#229 イヒカノレイ
一時的に激流も消え、現在自由の身となったジヴァードゼイレではあるが、その姿は奴が自ら生み出した大規模の炎塊によって見えることは無い。逆に言えば、相当の体躯を誇る奴が覆われるほどに巨大な炎のドームは、絶え間なくそれほどまでに拡大を続けていた。
『ぬぉぉおおお……!!』
先ほどまで、まるで呼吸でもするかのように無限に思えるほどの炎弾を生み出し、全方位から私に向けて攻撃を放っていた炎竜であったが、今回のこれ……爆界炎波なる奴の技は、奴が唸りを上げるほどには奴も力を込めた者であるらしい。どおりで、先ほどの魔術と比べてもその質が格段に高いわけだ。
「フン……! 食い止められなければ私もそれまでだということよ……!!」
ここを乗り越えねば、私たちに未来は無い。このままいけば三人共、おそらくこの場を埋め着くすであろうその炎に身を包まれ焼け死ぬだけだ。
私は先ほど地面に叩きつけた大質量の水の塊に意識を乗せるようなイメージを必死に固める。苦手分野ではあるが、今はどうこう言っている場合でもない。やらねば死ぬのだ。自分にそう言い聞かせ、私は頭の中で必死に理想を構築していく。
海世界 極凍牢壁は、かつて私がファレイルリーハと戦った際、水で体を形成しているようであった奴の体を凍らせたときのあの感覚を元に独自開発した技だ。やはり経験という物は偉大なもので、一度身をもって体感したそれは、イメージ構築のための重要なピースとなり、この技を行使する際の重要な部分を担ってくれている。
まず、質量無制限の海世界を可能な限り圧縮。
圧縮、圧縮、更に圧縮とどんどん繰り返していく内に、辺り一面を水で埋め尽くすほどの質量を誇るそれは、手のひらサイズの球体として私の手中に収まる。玉になってもなお流れることを辞めず、圧力のせいか先ほど以上の流れの速さとなったそれ。そして次に行うは、性質の変換。
これがかなり難しい。それこそファレイルリーハ戦ではただ水を氷に変換……凍らせるだけでよかったのだが、この極凍牢壁は少し変わってくる。
掌で行うのは、無限の激流に対する、絶え間ない冷却。水の塊を凍らせることなく、流れを保ったまま、ただ限界まで冷やし続ける。
私自身やっているだけで頭が痛くなってくるが、ファレイルリーハの玉のおかげで何とかそれも成り立っている。もちろん、なければ絶対無理だ。
そうして絶対零度にまで瞬時にたどり着く激流を………一気に解き放つ。
「広がれ。固まれ。閉じ込めろ……その炎塊のエネルギー尽きるまで、無限の氷牢で全部閉じ込める……!!」
解き放った激流はすぐさま自らの温度によって瞬く間に凍り付く。波の広がりに追従するようにそれを凍らせていく冷気によって、私のイメージ通りの氷の壁を張り巡らせることが出来る。
ただの氷の壁であれば、魔術に長けた者であれば……それこそ、グレイでも作れる。だがそれでは、ジヴァードゼイレの炎に対抗することは出来ない。竜の力を宿す海世界より生み出されしそれだからこそ、その真価を発揮するのだ。
私は今回、少し複雑なイメージを固めている。範囲の内側から順に、
・炎のドームを食い止める氷の壁
・私自身を覆う氷(クライオスのあれに少し近いか?)
・戦闘の範囲外にいる二人を炎から守るための壁
こんな感じだ。
本来、あのドームの範囲だけを閉じ込めることが出来たのならそれが一番だろう。しかし、拡大を続けるそれに対してイメージとして設定し、構築した氷の壁の形成が間に合わない可能性もある。それに加え、普通に氷が突破される危険性もあるため、私は二重、三重の防壁を用意した。
なお、ヒユウとグレイを守るための壁はかなり分厚めにしている。それに加え、氷と化した激流を絶え間なく流し続けることで、もし溶かされたとしても私が息絶えぬ限り決して突破されぬようにしている。ドーム、そして私を覆う氷もそれなりの耐久力はあるだろうが、重きを置いているのはそっちの方だ。
「ぬっ……んぅぅぅ………っよし……!」
脳が焼き切れるのではないかと思うほどの痛みの峠を越え、私は何とかイメージ通りに氷の壁を生み出すことに成功した。ここまでの氷を生み出したことなどこれまで無かったためにあまり自信はなかったものの、そこは火事場のなんとやらで乗り切った。
『その抗い……実に悪くないぞ……! さぁ、我が炎、受けきれるか!!』
氷に閉じ込められてなお、ジヴァードゼイレの楽しそうな声はこちらにまで響いてくる。もはや奴の発声は思念に似たものなのかもしれない。
「知らん……が、出来る事を最後までやってみるさ……!!」
次の瞬間、極凍牢壁とジヴァードゼイレの炎がぶつかり合う。それに伴い凄まじい勢いで白煙が舞い上がる。
辺りを冷気が包み、その直後熱気が追いかけてくる。さきほどから何度も体感しているこの極端な温度差に慣れてきたと思いきや、ここまでのそれがどれほど優しかったのかをただ思い知るだけとなった。
氷と炎。まるで鍔迫り合いのように力をぶつけ合うそれらの均衡は少しずつ保てなくなり……………
まず炎が、氷を突き破ってみせたのだ。
クライオスのあれ(ヒユウによって全部溶かされたあれ)。
クライオスのは氷の雲丹みたいな形の氷の針が付いたものでしたが、シルカが自分を覆ったそれは普通の氷の球体です。雲丹じゃないです。




