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#11 強き者の特権

 この剣を人間以外に向けて振るったのは今回が初めてであったが………問題なく戦える……!


 対人向けに開発したとはいえ、「生物に対して使う」という根本的な部分が変わっていない以上、この剣にもやりようはいくらでも存在する。なんなら、思考、策略を用いず、本能で襲い掛かる(こっち)の方が幾分か楽だ。


「ハァァアアアッ!!!!」


「ブォッ……ボヴゥァァアアアァッ!!!!」


 だが、どうやら奴の方もやられっぱなしとはいかないらしい。私の連撃をシンプルな力量差でねじ伏せんと、その攻撃に勢いを乗せる。しかし、


「その程度の小細工、この儂には通用せんっ!」


 向こうの威力を極限にまで殺し、同時にこちらの力はできるだけ相手に与える。いくら力で劣っていようと、いくら向こうの肉体強度が高くとも、生物である以上、その体力、命は有限。削り続ければ、こちらの勝機もおのずと見えてくるものだ。


 そう信じ、ただひたすらに私は剣を振るう。ただまっすぐ突き進む。

 視界のほとんどが白金の煌めきで埋め尽くされるほどに猪と肉薄し、攻めの姿勢を一切変えることはない。

 

「しかし……このまま続けていても、芸がないだろう……!」


 このまま進んでも良いが、ここは一つ趣向を変えてみよう………!

 



 趣向を変える。それは戦いの中流れを文字通り変化させること。

 一対一の戦いの中では、必ず強者と弱者が存在する。己の実力を数値化できるとして、その実力が互いに拮抗していようが、また圧倒的な差があろうが、その数値がぴったり同じではない限り、勝敗にかかわらず、片方は強者、そしてもう片方は弱者となるのだ。


 そして、弱者が趣向を変えるのは、その多くが、「不利な自分の状況を打破するため」、「逆転するため」、「起死回生の一手を相手に叩き込むため」などであるだろう。

 負けてしまうかもしれないギリギリの場面で、何とかして勝利をもぎ取るために思考を巡らせ、そしてそれを実行するのだ。




 では逆に、なぜ強者は、戦いの中で趣向を変えようとするのか?

 それの答えは、もちろん人それぞれである。ある者の答えを聞き、ある者は納得するだろうし、ある者はそうではない。だが、強者側、その中でも頂点へと辿り着ける素質、実力を持つ者がそれを行う理由の中でも多いものは……………



 

 そう。やはり、「その戦いを最大限楽しむため」。これだろう。圧倒的な強者という生物は、いかに気を張り詰めた状態であろうが、心の奥底、そのどこかで戦闘の楽しさというものを覚えてしまっている。


 己の半身とも呼べる武具と共に戦う楽しさ。相手の武器と自分の武器が交差し、ぶつかり合うあの感覚、そして緊張感。日常では絶対に味わうことのできないあの気持ちの昂り。

 

 そのようなものを、長い間感じていたい。もっと戦っていたい。そしてそれは弱者側から見れば、「遊ばれている」。そんな感覚にさせられるような、向こうからすれば、失礼極まりない行為。


 だがそれは、強者に許された特権でもある。戦いにおいて、弱者、もとい敗者には、何かを言う資格など存在しないのだ。

 どれだけ天才だと称えられる人間であっても、血の滲むような努力、研鑽の果てにその実力を有している。敗北に理由があるように、勝利にも理由があるのだ。




 さて、そろそろ話を戻そう。

 そんなシルカも、今まさに趣向を変える。ここまでの何十、何百もの打ち込みで彼女はもう理解している。この猪より、今の自分の方が勝っているのだと。

 ならば、せっかくのこの実戦の機会、逃すわけにはいくまい。やれることは全部やっておきたいという自身の欲望が、彼女のテンションをどんどん加速させ、さらに戦王剣の速度も上昇する――――




「フハハハハハ!! さぁ、追いつけるかな!?」


「ブルルルルゥォオ………!!!!」


 私が今やっているのは、全方位からの斬撃。猪に足を動かす暇すらも与えることなく、あらゆる角度から剣戟を叩き込む。それと同時に、私の機動力、あとスピードを鍛えるいいトレーニングにもなる。

 やはり、気分がいいと体も軽い…!若さのおかげもあって体も思うように……というより、成長途中の娘の身体でよくもここまで動くものだな……我ながら驚きだ。


「だが、今は好都合……!」




 猪に無数に降りかかる斬撃の嵐。次第にそれは強固な白金の体毛を削り、守っていた肉の部分を露わにする。ボアの身体の至る所からは赤い血が滲み始め、徐々にその赤色は体全体を侵食していくようだ。


 そこから何千もの傷を負うこととなったボアは、黒の混ざったような赤に元の体毛の金属光沢も加わって、その姿は少し不気味なものとなっていた。

 だがそんなことはお構いなし。目の前の敵を狩るまで、シルカの戦王剣は留まるところを知らない。

 

 その後、血の流し過ぎにより立つことで精一杯となっていたボア。そしてそんな突如として現れた白金の存在にとどめを刺すため、彼女は再び猪の眼前に立ち構える。それは紛れもない、刺突の構え。


「っぁぁぁあああああああ!!!!」


「ボォッグ!!!! ………グボロロ……ブボォ…………」


 その突きは見事に猪の眉間、その中心に突き刺さり、




 白金の猪の生命活動を、完全に停止させた―――――

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