29.メイド男爵、お風呂タイムで赤面する……
「お師匠様、メイメイが最強への道をお手伝いします!」
メイメイは嬉しそうな表情だ。
何か勘違いしていそうな気もするけど。
「ん?」
私はここで気づいたのだ。
メイメイがひどく汚れていることに。
思い返せば、この砦では水浴びしかできない。
しかも最近は忙しくて、水浴びすらままならなかった。
私のメイド服は浄化魔法が自動で発生するので、衣類も体もキレイなままでいられるのだが、そこら辺の村人だったメイメイはまるで野良犬みたいに泥だらけである。
当然、においもする、それなりに。
「よぉし、祝勝祝いにお風呂を作るよっ! マツ、あんたも手伝いな!」
そんなわけで私は決めたのだ。
この砦にお風呂を作ることを。
思い返せば、この砦、鉄格子の窓に簡素なベッド、それからキッチンぐらいしか備わっていないのだ。
人間の住む環境じゃない。
女の子が住むわけだし、キレイで清潔じゃなきゃいけないよね。
「えぇ、お風呂ですかぁ? 水浴びでいいのでは?」
マツは予想外に渋る表情。
話を聞くに彼女のツナギは高性能な浄化魔法を発動できるので問題ないとのこと。
私のメイド服と似たり寄ったりのものらしい。
とはいえ、現にメイメイは汚れているわけで洗ってあげなきゃかわいそうでしょ。
「ぐぅむ、わかりましたよぉ」
私の説得に応じて、渋った表情であるがお風呂づくりを手伝ってくれることになった。
砦の内側は案外大きいのだ。
お風呂のスペースぐらいつくれるはず。
「マツ、あんたすごいよ! あんたを初めて誇りに思った!」
「ま、まだ昼間ですよっ!? どうどう、落ち着いてくださいっ!」
その後、とびきり上等なお風呂ができてしまい、マツに抱き着く私である。
彼女は手際よくレンガを積み上げると、それに防水処理を施し、さらには魔石か何かのパワーでお湯まで出るようにしてしまった。
排水についてもばっちりらしい。
お風呂は数人入っても大丈夫な大きさ。
なんだかわかんないけど、すっごい!
私も家事魔法でお湯の扱いができるけど、こっちの方が楽そうだ。
ちなみにマツに抱き着いたのは感謝からである。
別に友達相手でも感激すればハグぐらいしていいはず。
「これがお風呂ですか! ふぅむ、生まれて初めて見ました!」
メイメイは完成したお風呂をみてはしゃぎまわる。
完全なる子供である。
うふふ、あんたをキレイにしてあげるからね。
「それじゃあ、私はこの辺で……」
一番頑張ったというのに、マツはよそよそしくも部屋から出て行こうとする。
顔を赤らめた様子で、明らかに恥ずかしがっている素振り。
ぐぅむと私は考える。
ここで変に身構えると、後々に禍根を残しそうだ。
そうだよ、別に女同士だし、一緒にお風呂に入ってもいいじゃないか。
私が女の子の裸で興奮なんかしないってことを教えてあげたい。
そうだよ、簡単な話じゃないか。
私は女の子の裸なんて何とも思わないのだっ!
「ちょぉっと、待った! 今から三人で入ろうよ!」
「ひぇ、な、なんでですかぁ!?」
「楽しいからに決まってるでしょ!」
お風呂ができたんなら、お風呂に入るしかないじゃない!
後々考えたら、私の言動はけっこうヤバめだった。
だけど、それぐらい大きなお風呂に興奮していたのだ。舞い上がっていたのだ。
「メイメイは入りますよっ! ぬははっ!」
そう言うや否やメイメイはばばっと服を脱ぎちらかす。
お行儀悪いなぁ、本当に。
メイドたるもの、衣類の扱いは慎重にしなきゃいかんのだ。
そこら辺もしっかり教え込まなきゃ。
「メイメイ、服を脱いだら丁寧にたたむのよ。ほら、こうやって」
「は、はいっ!」
とはいえ、メイメイは拳の道に生きる女。
頭ごなしに言ってもしょうがない。
私は彼女にお手本を見せることにした。
すなわち、私もそそくさと服を脱いだのである。
だって、お風呂に入りたいからね。
「せ、積極的すぎますよぉ」
マツは顔を手で抑えて、ひぇええなどと悲鳴をあげる。
その指の隙間から真っ赤な顔が見えているけれども。
あのぉ、そんなに恥ずかしがられると、こっちまで照れてしまうんだけど。
「それじゃ、マツ、あんたは領主様が脱がせてあげるわ。頑張ったご褒美に!」
「そ、そういうのは夜にお願いしまぁす……」
「夜にそんなことはしないのっ!」
「まさか昼間っから盛るタイプなんですか? ひ、ひきゃああああ!?」
私はマツの背後に回りこむと、メイドの得意技の一つ、瞬間早着替えを発動。
相手の衣類の構造など無視して、ずぱぱぱと衣類をはぎ取っていく。
ふふふ、別に何にも感じないわ。
そうだよ、今までのはあくまで砦にそそのかされていただけなのだ。
別に私はマツの裸体など何とも……思わなくはなかった。
実際、ちょっとやり過ぎてるな、とは思った。
しかし、言い出した手前、引き返せなかったのだ。
あぁああ、バカバカ、私のバカ。
マツのきれいな肌に少しだけ胸がドキドキするのを感じる。
さらに私の頭を混乱させる出来事も起こるのだった。
「ナニコレ!? どういうこと?」
眼前に現れたのは驚愕の光景だった。
マツが胸元をがっちがちに包帯で固めていたのである。
そして、次の瞬間。
ばぼん、などという爆発音と共にマツの肌があらわになる。
空中に舞う包帯の破片。
呆気にとられる私。
そして、この目に映ったのは、大きな、いや、とても大きなお胸だった。
「ひぎゃああああ!?」
マツは胸元を隠してうずくまる。
いや、下も丸出しなんだけど、そっちはいいのか。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私、へんな体型なんです。ちんちくりんで恥ずかしいんです」
彼女はもはや泣きそうである。
だが、ちんちくりん、ではない。
私の知っているそれとは断じて違う。
そもそも、ウエストはきちんと細いし。
身長が高くて、そっちの発育もいいって、それは女神体型とかなんじゃないのかしら。
「だ、大丈夫よ、うん、えへへ、ダイジョウブ」
私は胸がドキドキ痛む。
あくまで、驚きによって、である。
別に深い意味はない。
いや、誰だって目の前でお胸が暴発したらドキドキするでしょ、常識的に考えて。
マツのそれはだいぶ立派なものなので、思わず生唾をのんでしまう。
いや、これは興奮とかじゃない。
すごく……重そうだなって言う、そういう労りの気持ちだ。
「わぁ、マツさんって、おっぱい大きいんですね! お母さまみたいです! すごいおっぱい!」
メイメイはマツに駆け寄って、すごいすごいと大喜び。
思ったことを即座に言ってしまうあたり、恐るべし、思春期前の女。
お胸の大小は人のコンプレックスに大いに関わることだ。
あんまり大声で言うべきことじゃない。
「あ、お師匠様は小さいんですね! それでも、お師匠様はお師匠様であることに変わりはありませんよ!」
「ぬが!?」
そして、メイメイは言ってはいけないことを口にする。
私は別に小さい方ではない。
そう、どちらかというと大きい、少なくとも中の中から、中の上ぐらいの感じであるはずだ。
胸元が見えるメイド服だって着こなしちゃう系の女子なのだ。
断じて小さくはない。
「マツのが大きいんだよっ!? いや、大きすぎるのっ! わ、私は普通ぐらいなんだからねっ!? 上の下ぐらいあるんだよ!?」
これには弁明をせざるを得ない。
メイメイには常識というものを身に着けて欲しい。
そして、思ったことを口にしないという習慣も。
「いや、大きさと言うのは相対的なものですので、小さいというのは正しいのでは?」
先ほどまで派手に恥ずかしがっていたマツであるが、いきなり冷静になってやがる。
なんなのこいつ。
「あぁもう、議論は終わり! とりあえず、一人ずつ洗ってあげるから!」
ここで小さいだの大きいだの言っていてもしょうがない。
私は二人を洗ってあげることにした。
いや、別に戦いから逃げたわけじゃないよ、不毛だと感じて大人になっただけ。
そう、体型についてあーだこーだ言うのはマナー違反ですっ!
「うひひひひひ、くすぐったいですよぉおお」
「ひぇえ、何で私まで、うひゃひゃひゃ」
石鹸を用意すると家事スキルで一気に泡立てる。
そして、その泡を使ってメイメイとマツをダブル洗浄である。
メイド時代に実際に行うことはなかったが、ご主人様を洗ってあげるのもメイドの仕事の一つとされていた。
そのため、一通りの訓練は受けているのだ。
私の洗浄能力はものすごく、メイド魔法を駆使することでつやっつやでさらっさらの洗いあがりになるのである。
もし、私がメイドとして努め続けていたら、洗体屋としても大成功を収めていたに違いない。
ちなみにマツの裸はあまりにも爆発的だったので、私はできるだけ直視しないようにした。
それでも指先に感じるふわふわに圧倒されっぱなしではあったが。
「んっ、メイドさん、そこっ、ダメぇ……」
背中を洗ってあげているだけなのに変な声を上げて、くねくねするなっ!
どさくさに紛れて変なことをしてるみたいじゃん!
私はマツの洗体を断念するのだった。
だって、しょうがないじゃん!
前側なんて洗えるはずない!
お次はメイメイだよっ!
「あれ? なにこれ?」
メイメイを洗っている時にあることに気が付く。
彼女の背中にヘンテコなできものを発見する。
別に目立つわけじゃないけど、ちょっとウロコっぽい雰囲気。
「できものですかねぇ? 不思議ですねぇ」
マツが何気なく、そのウロコ的なものを触った時だった。
「へ? ふ? だわーっ!」
メイメイ不意に立ち上がり、その口から炎を吐く。
長さ2メートルほどのオレンジ色の炎が砦の窓から外に出て行く。
「な、なに、今の?」
「口から火を噴きましたよ!?」
当然、驚いて顔を見合わせる私とマツ。
一方のメイメイは「あはは、私、またやっちゃいましたぁ?」などと涼しい顔である。
いや、あんた、一度もこんなことやってないよ?
「昔から、背中を触られると火を吐くんですっ! 一族のおきてでお母さまには絶対に触らせるなと言われていたのでしたっ! だからメイメイは私の後ろに立つ奴を無意識で殴っちゃうんです! お師匠様だけは例外です!」
メイメイは殺し屋みたいなことを笑顔で言ってのける。
とりあえず、一つわかったのは、こいつの背後には立たないでおこうということである。
私はメイメイの背中はウロコを避けて洗ってあげることにしたのだった。
「それじゃ、メイドさんも洗ってあげますよっ!」
「うふふ、お師匠様もキレイキレイにしましょうねっ!」
二人を洗い終わると、攻守がいきなり逆転する。
にやりと口元に浮かべられた笑みはどう見ても怪しい。
絶対にいかんことを考えている奴である。
「ちょっと、いいからっ、ふぁ、やめっ……!?」
その後、私は記憶から抹消したくなるやり方で洗われてしまうのだった。
っていうか、マツ、あんた、そういうのどこで覚えたのよっ!?
え、本?
へぇええ、そういう本、あるんだ……。
マツの国はいろいろと進んでいるらしい。
「やめて、前は自分で洗うからぁああっ!」
お行儀が悪いけど、浴室から逃げ出す私。
だって、卑怯じゃん、私だけ現れるのって!
余談であるが、マツはこのお風呂の一件以降、きちんとブラジャーをするようになった。
大きいと形が崩れやすいし、絶対につけなきゃいけないよと私がお説教したためである。
結果、どどんとせり出すそれに、私の心が削られるようになったのは言うまでもない。
くぅううう、神様のバカヤロー。
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