28.メイド男爵、砦と同期していることに気づく
「ぬははは! 壁掃除、面白いですねっ!」
ドラゴンを倒して数日後、私たちは後片付けに追われていた。
まずは砦の壁掃除である。
ドラゴンの炎のおかげで一部が焦げてしまっていた。
ススだらけの砦じゃ誰も来てくれないよね。
メイメイは壁をごっしごっしとキレイに磨いてくれる。
ふぅむ、なかなか筋がいい。
鍛えれば腕利きメイドになれるかもしれない。
しかし、腑に落ちないのは壁にかかれたドラゴンの文様である。
メイメイいわく彼女の生まれ故郷の文様らしく、ドラゴンのおっそろしい顔がごつんと書かれている。
ちょっと柄が悪いというか、14歳すぎるというか消せるものなら消したい。
「私、ドラゴン、大好きなんですっ! 古龍のブレスは敵を焼くんです!」
メイメイは嬉しそうにしているし、砦ちゃんの飾りだと思って許してあげることにした。
私のヘッドドレスにマツのリボン、それにドラゴンの文様。
ぐぅむ、この砦のコンセプトはバラバラすぎやしないだろうか。
「リボンとヘッドドレスを交換しておきますねーっ!」
マツはというとドラゴンが焦がしてくれた屋上の飾りを修復してくれるとのこと。
私たちの砦ちゃんをかわいくしてくれて、すごく嬉しい。
「いやぁ、やっぱり磨き上げられるってのはいいねぇ」
砦がキラキラと光を放つ様子を眺めて、私は感慨深く思う。
メイドの仕事を始めてからというもの、色んな所の汚れが気になるようになった。
やはり自分の領地がキレイになっているというのは嬉しいことだよね。
まるで私自身がピカピカになっている気分と言うか。
「そう言えば、この砦、変わった素材だよね」
私は今さらながら、砦の壁が王都では見ない素材で出来ていることに気づく。
少しだけ光沢があって、磨けば光るような石材らしい。
砦の壁を触ってみると、ひんやりした感触が伝わってくる。
「ん? なにこれ?」
すると、どうだろうか、砦の壁を触ると私のお腹あたりを触っている感覚があるのだ。
なんとなくだけど、ほぼ同時に感覚が届いてくる。
「どうしたんですか? 砦に名前でも掘るつもりですか?」
「いや、あのさぁ、私、砦の壁の感覚を感じられるっぽいんだけど?」
私はマツに自分の感じたことを正直に伝えることにした。
この砦、私と感覚を共有している気がするのだ。
この砦に泥がつけば嫌な気分がするし、この砦がピカピカに磨き上げられれば私の気分もあがる。
そして、砦を触れば、私の肌に何かが触っているような感覚が走る。
なんだろ、これ。
「あははは、いくらなんでもそんなことがあるわけないじゃないですかっ!」
私は深刻に話しているにもかかわらず、マツはお腹を抱えて笑い始める。
ちょっとぉ、真面目な話なんだけど。
「お師匠が砦になってるだなんて、冗談は休み休み言ってくださいよ! えいっ!」
メイメイはそんなことを言いながら、砦の壁をぽかりと蹴る。
ぽかりなどとカワイイ表現をしてみたが、彼女の蹴りは木をやすやすと粉砕する。
当然、砦の壁にもそれなりのダメージが走るはず。
「うぐひっ!?」
するとどうでしょう。
私は脇腹になかなかの腹痛を感じるではありませんか。
呼吸が止まり、思わずその場にうずくまってしまう。
「ひぇえええ、本当なんですか? えいっ!」
つづいてマツも壁をぽかりと殴る。
すると今度は頭に軽い衝撃!
「や、やめろぉ、あんたら、私を殺す気か」
「本当だったんですか……!? 砦になったメイドだなんて聞いたことない」
「あはははは、お師匠様、面白いです!」
青い顔をする私を見て、二人はやっとことの本質を理解する。
そう、私の体はどういうわけか砦と連動してしまったのだ。
どおりで体がベタベタしたり、ドラゴンのブレスで熱かったりしたらしい。
「分かりましたよっ! あのシンクロ率って、これを意味してたんですよっ! 男爵が砦になってる割合ですよ、あれ!」
興奮した面持ちで何か難しいことを話し始めるマツ。
要約すると、砦ちゃんの「シンクロ率」とかいう表記は私と砦は繋がっている証拠だとのこと。
「よかったですね! もはや砦メイドですね!」
「よくない! よくないよ、こんなのっ!」
マツは私の肩に手をポンと置いて、そんなことを言う。
当然だけど、全然っ、よくない。
将来、お婿さんをもらうときに「体が砦でもいいっすか?」なんて言えない。
絶対に来てくれないし、孤独に生きる未来しか見えない。
「うふふ、大丈夫ですよっ! 私がもらってあげます! メイドさんを一人にはしません!」
マツは私に抱き着いてきて、なんだか感動的なことを言う。
いやいや、そのセリフ、語弊があるからっ!
そもそも、私、もらわれる立場じゃなくて、もらう側でしょうが。
「わ、わかりました! も、もらわれてあげますよ?」
マツは眼鏡の奥をきゅぴーんと光らせて、くふふと笑う。
この女、完全に私をからかってやがるっ!
過去二回ほどあれこれあったので、ちょっと意識している自分がバカらしくなる。
ええい、頭を使うんだよ、サラ。
物事には常に抜け道と言うのが残されているものだ。
「あ、あのぉ、砦ちゃん、これって解除できませんかね?」
砦ちゃんの画面を呼び出し、恐る恐る尋ねる私。
こういうのは自称天才エンジニアのマツあたりにやってもらいたい。
私をこんな狂った人体実験の道具に使わないでほしい。
『シンクロ解除は可能です。ログインユーザーが死亡した時に自動的に解除されます』
砦ちゃんは私の言葉に反応して、例の青い画面を表示する。
そこにはおっそろしいことが書かれていた。
「し、し、死亡した時!?」
開いた口が塞がらないとはこのことである。
うっそぉおお、どうして、何のために!?
どんだけ嫌がらせしてくれんのよ、この砦ちゃん!?
「そうだ、砦ちゃん、ステータスオープン!」
私は砦ちゃんにいつもの画面を見せてもらうことにした。
そう、例のステータス画面である。
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【サラの砦ちゃんのステータス】
ランク:トリデンメイデン(最下級)
素材:頑丈な岩
領主:サラ・クマサーン
領民:2
武器:なし
防具:なし
特殊:リボン・ヘッドドレス・ドラゴンタトゥー
シンクロ率:20%(ええぞ)
※ゆりゆり、まだまだ足りませんけど? 足りないよ?
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「これって、煽られてる?」
砦ちゃんの表記に腹立たしくなってくる私である。
毎回のことながら、こいつはゆりゆりを求めてくる。
絶体絶命の状況で生き残れたのは砦ちゃんのおかげではある。
だけど、「足りませんけど?」って何事だ。
満腹だって言ってたじゃん。
足るを知れ!
「いや、そのぉ、やっぱり超古代文明ですし、そういうパワーが必要なんですよっ! 私、今なら分かる気がしますっ!」
マツはなんだかメイメイみたいに握りこぶしを作って力説する。
ふぅむ、そんなパワーって言われてもねぇ。
ゆりゆりパワーって何だそれ。
こっちは領民その一とすごく微妙な空気になってるわけで。
この間のはやばかったよ。
マツに膝枕されて、髪をさわさわされただけなのだが。
色々なものに耐性のない私は「うわぁあああ」ってなった。
「そ、そんなことより! メイドさん、見てください、表記が変わってますよ!」
マツは「特殊」の項目を指さす。
砦ちゃんはメイメイのドラゴンの絵を「ドラゴンタトゥー」と認識しているらしい。
えぇえ、嫌だなぁ、なんだか怖いし。
「トリデンメイデン?」
それ以上に、不可解なのはランクの表記が変わっていることだ。
トリデンメイデンって何!?
「トリデの乙女ってことですかね?」
「どういうこと!? それって私とシンクロしているのと関係あるの?」
私の問いかけにマツは口元に手を置いて、うーむと唸る。
それから彼女はぽつりとつぶやく。
「もしかしたら、男爵が砦になっちゃうのかもしれませんね」
「はぁあああああ!? なに、それ!? この場所から動けないとか!? 肌がごつごつになるとか!?」
混乱の極みに達して、ぎょえええと立ち上がる私。
冗談じゃないよ、そんなこと。
「大丈夫、肌はぷにぷにですよ? あ、すごぉい」
マツは私の二の腕を触って、ふにふにとやる。
ぐぬぅうう、安心していいのか、煽られているのか分からない。
「でもでも、もし、メイドさんが砦になっても私、一生、一緒にいてお世話をしてあげますから! 男爵の体を研究します!」
「メイメイもお師匠様のこと、忘れません! 毎年お参りにきます!」
愕然とする私のことなど気にもせずに、マツとメイメイは笑うのだった。
うぅう、マツに体をいじられるのだけは勘弁してほしいよ。
あんたら、マジで覚えときなさいよ。
後日談であるが、砦とシンクロしていても自由に動き回れることが判明した。
良かった。
良かったぁああああ!
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ゆりゆりパワー足らんっ……!」
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