギリギリの気温であった。


「……多分……先ほどのジヴァードゼイレとの戦いのせいだろう……それほど、炎竜の影響というものは凄まじいのだろうな……」


 そもそもニルムヘイズが凍ったのも、竜であるファレイルリーハによるもの……と、ジヴァードゼイレは言っていた。ならば同じ竜である奴の炎で、対処は可能ということなのだろう。


 そしてその様子は、グレアシスタ内部から出た後でも同じだった。


 この地を訪れる以前から存在していた無数の氷やつもりに積もった雪は完全にその姿を消しており、辺りを包むのは熱気とマグマ、そして無数の岩肌。所々で露出している鉱石は、ここがまだ鉱山としての

役割を終えていないことをグレイに伝えているようであった。


「これで……グレイの戦いの目的は全て果たせたのではないか?」


「そうだな……それに関して、二人には感謝してもしきれない……本当にありがとう………でも、シルカたちの戦いはまだ終わっていない。俺も最後まで手伝わせてくれ」


 かつてのニルムヘイズの姿を目の当たりにして、グレイは内心大いに喜んでいたことだろう。言葉は落ち着いているが、その嬉しそうな表情と雰囲気は全く隠せていない。


 そして、己の戦う理由を失ってもなお、こちらに手を貸してくれると、彼は言った。


 本当にいい奴だ。これが終わっても、友として交流を続けたいと、迷いなく思えるほどに。




「それでシルカ、ここからどっちに行けばいいの!?」


「っと、そうだったな………まず、ここから五キロほど北方に向かってくれ……!」


「分かった! ………グレイ! 北ってどっちだっけ!?」


 あまりにも真剣過ぎるその表情と返事。すぐさま動いてくれるのかと思いきや、ヒユウはグレイにその方向を問い始める。まぁ、慣れない土地だ。仕方ない。


「こっちだ、急ごう。こうしている内に、ヴィーグルスに逃げられるかもしれない……走れるか?」


「当然……!!」


 そのグレイに返された問いに、ヒユウは笑って答える。


 人一人抱えてこの余裕、私の今考えれば無茶苦茶な移動距離と速度についてこれただけあって、その体力は中々に以上だ。


 そこから、二人は足を動かす。まるで先ほどまでも走っていたのではないかと錯覚してしまうほどの加速で岩の上を駆け、熱気の中を突き進む。そんな二人の顔はいつになく真剣で、肝が据わっていた。


(身体能力……精神的にも、少し前とは比べ物にならぬほど成長している……凄い子らだ……!)


 ここまでの成長性は、私の人生の中でも類を見ないかもしれない。それほどまでに過酷な環境に身を投じていたとも言えるが、それにしたって私の想像など平気で何段階も超えてくるそれには、少し恐怖に近い何かすら感じる。


 そんな私の心の内など二人が知る由も無く、ただ私の言うがままに全速力で走る。逃亡者を追い詰めるために―――――






 ―――――そして、現在に至る。


 あれから何度か方向転換を繰り返し走って、ついには完全に逃走成功していたはずのヴィーグルスの元にへと辿り着いたわけだ。


「なぜだ!! 貴様ら……なぜ生きている!? なぜここにいる!? なぜ私の居場所が!!」


 瞬間こちらに放たれるヴィーグルスの怒号。いやはや、嫌な年寄りの叫びほど癇に障るものはない。


「貴様らがあの炎竜に勝てるはずがない……亡霊か!? 亡霊となって我が元に現れたか!!」


「そんなわけ……なかろう、この阿呆が。ジヴァードゼイレは……私が斬り捨てた」


「っな………!!」


 まるで信じられないというような顔を見せるヴィーグルス。だがこのニルムヘイズの変わりよう、そして私自身が全身に負っている火傷、動けぬ体を目の当たりにしているのだ。それが真実であることを理解できぬほど、この爺も馬鹿ではないだろう。


「っ……っならば、なぜ私の転移先を特定できた……!? 魔力の残滓も……この場所を探れる魔力など………」


「あぁ……無かったよ。お前の魔術の質は相当なものだ」


「ならばなぜ……!!」


 怒りによるものか、先ほどまで私に与えられたダメージに苦しめられていたであろうヴィーグルスは恐ろしく饒舌になっている。痛みすら忘れるほどの怒り(それ)と困惑が、きっと今奴の中で暴れまわっている。


「私が辿ったのは―――私自身の魔力さ……」


「何………?」


「戦わず遠くから見ているような男が、脱出を考えていないわけがない……だからあらかじめ仕込んでおいたのだよ……お前を背後から刺したあの時……貴様の体内に、微量の私の魔力をな……!」


「ッ!?」

 

 そう、それを伝い、私はこの男の居場所を特定したのだ。かつて主に偵察の奴らがよく使っていた手法だが、使用しているのは単純な魔力塊だ。少しであれば私でも出来る。


「………とまぁ……種明かしは以上だ……後は、頼んだぞ……グレイ」


「任せてくれ……俺が責任を持って、きっちり全部終わらせる……!」


 自身の体をヒユウに委ねる私の言葉に、グレイは鶴嘴を構える。彼自身の因縁の元凶である男の――息の根を止めるために。

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