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#12 減点、努力点、反省点

「……すっげえ…………」


 ナルクは目の前の光景を、同年代の少女が体長十メートルはあるような猪を圧倒し、そして仕留めた光景を目の当たりにして感嘆の声を漏らす。


 そして、次にその少女から放たれた言葉に耳を疑うこととなった。


「………四十点……」


「は…? 一体何が………」


 彼にはそれが何の点数であるかはなんとなく分かった。だが同時に()()()()()()()。なぜその数値なのか。

 ナルク自身、聴力には自信があった。いくらシルカがボソッと呟いただけとはいえ、その数字を聞き間違えたりはしない。


「っ……なぁシルカ……それって………」


「ん? あぁ。先ほどの戦闘の自己評価だよ。ちなみに、これが初めての戦闘と加味しての得点、実際は十にも満たない出来だ………」


 そう答えるシルカの声はとても落ち着いていて、それでいて先ほどの近くにいるだけで圧倒されそうなオーラもどこかへと消えていた。


「な……なんでだよ…!? あんなにあんなデカいのを圧倒してたのに……」


「正直、そこまで酷いわけではない……ただ、細かい部分がな。刃が奴の肉に辿り着くまでの時間に少々ずれがあったりとか、やはり脳に体が追い付いていない感じがあるというか………あとはやっぱり筋力だな。まったくと言っていいほど足りていない。自分でも軽い一撃だというのが分かったほどだしな。相手が獣だから問題なかったし、何なら少し遊んでしまったが………まぁとにかく、皆無事なのだから、ここは素直に喜んでおくべきなのだろうがな……………」


「っ……!」




 彼はそれを聞き、絶句した。あれだけの実力を有していたのだとか、さっきの今だと言うのにもうすでに反省するべき点を分かっているとか、そんなことは後でいい。今目の前の少女は何と言った?


(遊んでしまったって……?それで()()()()()なのか……⁉︎)


 となれば、もしもシルカが本気でやったとしたら。

 

 そう考えたナルクは、ほんの少しの恐怖を覚えた。もし今自分がシルカと戦ったのなら、もし、目の前に敵として立っていたのなら、そもそも、今どれほどの実力差が存在しているのだろうか。

 そんな事を、彼はその後の村への帰路を、ただ無言で考えながら歩いていた。






 ――――それから、数日後。




 あの後起こった村での大騒ぎが少しずつ落ち着いてきた頃。私は今日も今日とていつもの場所で剣を振るっていた。


 命の危機と隣り合わせの冒険者(志望)たるもの、常に己が得物を扱う感覚を忘れることなかれ……と言っても、単に私が剣を振っていないと落ち着かないと言うのが主な理由なのだが。


 あの猪の素材を村に訪れた冒険者に渡して街に調べに行ってもらったのだが、どうやらゴールドボアの突然変異個体ということで間違いないとのこと。


 石ボア系と一纏めにされるそれらは少し特殊で、まず種類としては、下位からストーン、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールドとされ、石ボアの一つ上であるアイアンボアは、ストーンボアの通常変異個体。そこから繁殖により個体数が増えて個別化されたものだ。


 そしてその最上位に位置するのが(ゴールド)ボア。金色の体毛に身を包んだ、極稀に遭遇することが出来るとされている猪………と、以前まではされていたが、今回見つかったのは、その新種というわけだ。


 毛の色が変わるだけで硬度には特に変化はなかった――強いて言うならば、肉質に変化があった。ランクが上がるにつれて身も柔らかく脂も乗っていて美味くなっていく――ボアらだが、先の新種、プラチナボアと名付けられたあれは、体毛がまるで本物の金属のようなものだった。


「この何年かでもしかすれば、魔物のランク、変貌の仕方もかなり変わったのかもしれんな」


 今後もそういった存在には多く出くわすことになるだろう。下手すれば命を失う場面も少なくはないはずだ………だが。


「そんなものは関係ない。人々の平和な世は、崩してはならんだろう」


 この剣を振れる限り、私は一体でも多くの魔物を狩る。

 この世界、勿論全ての人間が戦う術を、魔物から己の命を守れる術を有しているわけではない。力をつけた者が、その者らを守らねばならないのだ。


 その行いには、責任も義務も存在しない。ただ、私がそれを望んでいるだけに過ぎない。人の命を害する存在は、それが獣だろうが魔物だろうが、神だろうが切り捨てる。そんな気概を持っているだけ。ただそれだけ。

 

 今この世界で再び剣を取れるのは、類まれなる幸運なのかもしれない。いや、おそらくそうなのだろう。仮に全ての人間が平等に記憶を保持したまま転生できるのであれば、街の至る所に神童が蔓延っているだろうしな。


「つまり、私が生まれ変わったのも、何かの因果……理由があるのだろうか?」


 結果的に自分自身の願いを叶えられそうなので、もし転生の代償があるのだとしても大抵のことならやるつもりだが、十年経った今でも特にそのような神のお告げのようなものはない。


「ま、意味があろうとなかろうと、今はこの幸せに感謝せねばな…………っと、そろそろ対人の訓練がやりたいな……ナルクでも誘うか」


 しかしナルクもあれ以来随分大人しくなったが………一体何が原因なのだろうか?

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