ダッカ脱出
数日間ダッカ中心街に滞在したが、やはり大気汚染が酷い。朝もやと相まっているらしいので見た目ほどでは無いかもしれない。しかし、マスクはしっかり黒くなる。煤で汚れた感じだ。このままでは、鼻や喉をやられてしまうと、段々まじめに考え始めた。マスクをしたり口に布を巻いたりしてるバングラ人もいる。今回は遠くに移動するつもりはなかったので、大気汚染を避けられる程度の近場にしばらく滞在しようという気になってきた。ダッカ中心街の街歩きで過ごそうと思っていたので、そのための見どころやホテル情報を準備して来たのだが、早くも計画を逸脱し始めた。旅とはこんなものである。ちなみに準備は、ネット以外ではやはり定番の「地球の歩き方」が重宝した。ちゃっかり近くの図書館で閲覧やコピーをさせてもらった。図書館はありがたい。10年前のものではあったがそれなりに役に立った。執筆者の方々に感謝したい。
ダッカ脱出計画のために近郊の都市をいろいろと調べたが、宿事情が良く分からない。そんな時、45kmほど北に国立自然公園があるのを発見した。ここなら空気も綺麗で公園の散策もできそうだ。少し高いが宿は少なくとも一軒はある。そうと決まれば後は交通機関だ。元々遠くに行く気は無かったので長距離バスや列車については全く調べて来なかった。幸い、ホテルのフロントの人は英語が良く出来たので、根掘り葉掘り聞くことが出来た。バングラ人は親切だ。事務的な態度や疎ましそうな様子は見せず、自然体で普通に話しに付き合ってくれる。余談だが、これには北海道で感じる人当たりの良さと共通したものがあると思う。ホテルの人に依ると、長距離バスで行くほどでもなく、ローカルバスの快速の様なもので行けるらしい。料金も安そうだ。バスの行先表示は全てベンガル語なので、分からない。片っ端から止めて聞きまくるしかない。不安そうにしている私を見かねたのか、ホテルの人は私をホテル近くのバス停まで連れて行ってくれた。バス停と言ってもバス停が立っている訳ではないので、一人だとそれすら分からないだろう。そこで交通整理をしていた警察官をつかまえて、「この日本人が○○行きのバスに乗りたがっているので、来たら教えてやってくれ」というような事を言づけてくれた。なんともありがたい。50年前の日本なら、そんなやりとりも街角で見られたのかもしれない、と、ふと思った。
バスは酷い渋滞の中を、やっと終点まで来た。しかし、実はホテルはまだ10km先だ。ホテルの人が言っていたのは、ここからはリキシャだそうだ。バスを降り、リキシャを探して猛烈な雑踏の中を進んで行くと客待ちのバスが何台もいるのを見つけ、ダメ元で国立公園に行くか聞いて回ってみた。果たして目的の公園に行きそうなバスがあったので飛び乗った。ここには十分バスが走っているようだ。結果的にホテルの人の情報は不十分だった訳だが、悪気があったのではない。自分の知っている範囲で真摯に教えてくれた事だ。バングラ人は親切でこちらが黙っていてもいろいろと教えてくれる。しかし、確実を期すなら、2~3人に聞いた方が良さそうだ。
席がすいているので良かったと思ったらなかなか発車しない。東南アジアでもそんな事が良くあった。後ろのバスのけたたましいクラクションに押されて、少し動いてもすぐに止まってしまう。空席が多いと商売にならないので、席が埋まるまで出発しないのだ。15分ほどが過ぎただろうか。やっとバスは出発した。この程度の時間でイライラしていてはバングラを旅などできないと思っているので、私は意外と平気でいた。元々、細かい予定は決めておらず、決まっているのは帰りのフライトだけだ。その日時までに空港に行かなければならないが、それまでは全て自由行動だ。
飛び乗ったバスはちゃんと目的地に着いた。乗る時に確認した料金を支払った。130円程度だ。ちょっと高いと思ったが、リキシャなら2倍以上しそうなので、まあいいかと思っていた。しかしバングラでは、ちゃんと料金表のある長距離バスや列車以外の交通機関は全て交渉だ。この路線の料金もちょっと気になったので、後日バスで呼び込みをしている車掌に料金を確認してみた。すると、65円と言う。半額ではないか。その時は料金の確認だけだったので、バスには乗らず私が「ありがとう」と言って立ち去ろうとすると、車掌は客を逃すまいと、私に向かって「50円!」と叫んでいた。なんたる事か。しかし、ここで驚いてはいけない。その後、実際に乗った帰りのバスは30円だったのだ。つまり、行きでは通常料金の4倍も払っていたのだ。なかなか手強いバングラである。怒りよりも苦笑してしまった。
こうして国立自然公園近くの宿に落ち着いた。少し高く1泊3800円だ。中級ホテルといった所だろうか。朝食付きながらもちょっと贅沢だが、ここしかホテルが見当たらないのでしばらく滞在する事にした。ちなみに、近くにも別のホテルがあるというので行ってみたら一泊7500円だった。道路に面した正門には小銃を持った警備員が2名立っている。高級ホテルだ。
空気は確かにダッカの中心街より遥かに綺麗だ。しかし、まだ少しだけ大気汚染を感じる。ダッカ恐るべしだ。南北に長いメガロポリスであるダッカは、この公園の少し南まで大気汚染をもたらしているらしい。ともあれ、明日は早速公園を散策してみよう。バングラにも少し慣れ、大気汚染から逃れてやっと落ちついた気分だ。今日は、バス料金をぼったくられたのはともかく、無事バスに乗り継いで来られたという安堵感と達成感もあった。知らない国の旅はやはり面白い。




