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38.メイド男爵、とびきりのボーナス頂きますっ!




「いやぁ、変なのが来て大変だったねぇ」


 盗賊団が去った次の日のこと、私は再び立て看板を設置した。

 そう、領民募集の立て看板である。

 メイメイが調子に乗ってぶっ壊してくれたやつである。


「お師匠様、申し訳ございません! メイメイは自分の力を示したかったのです! ついやっちゃいました! てへへっ、またやるかもしれませんっ!」


 メイメイは舌を出して、「てへっ」と笑う。

 言葉と態度の端々に見える舐めた態度。

 この子、再犯するだろうなという疑念が確信に変わる。


「男爵! リボンとヘッドドレス、新しいの作っておきましたよっ! ついでに旗も!」


 マツはというと、あの女に破壊されたものを一式作り直してくれたとのこと。

 旗まで修復してくれたのは、本当にありがたい限り。

 

「あ、あのぉ、旗が二つになってるんですけど?」


 しかし、不可解なのは私の家の旗だけではなく、見覚えのない旗が加わっていることだ。

 歯車のマークっぽいやつである。


「あれは私の実家の魔道具店の旗ですっ! うふふ、メイドさんが巨大化したのを見て、一生、お世話にろうと決めたんです! 大きくて動くメイドさん、大好き!」


 マツは最高の笑顔でそんなことを言い出しやがった。

 そして、断りもなく人にハグをしてくる。

 も、もしかして、先日のあれ、完全に既成事実になっちゃってる!?

 しかもこいつ、巨大化した私に惚れたらしく、もう照れることさえなくなっている。


「あ、そ、ソウナンダー、ナルホドネー」


 もはや棒読みのリアクションがこぼれるのみである。

 ぐぅむ、別にマツのことが嫌いってこともない。

 かわいらしいとも思っているし、もっと知りたいって思う部分もある。

 だけど、「好き」イコール「結婚」ってちょっと早いかなぁ、なんて。


 いや、わかるんだよ?

 マツがいい子だってことはさ。

 

「ねぇねぇ、覚えてますか? メイドさんがあの男にスープを飲ませたら、ごふっとか言って失神したんですよ! デュフフ、思い出しても笑えます!」


 マツは今回のひと悶着について未だに思い出し笑いをしている。

 可愛い顔してわりと笑い方が気持ち悪い。

 どうもあの男の人と過去に何かあったらしいのだが、今では吹っ切れたようだ。


 それにしても、あのミニマムって人にはやりすぎたかなと思っている。

 数滴飲めば失神する、きのこスープをスプーン一杯あげてしまったのだ。

 無事に起き上がることができたんだろうか。

 後遺症が残っていないか、とても心配だ。


「いやぁ、あのマックスってやつは本当に許せないって思ってたんですよぉ、本当に」


 私は過去を詮索することはないとのだが、マツはやたらと話したがっている素振りだ。

 先ほどからこちらをちらちらと見てきて、ちょっと鬱陶しい。


「マツ、もし、よければなんだけど、その話、興味あるかもぉ……」


 しょうがないので譲歩することにした。

 彼女の話を聞いてあげようかなと思ったのだ。


「えっ、突然、どうしたんですか? えええ、あの男との関係を知りたいんですか!? いやぁ、困ったなぁ、言っちゃおうかなぁ? デュフフ、どうしても言うんならしょうがないですねぇ! いや、私は話したくないんですよっ、過去のことなんかっ! でもまぁ、メイドさんは私にとって大事な人ですし! 話してあげなくもないんですけど?」


 うっざ。

 そう、マツのリアクションはとことん、うざかった。

 いや、ただならぬ因縁があるのは分かるけど、逆に聞く気が失せるやつである。


「やっぱ、いいわ」


「でぇえええ!? なんでですかぁ! 聞いてくださいよぉおおおお!」


 私が前言を撤回すると、マツは涙を浮かべて懇願してくる。

 あんまりにもうるさいので、私は彼女の話を聞くのだった。


 一部始終を聞いた私は思う。

 あの男は完全なる悪党であり、やっつけたのは必然だったのだと。

 頭は良かったのかもしれないけど、盗賊団に加わるなんて性根が腐っていたに違いない。

 ふぅ、知らず知らずのうちにまた善行を成してしまった。私の才能が怖い。


「メイド男爵ぅううう、男爵があの男をやっつけてくれて本当に良かったですぅうう。ぐすっ、ぐすっ、おろろぉおおおん」


 マツは私がきのこスープでミニマムを撃退したことに深い感謝を感じているらしい。

 彼女は泣きながら、ありがとうを連呼する。

 笑い声は変だけど、泣き方も変なやつである。




「それじゃあ、砦ちゃんのご褒美行っちゃおうか!」


 とまぁ、泣いたり笑ったりなのであるが、私たちのテンションが高い理由はこれなのであた。

 そう、盗賊団を撃退したことによって、砦から何か美味しいものを得られるのではないかと期待していたのだ。

 

「砦ちゃん、青い画面を見せて!」


 そんなわけで私は砦ちゃんの画面を呼び出す。

 後からわかったことだが、砦ちゃんはあの部屋に入らなくとも、私達の言葉で青い画面を壁に映し出してくれるのだった。


 そこには以下のように表示されていた。


 ---------------------------------------------------------------

【サラ男爵の砦ちゃんのステータス】 


 ランク:トリデンメイデン(最下級+)

 素材:頑丈な岩

 領主:サラ・クマサーン

 領民:2

 武器:なし

 防具:なし

 特殊:リボン・ヘッドドレス・ドラゴンタトゥー

 シンクロ率:5%


※プリンパフェをご用意できます。召し上がりますか?


※新婚ゆりゆりはいつでもウェルカムです

 

---------------------------------------------------------------


「新婚ゆりゆりですって! 新婚ですって! きゃああ! ライスシャワーしなきゃ! それよりも、ケーキ入刀しますかっ!?」


 マツは何が嬉しいのかわからんが、私の背中をバシバシ叩く。

 この女の一撃は私よりも身長が高いこともあり、それなりに痛い。

 ライスシャワーにケーキ入刀だなんて、ずいぶん、伝統的な結婚式スタイルである。

 ゴンドラに乗って登場とか言い出さなくて良かったけど。


「ダメです! 結婚って言うのは神父さんの前で誓うんですよっ! メイメイの村ではそうやってました! 巨大なドラゴン像の前で誓ってました!」


 結婚式に話題が及ぶと、メイメイは再び握りこぶし。

 彼女の常識は相変わらずどこかズレている。

 っていうか、ドラゴン像って邪教関係者なのかな?

 

「メイドさん、大丈夫です! 私、ちゃんと待ちますから。手順は大事ですよね! メイメイも焦っちゃダメですよっ!」


 マツは私は大人ですからみたいな顔をする。

 いや、あんたの方がよっぽど手順をすっ飛ばしてたからね?


 別に私はその興奮とかしたわけではないし。

 流れでなんとなく、それっぽい空気になっただけで。

 まぁ、マツがどうしてもって言うのなら、その時は考えてあげなくもないというか。


 うひぃい、どうしよ。

 もし、万が一、式を挙げるならドレスとか買わなきゃだよね。

 私、こう見えてもミーハーだし、南海でリゾートウェディングするのが夢なんだけど。

 あ、男爵と平民の結婚ってちょっと道なき道かもしれない。

 でも、私たち二人ならそんなの乗り越えられる?

 あぁあ、私、どうなっちゃうんだろ。

 

「それはそうと、メイドさん、ご褒美はプリンパフェですよ」


 私が一人で空想の世界に舞い上がっていると、マツは完全に素に戻った様子でそう言った。

 くっ、ここで変に焦ったら期待してるみたいに思われるじゃん。

 私は平静をとりあえず装うのだった。


 ええい、ゆりゆりのことはどうでもいいのだ。

 

 プリンパフェがいったい何なのかは分からない。

 ただし、プリンの関係している何者かであることは確かだ。


 私たちは一目散にキッチンへとダッシュするのだった。


「わぁああっ! すごいじゃん!」


「美味しそうですねぇ!」


「ぬふふ、お師匠様! メイメイの分もありますよっ!」


 そして、私たちが目にしたのは、まさにお菓子の塔のような食べ物だった。

 三角錐の形をした美しいガラスの器に、プリンがどどんと座っているのだ。

 イチゴがプリンの周りを囲んでいるのも可愛らしい。

 しかも、プリンの下にも何かが入っている。


「うひぃいい、もう待ちきれないですよっ!」


「よ、よだれでちゃいますぅうう!」


 マツもメイメイも大興奮である。

 無理もない、私だって涎が出そうなんだから。

 

「それじゃあ、どうぞ、召し上がれっ!」


 そんなわけで私たちはプリンパフェなるものに挑みかかるのだった。

 それは一言で表すならば、プリンの宝石箱。


「なにこれ、美味しい!」


「し、幸せですううううっ!」


「メイメイ、死んじゃいます!」


 プリンの美味しさもさることながら、フルーツとの相性が抜群なのだ。

 さらにはプリンを、その周囲にあるクリームと一緒に食べた時の感激を私は一生忘れないだろう。

 口の中に美味しい感覚が広がっていき、自然と涙さえ出てくる。

 しかも、驚いたことにそのクリーム、冷たいのだ。

 まるで冷凍魔法で作った氷クリームのようだが、味はもっと濃い。


 レシピを探ろうにも、こりゃあもう素材からして違うやつだよ!

 とまぁ、こんな感じで私たちはプリンパフェを完食するのだった。

 

「メイドさん、私、幸せですっ!」


「メイメイも!」


 笑う二人を見ていると、それだけで胸が満たされる私なのである。

 この気持ちは領主としての達成感というやつなんだろうか。

 すごく、いいよね。



「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「プリンパフェはええのぉ……!」


と思ったら


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