12号室
注:この作品は、SIONというアーティストの、12号室という歌を元に書かれています。というか、尊敬の意を込めたパクリです(汗)ですので、オリジナリティーのない作品や、パクリが許せない方にはオススメできないことを先に記させていただきます。
「この子は子音君。今日からあなた達の仲間です」
「……」
子音は周りを見渡した。今まで子音がいた世界とは全く違う世界。
確かに自分がここに入ることは自分にとってよくなることだと分かっている。自分にとって必要な場所なんだろう。
だって、自分と同じような人間が沢山いる。そう思うことは可笑しいと分かっているけど感じてしまうんだ。
みんな変な形をしている。仲間ですよなんて紹介のされ方をしたけど、そうは思っちゃいない。こんな変な形をした奴ら、仲間でも友達でもなんでもない……
仲間だと紹介されたその夜、子音は一人で泣き明かした。どれだけ涙を止めようと思っても、頭がこんがらがって涙が止まらなかった。
「子音君……ご飯はちゃんと食べないと駄目じゃない」
「いらない。ご飯嫌いだから。喉も通らないから……」
子音はここにきて一週間。ずっとこの調子だった。誰とも話せていない。ご飯も最小限しか喉を通らない。子音は今、全てに絶望していた。
今日も子音はベッドの中でじっと息を殺しながら一日を過ごしている。これからもずっとそんな生活が続くのだろう。それが自分の居場所だと認識して、今日も黙って過ごすのだ。
いつもは、そのまま何も起きず一日が過ぎる。
でも、今日は違った。誰かが息を殺している子音のベッドの中に手紙を突っ込んでいった。
その手紙を確認するのも面倒くさいと感じた子音だが、そんな自分の思いとは裏腹に、手はスッと手紙へと伸びた。そして、手紙を読んだ。自分の体は何をしたいのだろう。
『子音君へ。まだ一度も言葉を交わしていませんね。緊張しないで大丈夫ですよ。みんな、あなたと話したがっています。当然、私も同じ気持ちです。だから、よかったら12号室の私の部屋まで遊びに来てください』
正直嫌だった。でも、それは二つの意味で嫌だったのだ。なんで自分が変な形をした奴と話さなければならないのだ。そして、自分はこのままでいいのか……自分の居場所をこのままにしていていいのか……
そう考えると、12号室へ行くことは、自分にとって何かの転機になるかもしれない。駄目だったらまたこの生活に戻ればいい話だ。
子音は12号室へと足を進めた。久しぶりにちゃんと歩くから、足はフラフラで、何か頭もズキズキする。それでも、子音は足を進める。そして、12号室へ辿りつき、少し緊張しながらドアを開いた。
「子音君! ありがとう。来てくれたのね」
子音が入ってきたことに気づき、ベッドに体を起こし、子音に対して微笑む彼女。
「い……いえ、とんでもないです……」
子音は恥ずかしかった。だって、変な形をした奴だと思っていた12号室の彼女は、とても美しかったのだ。
彼女は美しかった。まっ白な顔をしてた。きれいな髪をしてた。声もやわらかだった。彼女の室は花の香りがした。いい香りがした。ものすごくあったかだった。彼女は人もうらやむほどのほとんどをそこでは持ってた。
これが一目惚れというやつなのか。子音は瞬時に理解した。そして、そんな自分も何だか恥ずかしかった。
彼女とはほんの少し話をした。ほんの少しといっても、子音からしてみれば沢山話をした。久しぶりに人とちゃんと話をした。でも、途中で子音は何か恥ずかしい感情が芽生えた。
本当はもっと沢山話をしたかったけど、恥ずかしくてどうしょうもなくて、もう、何が何だか分からなくて、子音は表に駆け出した。「あっ……」という彼女の声も聞こえたけど、子音は止まれなかった。
そして少し落ち着き冷静になり、彼女の前で走ったことをすぐに悔やんだ。
「アハハ! それは違うでしょう子音君!」
彼女と話したその日から、ほんの少しずつだけど、誰かの問いに答えたり、誰かに話しかけられるようになった。そのお陰で何人かの友達も出来た。
子音はやっとそこの暮らしに慣れてきたのだ。子音は初めて自分の居場所に充実感を覚えた。
自分の居場所はきっとここなんだ。でも、世界は自分にそんな居場所をもつことすら許してくれない。
「ねえ子音君。君の場合はここにいても何にもならない。君も家に帰りたいだろう?」
「……」
ここに来て三ヶ月目の朝、突然そう告げられた。子音は当然反論しようと考えた。でも、何をどう言葉にして反論したらいいか分からなかった。だから、子音は黙った。なんて自分は弱いんだろう。そんな自分を悔やみながら黙った。
でも、子音にも一つだけ分かることがある。皆とは違うと言われここに入ってきて、そしてやっとここに慣れたのに……自分の居場所だと思えたのに……世界が言うにはここも違うらしい。
そんなことを言葉にしたかった。でも、それをどう世界に伝えたらいいか分からなかった。だから、やっぱり子音は黙った。
皆も、自分のさよならに反対してくれた。抗議してくれた。彼女も……寂しそうだった……でも、自分は残れなかった。力無く「ここは僕の居場所じゃないんだ……ごめん」としか言えなかった。皆はとても寂しそうに……悲しそうに自分の言葉を聞いた。なんて自分は弱いのだろう。あれ程頼りになる皆がいたのに……あれ程美しい彼女がいたのに……
四時間電車に乗って、子音はまた皆とは違うと言われたあの場所へ戻った。
懐かしいクラスの顔。でも、子音は居場所を行き来したことで気づいたことがある。
「僕だ……僕が沢山いる……」
子音は小さく呟いた。
皆、自分を変な形をした厄介な奴だという眼で見ている。これは、自分があそこで見ていた眼と同じ。自分はこんな眼をしていたのか。なんて自分は嫌な奴だったんだろう。でも、そんな眼をしていた自分と皆は付き合ってくれた。彼女は手紙を書いてまでこんな嫌な自分を誘ってくれた。
自分は、変な形をした奴らよりも、正常の形をしたこいつらの方が変に思えた。皆、本当にいい奴らだったんだ。
だから、「今日からまた仲間です」と厄介な奴が帰ってきたという眼つきをしている先生に紹介されたことに、静かな苛立ちを覚えた。
子音は今でも彼女の事を思い続けている。
彼女は美しかった。まっ白な顔をしてた。きれいな髪をしてた。声もやわらかだった。彼女の室は花の香りがした。いい香りがした。ものすごくあったかだった。彼女は全てを持ってた。白く長いはずの二本の足を除けば、彼女は全てを持ってた。
彼女は微笑んでくれた。物凄く綺麗な微笑みだった。泣きたいくらい綺麗な微笑みだった。
あそこは彼女の居場所なんだ。自分はまだ居場所を探してフラフラしてるけど、あそこは彼女の居場所なんだ。
彼女は美しかった。12号室でニッコリと笑っている彼女は、端から見れば変な形をした奴かもしれないけど、世界中の誰よりも美しかった。彼女は美しかった……彼女は美しかった……
ほとんど、歌とそのままのストーリーになってしまった(汗)まぁ、そこは俺の経験不足ですね……オリジナルな部分を一切だせてない。
それに、歌を元に書いたので、一人称と三人称がゴチャゴチャ。読みにくくて申し訳ありません。
でも、本当にいい歌だったので書きたい衝動が抑えられませんでした。もし、この小説を一パーセントでも好きになっていただけたならば、是非、SIONの12号室。聴いてみてくださいませ。