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8.メイド男爵、砦ちゃんから「ゆりゆり」ボーナスをもらうも、なにこれ状態



「あれってレッドゴブリンですよ! 囲まれてるし、もう逃げられないようですね。ど、どうします!?」


 外にいたのは赤い色の皮膚をしたモンスター、レッドゴブリンというやつだった。

 サイズは人間の子供ぐらいで、サルっぽい見た目。

 ゴブリンの中では凶暴なモンスターだとのこと。

 とにかく数が多くてしつこくて、一度、恨みを買うと徹底的に攻撃してくるらしい。


「ぎきゃ、ぎきゃ、ぎきゃああ!」


 しかも、そのうちの一匹と目が合ったのだが、何が嬉しいのか小躍りしてる。

 邪悪な笑みが怖すぎるし、捕まったら絶対にタダじゃすまない。

 奴らの目論見は鬼畜の所業であることは間違いない。


 やだやだ、どうしよう。


「お願い、神様、砦様! どうにかしてよぉおおおっ! ステータスオープン!」


 こうなったら神頼みならぬ、砦頼みである。

 さっきはぎりぎりのところで助けてもらったのだ。

 今回もとびきりの武器で追っ払ってくれるのではないだろうか。


 なんとも情けないことを考えながら砦の画面を呼び出すと、こんなことが浮かび上がっていた。


---------------------------------------------------------------


【サラ男爵の砦ちゃんのステータス】 


 ランク:ただのメイド砦(最下級)

 素材:頑丈な岩

 領主:サラ・クマサーン

 領民:1(変なの来た)

 武器:なし

 防具:なし

 特殊:なし

 シンクロ率:6%(ざこ)


『領民獲得記念! ゆりゆりすると、いずれかのボーナスを選べます。


1.けんろう


2.のびる


3.かがやく』


---------------------------------------------------------------


 「変なの来た」とか、「ざこ」とか、言いたいことはいっぱいある。

 だけど、今はそんなことよりも命の方が大事だ。


 私たちの目はとある文字に注がれていた。


「領民獲得記念で、ゆりゆりすると、ボーナス……!?」


 なんということでしょう。

 砦がふざけた条件で正体不明のボーナスをくれるというではないか。


「ゆ、ゆりゆりすればボーナス!?」


 マツは口を半開きにして怪訝な顔をする。

 いや、私に聞かれても困る。

 すべてはこの変態砦の勝手な言い分なのである。

 私じゃないよ。


「なんかわかんないけど、そう書かれてるっぽいね。バカみたいだねぇ、たはは」


 私も口を歪めて半笑いをする。

 こっちだってふざけた要求だとしか言えないわけで。


「……メイドさん、死ぬより砦の要望に答えましょう! わ、私、嫌じゃないですし! ゆりゆりするフリでいいんですよね? ゆりゆりしても死ぬわけじゃないですよ!」


「そ、そりゃあ、フリでいいとは思うけどさぁ」


 しかし、マツは私が思っていたよりも割り切った女だった。

 彼女は真剣な顔をして、砦の要望に答えようと主張する。

 確かに死ぬよりはましだよ、ゴブリンに襲われたらそりゃあ酷い目に遭うに違いないし。


「それに、私、ぜんぜん、チョロい女じゃないんでっ! メイドさんごときになびいたりしませんっ! 私の理想はすごく高いんです!」


「メイドさんごときって失礼だよ、それ! 私だって、理想は高いもん!」


 マツは気合の入れ方を間違えたのか、大分失礼なことを言う。

 こう見えても、私、メイド学院時代は同性からも人気があった。

 鬼のように優秀な先輩メイドとして後輩を震え上がらせていた記憶もある。


 ……いや、あんまりいい人気じゃなかったかも。


 とにかく!

 こうなったら、私の実力を見せつけてあげるわ。

 売り言葉に買い言葉みたいな感じで盛り上がる私である。


「わ、わかった。え、えーと、どうすればいいんだろ、私、そういう経験ないし」


「私もですけど」


 命の危険が迫っているというのに頬を赤らめる私たち。

 くぅうう、バカだって分かってるけど、これしか選択肢がないのだ。


 ゆりゆり。

 その言葉だけで、私の頭の中に様々な選択肢が浮かぶ。

 手をつなぐとか、髪を触るとか、もちろん、それ以上のことも。

 とはいえ、いきなり「さぁやって下さい」と言われてやれるものでもない。

 相手が男じゃないだけまだマシだろうか。


「メイドさん、そちらから、お、お願いします! 私、平民ですからっ!」


 マツは目をつぶって全てを受け入れますみたいな顔をする。

 閉じられた目の端っこには涙が光っていた。

 羞恥心のせいか、少しだけふるふる震えている。


 ぐぅむ、それじゃこっちまで恥ずかしくなってくるじゃん。

 そもそも、貴族だとか平民だとか、この際、関係ないんじゃないだろうか。


 し、しかし、どうすべきなんだろうか?

 ちょっとだけ、それっぽいことをすればいいのだろうか?


 まぁ、女の子同士のボディタッチはそんなに不思議なことでもないよね。

 

「ま、参らせていただきます……」


 私はなぜか敬語になりながら、背伸びをしてマツの髪の毛を触る。

 さらさらの髪の毛は絹のように細くて、心地いい。

 うなじの方は少しだけ汗ばんだ感覚。


 マツは顔を赤らめながら、「ひゃう」とだけ言ってぶるぶると震える。

 体つきが大きいのに、小さな子どもみたいだ。

 そのリアクションはすごく新鮮で、かわいくさえ映る。

 私の中の嗜虐心みたいなのが少しだけ……刺激されるのを感じる。


 私は彼女のほっぺたも触ってみることにした。

 小動物が震えてたら触りたくなるでしょ。

 そういう感じである。

 だ、断じて女の子が好きとかじゃなくて!


「ひ、ひゃっ、そ……こ……ダメです」


 マツのほっぺたはぷにぷにだった。

 吸いつくような肌なのに、きちんと弾力があって、楽しい触り心地。

 かわいいなぁって思う。

 

「メイドさんは意地悪です。もっと優しくしてくれると思ってたのに……」


 フニフニ触っていると、マツが責めるような目をする。

 眼鏡の奥の瞳は涙で潤んでいた。

 頬を赤らめたままそんなこと言われると、もっと意地悪したくなるというか。

 胸の奥にジワリと新しい感情が湧いてくる。

 

 顔が少しだけ熱くて、胸がドキドキと痛い。

 ええい、これは違うんだ。

 緊張してるからだよっ、うん!


「だってかわいいし……」


 素直な、これは素直な感想だった。

 こうして私が触っている時のマツはすごく素直でかわいかった。

 自分だけが彼女を独占しているかのような錯覚というか。

 とにかく、私だけの何かを見つけたような気がした。


「そ、そういうのが意地悪なんです」


 彼女の恨みがましい目で私を見つめる。

 少しだけ汗ばんだ額は温かくなったからだろうか?

 

 私はそれをなぜか嬉しいって思った。


「そうかな?」


 私はマツの形のいい唇を見つめる。

 ぷっくりとした唇、それは思った以上にエロいというか。

 いや、別にマツを性的な目でみてるわけじゃないからね。

 ただただ、客観的な事実を言ってるだけで。


「ん……やだぁ……」


 ただただほっぺたをなでなでしているだけなのだが、マツの声はだいぶ色っぽいものになっていた。


 あんた、すごいチョロいじゃん!?

 心のなかで思わず突っ込んでしまう。


 マツのことをもっと困らせたいっていう感覚が降って来た自分自身にぞくりとする。

 私ってそういう人間だったんだろか。

 あああ、まさかこんな時に開花するなんて。


 これ以上続けるとなると、キスするしか……。

 でも、さすがに唇にキスするわけにはいかない。

 ファーストキスは大切な人のためにとっておきたかったから。


「マツ、これからもよろしくね……」


「うひゃ」


 私はマツをぐいと引っ張ると、その頬にキスをした。

 マツのほっぺたはすごく柔らかくて、ふわふわのパンみたいだった。


「メイドさん、今のは!?」


 私の国では親愛の感情を伝えるときのキスであるが、マツは頬を押さえてびっくりしている。


 だからこれは別にゆりゆりとかではないっ!

 普通のスキンシップなのである!


「で、でもぉ、びっくりしますよぉおお」


 マツはへなへなとその場に座り込む。

 ちょっと驚かせ過ぎたかもしれない。

 ごめんね。



『ごちそうさまでした! 腹八分にしてあげます!』


 時間にして三十秒ほど経っただろうか。

 突然、砦の中に声が鳴り響く。

 女子っぽい声で。

 

「うおおい、砦、あんた、女だったのかよぉ!」


 思わず叫んでしまう。

 ちっきしょう、この砦、とんだ変態だよ。

 腹八分って何さ、そもそも。

 

「メ、メイドさん、そんなことより、今はボーナスですよっ! ゴブリン来ちゃいます!」


「そうだった!」


 マツは私よりも冷静らしいと思いきや、耳は真っ赤なままである。

 そりゃそうだ、こっちだって目を合わせられないし。

 うわぁああ、さっき、私、マツのこと大分、変な目で見てたよね。

 恥ずかしい。


「三つの中から選ばなきゃだよねっ!」


 気恥ずかしさをかき消すように、大声を出す私。

 

 ボーナスには三つの選択肢がある。

 「けんろう」って、堅牢ってことだよね?

 「のびる」と「かがやく」はそのままの意味っぽい。


 普通に考えたら、堅牢一択に決まってる。

 頑丈な要塞になれば、閉じこもっていればいいわけだし。

 ゴブリンが攻めあぐねて飽きるのを待っていればいいのだ。


「決まりだね!」


「決まりですね!」


 私がマツの顔を見ると、彼女はコクリとうなづいた。

 そりゃそうだよね、ここは「けんろう」一択だよね。

 まともな頭を持ってたら、迷う余地なんかないよね。

 

 それに、先ほどの恥ずかしい出来事で少しは距離が縮んだ気もする。

 以心伝心と言うか、言わずとも分かるというか。


「それじゃ、けん……」


「のびる、キミに決めましたっ!」


 だが、しかし。

 私の領民一号との意思疎通は一切できていなかったのだ。

 マツのにゃろうはあろうことか、一番使えなさそうな「のびる」を選択。


 バカなんじゃないの、この子!?

 いや、バカだけどもぉおおおお!?


「えへへ、やっぱりのびるですよね! だって、この砦、動くってことですよ!? デュフフ」


「このバカツナギ女ぁあああ!」


「ひえぇええ、なに怒ってるんですか!? ひぐぐぅ」


 この期に及んで、ふざけた選択肢を選びやがったので、とりあえず首を絞める。


 いや、客観的に見て悪いのは私だ。

 この子がアホの子だっていうのは、なんとなく分かっていたはずなのに。

 さっきの一件で心まで通じ合えたと思えた私がバカだった。

 私のばかばかばかばか!


「ちょっとぉお、キャンセルぅうううう! 砦ちゃん、今のは冗談だよぉおおお!? エスプリの効いたやつぅううう!」


 魂の叫び。

 だがそれもむなしく、画面には以下のように映し出される。


『了解しました。のびます』


 マツの言葉を聞いた砦は青い画面にそんなメッセージを出す。

 このバカ砦、何で、冷静に命令を聞いちゃうわけよ!?

 そもそも、私が主だって話だったじゃんよ。


「伸びるって何なのよぉおおお!?」


 狭い小部屋に私の叫びがこだまする。

 

 次の瞬間。


 ごごごっごごごごっごごごごごごっごご……。


 地震のような振動が私たちを襲う。


「ひきゃあああああ!?」


「う、動いてる! この砦、動いてりゅうううううう! すごひっ!」


 あんまりにも恐ろしいのでマツに抱きついてしまう私。

 マツはと言えば、興奮しているのか変な声をあげる。このバカ女!


 ひぇええ、何が起きてるの!?

 これが伸びるってことなの!?

 一体全体、どこが伸びているの!?


 その後、十秒ほどたつと轟音と振動はぴたりと止まる。


「お、終わったのかな?」


「ひへへへ、私を収納したまま動いてりゅううう……。はぁはぁ、私としたことが取り乱してしまいました、えへへ、ちょっとびっくりした」


 私はすぐさまマツから離れる。

 この変態といつまでも抱き合っているわけにはいかない。

 そうだよ、まずするべきは現状把握だ。


 優秀な男爵様はそこらへんが違うのである。


「うわ、マジ!?」


「ひぇえええ!?」


 そして。

 窓から外を眺めた私たちは驚きの声をあげる。

 砦が高くなっているのだ。


 これまでは地上二階建てだったのが、四階建てぐらいになっている。

 伸びるって、こういうことだったのか。

 これって悪いことじゃないかもしれない。


 砦の窓には鉄格子がついているし、扉はさっき補強した。

 ぬはは、塔みたいに高くなれば登ってこれまいよ!


「すごいよ! お城みたい!」


「なかなか高いですよ!」


 屋上に上った私たちは見晴らしのいい景色を楽しむ。

 青い空にはお日様が上り、ゴブリンの襲来なんて忘れてしまいそうだ。


 後は連中が諦めるのをのんびり待てばいいさ。

 あはは、のびるも案外、役に立つ!

 

「ん? なんだかチクチクするんだけど……」


 ふぅと安堵の息を漏らした時のことだ。

 唐突に私の体がチクチクし始めるのだ。

 なんというか、ちっちゃい虫が張り付いている感覚と言うか。

 恐る恐る服の内側に手を入れてみるも、もちろん、何の異常もなし。

 

「何やってるんですか、メイドさん。オーバードーズですか? 肌に虫が這う感覚ってもろにソレですけど?」


「んなわけあるか! 私は品行方正メイドで通ってるんだからね!」


 私が違和感を訴えると、マツは突拍子もないことを言ってくる。

 言っておくけど私は秩序側の人間である。

 不良たちみたいに魔法薬を乱用することなんてないわけで。


 じゃあ、一体、このちくちくは何なのよ!?

 

 ……ん、次第に体がべたべたしてきた気がするんだけど!?



「あわわわわ、連中が登って来てますよ! ほらぁあああ!」


 マツが砦の屋上の縁から下を指さして、大きな声で叫ぶ。


 恐る恐る覗き込んでみると、あろうことか砦の外壁を登ってくるゴブリンを発見。

 ひぇええ、わずかな突起を利用して這い上がってくるなんて、木登り名人とかいう次元じゃない。


 しかもかなりの数のゴブリンが登ってきている。

 砦のモノを投げたとしても、全部を撃退できるかは分からない。


 ひぇええ、これどうすんのよっ!?

 私とマツは顔を見合わせるのだった。



「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「チョロいマツだった……!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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[良い点] 海野先生のゆりゆりだ! ありがとうございます! ありがとうございます!
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