私の机は異世界に繋がっていました。 プロローグ
私は今でも友達の前だと俺という一人称を使う。社会人になってからは友達や同期の奴に対して以外は、私を使うようになっている。
子供の頃から物をよく無くし怒られていた。無くしたものはすぐには出てこず、数年経ってから出てくることもしばしば。困りそうなものだが常にそうだったので困ることはなかった。
中学の夏休みに思いがけないところから小学校の頃に無くしていたとっておいたはずのアイスの当たり棒が出てきた。駄菓子屋は代替わりせずに無くなり、アイスは販売は終了していたので懐かしいなと思う程度で終わった。
机の引き出しに入れていたはずなのに、押し入れから出てきたのだ。
小学校へ入学した時に買ってもらってすぐに無くし怒られた思い出しかない筆箱は机に置いておいたはずなのに机の引き出しの下から出てきた。作りがつくりなので外からは見つけられない。
父や母、姉からはだらしがないと言われる事もあった。置いておいた場所と違うところから出てくるので納得はしていなかったが、おいた場所を覚えておきなさい、おいた場所を忘れただけと言われる日々が続いている。
そして中学校の時にカバンに入れたものは無くならないと気づき、明日とりあえず使うものはカバンから出さないようになっていた。そして準備も前日にはするようになっていた。不思議と教科書類がなくならなかったのは幸いだった。
社会人2年目の秋、新入社員達もなれ会社に馴染んだ頃、私のデスクから入館入室ID兼社員証がなくなり女子トイレのゴミ箱から発見された。
同階の同僚、社員やスタッフはいじめや女子トイレ侵入など色々調べ監視カメラも見ても原因はわからずじまいであった。
そしてその日以来1日に数件は私の机からものがなくなり、机周辺で物が出てくることがあり、だらしがないと会社では噂が出始めていた。
休憩がてらコーヒーでも飲もうと自動販売機で買って飲んでいると、同期の1人が挨拶しながら話しかけてきた。
「お前の机から無くなったものか知らないけど、こないだ机の周辺に不意に現れて落ちてたぞ、最初は誰かが落としたのかと思ったけど、1人で残業してる時とか物音がしていってみるとボールペンとかメモの束とかがお前の机の所によく転がってるんだよな。」
「幽霊じゃないのかそれ?嫌だな。」
「本当にお前心当たりないのか?」
「な、ないよ。」
「そうか。ならいいけど。」
そして私は気になって来たので、夜に会社に残って様子を見ることにした。
「俺がこうやって待っていても、何も起きないなー。」
1週間がったった時に、同僚の席で待ってみるかと思い至って、同僚の席で数日間粘っていると、「バサ」友の音が自分の席の方から聞こえて来た、最初はゆうっりかとか呪いのなビデオ見てないぞとかも思ったが、なんの為にここで俺は待っていたんだ!と自分に喝をいれ向かった。
「あれ、このレジメ昨日無くして印刷し直したやつ。」
な、なんでこんなところに?さっき机の上には物は置いていなかったはずだ。
何かないか、確かめる方法は。
次の日上司に確認をして監視カメラを自前で設置してから帰ることにした。数日後カメラが届いたので、とりあえず自分の机に置いてみる。1週間したが何も出てこない。
後ろの先輩にお願いして置かせてもらったが1週間何も出てこなかった。
同僚の最初に教えてくれたやつにも頼み込んで3日目、不意に空中から蛍光ペンが現れたのだった。
同期のやつに見せたら驚いていた。
「なんだこれ!?」
「だよなこれどういうことだろう?」
「いや、いやいやわからん。なんだこれ?」
紛失頻度も出現頻度もわからない。でも実際に起こっている。家でも録画してみるか、でもひろがさ足りないか?とも思って隣の人にお願いしに行ってみてっと。
幼馴染だが最後に遊んだのは成人式の時でその時からはまた疎遠になっていたが、電話番号は変わっていなかったようなのですぐに連絡が取れた。
「これ見てくれないか?」
「ん?」
「何これ?手品か?」
「俺の会社の机で、退社してからずっと朝まで録画してた動画。」
「まじで?」
「うん。まじ。」
「やばくね?」
「だから頼みがある。」
「待て待て、小学校の頃よく物なくしてたよな?」
「うん。」
「それってこれか?」
「だと思ってる。」
「まじか。」
「そう言うのも出てくる事もあるんだ。」
「たとえば、アイスのあたり棒とか。」
「あ、あの時約束破った時お前が無くしたって言って喧嘩した時のか?」
「それだと思う。」
「最近か?」
「いや、中学か高校の時だよ。」
「そうか。あの駄菓子屋潰れたもんな中学に上がった頃に。」
「そうだな。」
「じゃあカメラあるなら渡せば明日録画してから仕事行くわ。」
「ありがとう、頼んだ。」
そしてそいつの部屋に監視カメラを置いてもらうことになった。
帰って来て動画を確認する。
「何もないな。ただ日が暮れただけだな。」
「うん、そうだね。あ、ちょっといい?」
「いいぞ、お前のだしな。」
「動画編集ソフトでっと。」
「え?お前そんなの使えんの?」
「まあ、多少ね。」
「すげーな。」
「これでっと、音の変化があるところだけ見てみる。」
「おう。」
ごーーーー
「これ飛行機だな。」
ピーポーピーポー
「救急車か。」
「じゃあ次これは?」
ドサ。
「なんだ?」
「なんだろう。」
「ドサって聞こえるよね。」
「外の音も色々混じってるけど。」
「家に帰ったか?」
「いやまだ、動画気になってそのまま来たから。」
2人で俺の家に入る。
「ただいま。」
「お帰りなさい。あれ?」
「お邪魔します。」
「あら、お久しぶり、お元気?」
「ご無沙汰してます。」
「随分と立派になったわね。今仕事どちらにお勤め?」
「ああはいはい、お母さん、ちょっとその辺の話は後にしてくれる?急いでるからごめん。」
「いいじゃない、たまにしかこないんだから。」
「すいません、俺もちょっと気になるんで先に部屋行きますね。」
「え?気になるって遊びに来たんじゃないの?」
「後でこいつが説明すると思うんで。」
2階に2人で上がると朝は机になかったはずのポケットサイズのノートが机の上にあった。
「行く前には確かおいてなかったはず。」
「うーん。すげーな。で、どうなってるんだ?」
「いやわからないけど、これ俺が高校の時に友達の電話番号とかメモってたやつだ。」
「昔のか?」
「うん。どうも俺の机で無くしたものは数日から数年のうちに、基本的には俺の机周辺から出てくるみたいだ。」
「おお、で、なんで基本的になんだ?」
「アイスの棒の話はさっきしたよな。あれは押入れから出てきたんだ。だから基本は机の中からは引き出しの下とか机の上とかなんだけど、たまに別のところから出てくることもあって。」
「そうなのか。」
「こないだなんか、社員証兼入館入室証が女子トイレのゴミ箱から出て来て大変だった。」
「お前は入ったのか?」
「それ、実際疑われたし。」
「そそうか、わり。」
「で、俺の机でものがなくなると、俺の机周辺で物が不意に現れる。んだと思う。」
「無くしてなかったって事だな。よかったな今更だけど。」
「今でも無くなるからすぐにカバンに入れたり極力出さないようにしたりしてるよ。」
「大変だなお前も。あれ?カバンにってどういうことだよ?」
「中学の時カバンに入っているものは無くならないって気づいてさ、それからはだいぶ減ったと思うけど。」
「ああ、それでかなんか忘れ物の噂減った気がしたけど。」
「うん、それでも時々あったから。」
「だな。」
「でも助かったよ。これで色々スッキリした。」
「よかったよ。でもスッキリしてもどうにもならないな。」
「だな。」
その夜、夕食後に風呂に入っていると不意に机周辺はどこかに繋がっている気がしてきたのだった。
―――――――
エピローグ 終
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