39.メイド男爵、新婚ゆりゆりする?
「お師匠様! すごいです! 人がいっぱいいますよっ!」
飛び跳ねるメイメイ。
その周囲には煌びやかな都市の風景。
そう、私たち三人は今、トルカ王国の王都にいる。
砦を捨てたのかって?
まさか!
ふふふ、これは数日ほど前にさかのぼるのだ。
◇
「これからの計画だけど、まずはうちの女王様に会ってこようって思うんだよね。この間みたいに不埒ものが現れたりするし、しっかりお墨付きをもらわなきゃ!」
お風呂が完成し、きれいさっぱりした私たちはこれからの方針を話し合う。
私が提案したのは、うちらの国の最高権力者である女王様にお会いして、私のことを正当な男爵として認知してもらうことである。
女王様に認めてもらえれば、ガラの悪い連中も近づかないだろうし、村人たちだって増えるはずなのだ。
マツとメイメイには悪いけど、お留守番をしてもらおうと思っている。
「うーむ、メイドさんだけが王都に行くんですか? 男爵を自称する痛いメイドが現れたってことになりませんか?」
「痛いメイドって言うな!」
マツは私の提案に乗り気ではないようだ。
確かに今の私の服装はただのメイドである。
しかし、だよ。
ここ最近のモンスターの討伐で売れる素材はたくさんあるのだ。
それこそ王都で男爵様にふさわしいドレスを買えばいいじゃない。
ふふふ、煌びやかなドレスに身を包んだ私を見て、他の貴族はこういうのだ。
『うひゃあ、すごい美女だ!』
『う、美しい! ぜひ、同盟を結んでください!』
社交界デビューできなかったのもあって、私は完全に無名のはず。
王宮に現れた日には貴族の皆さんの目は釘付けになってしまうかも。
女王様より目立つ可能性もあるよねぇ、ふくくくく。
「あのぉ、妄想中、申し訳ないですけど、素材の扱いってメイドさんにできるんですか?」
私の素晴らしい空想を引き裂くかのように、マツが鋭い指摘をしてくる。
素材の扱いですって?
そりゃあ、私はメイドですよ。
できるわけない。
でもまぁ、ギルド的なところに持っていけば、ぽぽいと鑑定してくれるんじゃないの?
「はぁ、甘いですねぇ。何の準備もせずに持ち込んでも盗品だと怪しまれて購入してくれなかったり、二束三文で買いたたかれるのが落ちですよ? これだから素人は」
マツは口をとがらせて、素材の扱いについて説明し始める。
嫌みったらしいがおそらく本当のことなのだろう。
「うふふ、妻として当然の仕事ですっ!」
え、ちょっと待て、いつの間にか妻になったらしいぞ。
ああぁ、そう言えば、この間、やんわりと釘を刺すの忘れていた。
ぐぅむ、どうしようかなぁ。
マツをつれていくことになると困ったことが起こるのだ。
「えぇええ、私一人でお留守番ですかぁ!?」
無言のままメイメイをちらりと見やると、彼女は非難がましい声をあげる。
「うーん、それはそれで困るよねぇ」
そう、メイメイを一人残していくのはそれはそれで危険なのだ。
彼女は腕っぷしは立つけれど、まだまだ子どもだ。
砦の備品をぶっ壊す可能性が大ありなのである。
お風呂の蛇口を壊して砦中が水浸しなんてことになるかもしれない。
「とはいえ三人で行くってわけにはいかないしなぁ」
腕組みをして悩みに悩む。
この砦をすっからかんの状態にして出て行くわけにはいかない。
前回みたいな盗賊集団がいつ現れるかわからないからね。
せめて、カムフラージュできるものとかあればいいんだろうけど、この砦はそれなりに大きいし、リボンやヘッドドレスのおかげで大変目立つ。
普通に考えて隠すなんてことは難しいだろう。
そうなると、私一人で行く?
でも、それじゃお金が手に入らないし……。
「あっ、メイドさん! 画面の表示が変わってますよっ!」
私が腕組みをして唸り声をあげている時だった。
マツが高い声をあげて、私の手を引っ張った。
そう言えば、砦ちゃんの例の画面は計算中のまま放っておいたのだ。
計算とやらが終わったのだろうか。
さっそく青い画面を呼び出すと、そこにはこう表示されていた。
『新婚ゆりゆりすれば、以下のいずれかのボーナスを選べます。
1.もぐる
2.ひび割れる
3.苔むす
※頑張れば、いつでも操作可能』
「は? なにこれ?」
砦の提案したボーナスはわけのわからないものばかりだった。
特に、2と3は難解と言うか、悪意すら感じる。
一切のメリットを感じられない。
そもそも、新婚ゆりゆりって、今までのゆりゆりとどう違うんだろう。
そりゃあ、結婚してれば多少の……なんだ、その……色々あるだろうけど。
「ど、ど、ど、どうしましょう!? わ、私、そっちの方面、全然ダメで! あ、でもでも、やれと言われればやりますよ、任せてください。愛するメイドさんのために、どかんと頑張りますよ、二人の寝室を作りますか?」
マツはわけのわからない妄想にとりつかれ、ひっひっふーと息を吐く。
この子、思い込みがすごいと思っていたが、もはやここまでとは。
いや、顔はかわいいし、頭も優秀なんだよ。
私の砦を解明するのに不可欠な人材なんだよ。
だけど、新婚ゆりゆりって、その、なんだろ、ハードル高すぎない!?
てか、寝室を勝手に作るなっ!
「ま、ま、まぁ、そんなことよりどのボーナスを選ぶかですよ、今は! 待ちきれないのも分かりますけどっ!」
「ちげぇし、そんなんじゃないし!」
マツの勘違いがあんまりにも酷いので、ちょっと強めの口調で突っ込んでしまう。
ええい、話が進まない。
問題はこのボーナスを得るために、ゆりゆりするのかどうかってことだ。
そもそもの本当に欲しいボーナスなのか分からないし。
「ぐふひぃ、いいですねぇ! メイドさん、ここはもう三番目の苔むす一択ですよ! 古代遺跡っぽくていいじゃないですか!」
微妙な表情の私とは対照的に、マツは三番目の選択肢を連呼。
しかも、その理由はただの見てくれの問題である。
言っとくけど、砦の外壁は私がピカピカに磨き上げているのだ。
古代遺跡のロマンはわかるけど、苔一つつけたくはない。
「いやいや、ひび割れる方がいいですよ! これってつまり、殴ったら割れるってことですよね? 面白いじゃないですか!」
一方のメイメイはさらに混迷の深まることを言い出す。
何かを殴って割りたいとかそういう発想自体がわからない。
本人は明るい顔で「何かを殴るとスカッとしてストレスが飛ぶ」とか危ないことを言う。
そもそも、あんたにストレスなんてものがあるのかね。
「……『もぐる』しかないじゃん」
結論として私が選んだのは一番目だった。
っていうか、完全に消去法。
他の選択肢がアレすぎただけである。
「でぇええ!? もったいないですよ! 苔むした砦を四足歩行させましょうよ!?」
「砦を殴るなって言われたら、何を殴れって言うんですか!?」
抗議の声をやいやいある二人は完全無視。
メイメイ、あんたは別のものを殴りなさい。
砦はダメ、ゼッタイ!
それに、私の勘が確かならば、地中に潜ることで砦を隠すこともできるだろう。
「なるほど! メイドさんにしては理知的な答えです!」
「お師匠様って、やればできる人なんですね!」
マツとメイメイは拍手をして褒めてくれるけど、本当に褒めてんのかそれ。
しかし、だよ。
このボーナスを得るためには新婚ゆりゆりをしなきゃいけないわけで。
なんなのよ、その新婚って。
私の国って女同士で結婚できたのかしら。
そもそも、メイメイがいる場所でそんなことできないよ。
子どもの教育上、絶対に良くない。
「メイメイ、そう言えば、さっき、ベヒーモスを見かけましたよっ! 今日はステーキがいいですね!」
「本当ですか!? さっそく、狩ってきます!」
私が腕組みをして考え込んでいると、マツはさくっとメイメイを外に出してしまう。
くっ、この女、なんて仕事が早いのかしら。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「メイメイ、タイミングよくいなくなる……!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




