#24 無事に帰還した愛娘
「ッ……! 離してくださいエアードさん‼︎」
「落ち着けリザリア‼︎ お前ではこの先は無理だ! 確実に死ぬぞ‼︎」
遺跡の方から轟音が鳴り響いたのが聞こえたシルカの父のナルクの父は、遺跡の中で地面が崩れ地下深くにまでつながっている穴を発見した。
この下に広がっている湖底の蒼洞窟。九天竜の一角ファレイルリーハがいるのはもちろん、そのほかにも第二階級クラスの冒険者でなければ歯が立たないような魔物がうじゃうじゃ生息しているとの話を二人はもちろん知っており、そこがどれだけ危険な場所かということは嫌というほど分かっていた。
だからこそ、シルカ父の描いた最悪の状況が今目の前で起こっていることとつながっているかもしれない。そう考えてしまった彼は、娘の安否を己の目で確認するため、力が及ばないことを重々承知しながら穴の底にへと赴こうとしていた。
だが、ナルク父がそれを許さない。自分はもちろん、共に戦ってきた友もこの下に行っては生還することはまずできないことは想像に容易かったからだ。
「一旦遺跡を全て調べてからでも遅くはない……! 地上のここも相当に広い……もしかすれば、もっと奥にへと進んでいるだけかもしれん……‼︎」
「………シルカには、あまり奥に行きすぎるなと言っています……あの子は剣や戦いに関しては考えが常軌を逸している時もありますが、約束を破る子ではありません……!」
「それはそうだが………それでも駄目だ……! 気持ちは痛いほど分かるが……………」
「グゥゥッ………!!」
シルカ父は下唇を噛む。まさかこの年になってここまで自分の非力さを恨むことはなかった。
シルカ父、そしてナルク父の二人は冒険者ではない。生活のため、森の獣を狩るためだけに修練を行っていたに過ぎない。しかしそれでも二人の実力は第八階級、全盛期だと第六階級並みの実力は有していた。
だがそれではこの下の洞窟では通用しない。この下にどのような魔物がいるかまでは二人も分かっていないが、それでも洞窟で最弱レベルの魔物にすら蹂躙されかねないことは間違いなかった。
ましてや、伝説の竜ファレイルリーハなど、第一階級の実力者でも勝てるかどうか分からないほどの存在。この穴を降りていくことは、自殺行為以外の何物でもなかった。
「シルカ……! 一体どこまで行ってしまったんだ……!」
「…………む? リザリア、穴の奥から何か聞こえんか………⁉︎」
「え……?」
ただ単に下の魔物の鳴き声ではないのか。そう思ったシルカ父だが、それでもそうとは限らない。ナルク父の聞いた音がどんなものであるのかを知るため、穴の奥にへと耳を澄ませてみる……………
「……ぁっ……はぁっ……はっ…………」
「んなっ……⁉︎」
「シルカ⁉︎」
聞こえてきたのは人の吐息。だがそれでも十五年間共に過ごした愛娘のそれを聞き間違えるわけなどない。
「はっ……はっ……はあっ……!」
「まさか………帰ってきおったというのか⁉︎ 洞窟まで落ちて、それでもなお……⁉︎」
「……っははは………! なんて子だ……!」
この穴の深さがどれだけあると思っているんだ。そんなことを頭の片隅で考えながらも、シルカ父はその壁面をよじ登ってきている娘を見て、驚きとそれの何十倍もの安堵を噛み締めていた。
「………ふぅ……ってあれ?父さん?それにおじさんも」
「やれやれ……見るからに元気そうだな、なぁリザリア?」
「ううっ…! よかった……シルカ……! 本当によかった………‼︎」
「って、え? なんで泣いてるんだ……?」
思わず反射的に娘を抱きしめる父。そしてそれに困惑する娘。冷たい遺跡の中のそんな暖かい光景を、内心安堵していたナルク父も小さく微笑みながら、しばらく静かに見守っていた。
「…………なるほど、湖底の蒼洞窟……まさか遺跡の下にそんな場所があったとは……どおりで魔物の強さが地上と桁違いなわけだ」
「……やはりというかなんというか………戦ったんだな……」
「本当に……我が娘ながらたまに本気で恐ろしいよ………」
娘に恐ろしいとはまた失礼な。とはいえ、心配をかけたのは事実だ。実際命を落としてもおかしくなかったし、今回は素直に反省しておくとしよう。ちなみに、もう二度とあそこに行かないとは決して誓わない。
私は穴から上がった先にいた父とナルクの父に、私が遺跡に来てからあった出来事を話した。というか半分尋問みたいになっていたが……
「下にいたのは、斬っても死なずにそのまま分裂する蜥蜴がほとんどだったな。緑色のと赤色と青色もいたんだったか」
「知ってますか? エアードさん」
「むむむ………そんな魔物聞いたことがない……今度村を訪れた冒険者にでも聞いてみようか。流石に第二階級レベルはここら辺には来んが……確かレイアのやつが第三階級だったはず……何か知っておるかもしれん」
「確か、第二階級へのランクアップも近いんでしたっけ?」
「あぁ、そうだったな。あれも若いのに大したもんだよ」
冒険者のレイア。よく拠点として村を利用している冒険者の一人だ。村の先、この森の更に奥には適性ランクが第四階級のダンジョンが存在している。ちなみにこの湖畔の瑠璃遺跡は適性ランク第七階級だ。
ダンジョンとは、この世界を創った神が知恵をもつ人間に与えた試練と言われている建造物のことだ。いつ、どうやって建造されたのかなどは不明。この世界にいくつかそういった場所が存在するそうだが、そのほとんどが未だ謎が多く残っている。レイアたちはそのダンジョンの全貌を解明するために、定期的に村を拠点として調査のために駆り出されているというわけだ。
そしてそのレイアだが、私も何度も手合わせをしてもらった。村に訪れる冒険者の中ではトップクラスの実力を誇っており、本人も鍛錬を怠らない真面目な性格だ。ランクアップも当然だろう。
「まぁ、こんなところにずっといるのもあれだ。とりあえず一旦村に戻ろう」
「そうですね。シルカ、帰ろうか」
「あぁ。流石にかなり疲れた……」
家に帰ったら、ひとまず色々話し合う前に一眠りさせてもらうことにしよう…………




