40.メイド男爵、新婚ゆりゆりする!
「さぁ、メイドさん、邪魔者は消えましたよ?」
それは壁ドンと言うやつだった。
マツはいつになく好戦的な瞳で、私の頭のところにどんっと手をついたのだ。
なんて奴!
誰にもしてもらったことないのに。
そもそも、マツは私よりも身長が高いのだ。
少し見下ろされた姿勢で見つめられるのは弱いというか。
「あっははー、そ、そうだね。いや、ちょっと落ち着こう、ひゃっ!?」
私は守備態勢に入る!
必殺、はぐらかしの術!
しかし、マツはその鉄壁を解いて、私の顎をくいっとあげる。
慌てて、逃げようとすると、何て言うことでしょう。
この子、いきなり首元にキスしてきやがった。
予期せぬ攻撃にびくっとなってしまう私。
しかも、しかも。
この女、キスをしたまま、すんすんと鼻を鳴らすのである。
「メイドさんって、いい香りですよね。お花みたいな」
マツは眼鏡の奥をぎらりと光らせて、いたずらっぽくそう言った。
ヒィいい、何こいつ、鬼畜メガネだったの!?
自分が攻められるときは、ぷるぷる震えてるくせに。
そっちのサイドだとすごく強引。
自分のにおいを実況中継されるのはすごく恥ずかしくて。
私は耳まで真っ赤になっていると思う。
「ば、ばか、普通だってば! って、においかぐなぁああ!」
恥ずかしさも相まってマツの体をぐいっと押しのけようとする私。
しかし、壁ドン態勢ではなかなか難しい。
やばいよ、このままじゃマツに落とされる。
メイメイが帰ってくるまでの間にとんでもないことが起きちゃう。
「強がらないで」
「あふっ」
マツはまるで私の唇をふさぐようにキスをしてくる。
遊び慣れた女の子みたいに自然な素振りで。
彼女の眼鏡が少しだけ肌にあたる。
その感触さえも、私の心を乱すには十分で。
「ごめんなさい。当たっちゃいましたね?」
マツはそう言って眼鏡をはずし、いたずらっぽく笑う。
だけど、その瞳は肉食獣そのもの。
わ、わ、私、捕食される側だったんだ!?
「さぁ、もう一度……」
眼鏡をはずして、野獣モードに入ったマツが唇を近づけてくる。
憐れな私はそれを避けることさえできない。
「ふぁ……」
「んむ……」
次のキスは強烈なものだった。
マツは私の唇を舌でこじ開けると、そのまま私の舌を蹂躙する。
舌が絡み合うだけで私の意識はどこかに飛びそうになる。
やばい、まずい。
頭の芯までぼーっとしてくる。
二つの唇が奏でるのは、ぬちゃ、なんていういやらしい音。
お互いの熱い呼吸が触れ合って、さらに興奮を掻き立てる。
女の子どうしでこんなこと、まずいことだって、頭ではわかっている。
「メイドさん、柔らかくて好き……」
それなのに私はマツのハグに応えてしまっている。
彼女に抱きしめられると、不覚にも涙が浮かんできそうになるというか。
それにしても、胸の圧迫がすごい。
マツの胸、本当に大きいんだなぁとか、そんなことを思ってしまう。
「ふふ、少しだけ上の空ですね?」
「んにゃ!?」
私がマツの胸のことを考えていたからだろうか。
彼女は私のお尻の方に手を伸ばしてきたのだ。
腰を通り越して、お尻に手をかけやがった。
当然、普段なら払いのけるところ。
それなのに、それなのに、私はむしろ足腰が立てないぐらいふるふるになっていた。
うわぁあって手をつきだせばいいのかもしれないけど、そんなことをしてもいいのか分からないのだ。
私は本格的に気づく。
こうやってマツに迫られるのが嫌でもないってことを。
それに、下手に突き飛ばして胸を触っちゃっても悪いし……。
悪い?
いや、悪くはないよね?
だって、その、一応、新婚ゆりゆりのふりをしなきゃいけないんだもんね。
そもそも、この間、体を洗った時にはいやらしいことはなるべく考えないようにしていたのだ。
今回は……違う!!
「えい」
深いキスがひと段落したとき、私は眼前につきだしたマツのお胸を両手でぎゅっと持ち上げた。
なかなかの重さとしっかりした弾力。
衣服越しだからこそ感じる、充実感と申しますか。
ぐむにゅにゅっとした感触は私のそれとは大違いだった。はわぁあ。
「ひ、なにゃ、にゃあっはーっ!?」
さきほどまでドS眼鏡を演じていたマツは私の攻撃に一発で撃沈。
胸元を押さえながら鼻血を吹いて倒れてしまった。
あわわわ、刺激が強すぎた!?
『いい! 実にいい! 砦ちゃんは感動した! 満点だよっ、君たちは! 世界の王者にしてあげるっ!』
ついで砦ちゃんのふざけた声が砦に響く。
何を感動してるのよ、このバカ。
私がマツを介抱していると、メイメイが牛型のモンスターを狩って見事に帰宅。
よし、今夜はステーキだ!
さっきのことなんか忘れるぞっ!
私は両手に感じる、どぉむっとしたあの柔らかさを一生、忘れることはないだろう。
マツ、あんた、肩こりしそうだね。
私、肩こりしないなぁ。
◇
『ゆりゆりありがとうボーナスを実行します』
あくる日、私たちはボーナスを実行してもらうことにする。
ゆりゆりのリターンを得なきゃ割に合わないよね。
砦がごごごごごと揺れ始め、それから床が動く感覚。
たぶん、きっと潜ろうとしているのだ。
この砦、一切の躊躇というものがない。
「ひぇえええ、窓の外を見てください! 地中にいますよ、私達!」
マツの指さす方向にはいつもの殺風景な鉄格子の窓。
しかし、外の風景は真っ暗になっていた。
近づいてみると土である。
つまり、これが「潜る」ってことらしいけど、一体、どんな原理なんだろう。
まさか閉じ込められたわけじゃないよね?
「屋上から出られるみたいですよ!」
メイメイの一言で私の心配は取り越し苦労に終わる。
どうやら、屋上に続く扉に仕掛けがしてあって、そこから外に出られるようだ。
あぁよかった。
私、閉じ込められるのとか絶対に嫌なんだよね。
「ひょえぇえ、砦がなくなってますよ! あんなに大きいのが動いたんですよぉぉおお!」
外に出てみると、砦のあったはずの場所は完全な草ッぱらになっていた。
つまり、砦が見えなくなったのだ。
マツは砦が動いたというだけで変態じみた声をあげる。
彼女はごろりごろりと草原を転がった後、おもむろに立ち上がる。
そして、ほとんど無表情とも言える顔でこう言った。
「……あれ? 潜っただけで、浮かんでこないってことないですよね? 出口見つからないですけど」
「ははは、そんなわけあるわけな……、ってうっそぉおおお!? 誰だ、潜るなんてボーナスにしちゃったの!? 私だ! 私のバカぁああ!」
そう、あたりを見回しても、出入り口の痕跡が一切分からない。
これってつまり砦が完全に埋まったってこと!?
私が潜るなんてふざけた選択肢を選んだばっかりに何てこったい。
「大丈夫ですよっ! 掘ればいいんですよ!」
メイメイはそんなことを言うが、穴掘りはメイドの仕事じゃない。
したがって、非常にキツイ肉体労働が待っていることになる。
そもそも、砦の中にはこれまで集めたたくさんの素材があるのだ。
私たちが寝泊まりする場所も。
「砦ちゃん、お願いだから、浮かんできてぇええ」
すがるような気持でそう言うと、目の前に青い画面が現れる。
そこには『了解しました』と表示されていた。
どごがががががが!
「うきゃあああああ!?」
「ひきゃああああああ!?」
そして、気づいた時には、私たちは地上数メートルの高さにいた。
いきなり砦がせりあがってきて、私たちごと持ち上げたのである。
ひぃいいい、やることなすこと、突発的だよ、砦ちゃん。
「大丈夫ですかぁあああ!?」
下の方では砦ちゃんの進撃を間一髪で避けたのか、メイメイが心配そうな声をあげる。
大丈夫は大丈夫である。
マツはびっくりしてへたり込んでいたけど。
そして、私はあることに気づく。
青い画面に次の表示があったのだ。
『また潜りますか?』
そう、この砦、潜ることができるらしいのだ。
前回の「伸びる」の時には一回こっきりで終わったけれど、今回のは何度もできるっぽい。
これって……!!
「うひぃいい、すごいじゃないですか! 完全にカモフラージュできますよっ!」
そう、マツの言うとおり、砦を安全に隠すことができるのだ。
無人状態にしていても、誰にも見つからないだろう。
私とマツとメイメイの三人でお出かけするってことも可能だ。
「これなら、みんなで王都に行けるよ!」
「やったぁ!」
「都会の街は初めてですっ!」
私たち三人は飛び上がって喜んだのだった。
村暮らしのメイメイはそれはそれはとっても喜んだ。
「王都に出発する準備をしましょう! 素材をかき集めて、ぼろ儲けですよっ!」
マツは倉庫に入って素材をまとめ始めた。
「ふーむ、この素材があれば面白いものが作れそうですね……。ちょっと外で工作してきますねっ!」
マツはいくつかの素材を眺めると、外へ出て行くのだった。
穴を掘ったりしているみたいだけど、何のためだかはわからない。
ま、いいか。
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