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7. 求婚、されたけれども

「本当にこのおん……いえ。この方を妃に迎えるつもりですか?」


 アメリアが無罪だと判明し、彼女の両手を縛っていた縄を解こうとしているレイクロフトに、フィンが不満気に問う。するとレイクロフトは少しの間だけ考えて、ちらっとアメリアを見てからニヤッと笑った。


「エンレットが一目で認めるだなんて相当だと思わないか? 国中探したが誰のことも認めなかったのだぞ?」

「それはそうですが、この方が妃になるなんて民が認めないと思います。それに先ほどこの方は、この国に嫁ぎに来たと言っていました。嫁ぎ先がある方を妃には出来ないかと」

「ふむ? そうか。それはまずいな」


 フィンに指摘されてアメリアが嫁ぎに来たことを思い出したレイクロフトは、アメリアに確認する。


「アメリア。誰の元に嫁ぐつもりだったのだ? その者とは恋仲なのだろうか?」


 相手や実家に迷惑があってはならないと、アメリアは自身の姓もあえて出さずにいた。

 しかしこうも直接王様から聞かれてしまっては、答えずにはいられないだろう。


「その…………マクドネル伯爵の元へ、行く予定です」

「マクドネル? あのマクドネル?」


(どの、かしら?)


「フィン。マクドネル伯爵に息子はいなかったよな?」

「はい。存じ上げません」

「では……あんな奴に、アメリアが嫁ぐと言うのか?」

「マクドネルという名前の貴族はあの方しかいなかったと思いますので、そうなりますね」


 フィンと認識合わせをしたレイクロフトはぐぐぐっと今までで一番深く眉間に皺を寄せている。


 アメリアはそのやり取りや彼の表情から、嫁ぎ先がよほどひどいところなのだと推測する。家を出る前にメイジーから聞いてはいたものの、その情報があながち間違っていなかったのだなと改めて分かった。


「マクドネル伯爵に嫁ぐとはなんとも不憫ではありますが、それが決まっている以上やはりこの方を妃にするのは諦めていただいて、」

「ダメだ!」


 若干嬉しそうな顔をしているフィンに向かって、レイクロフトは声を荒げる。


「陛下?」

「アメリアをあんな奴に嫁がせるなんて、できるわけないだろう!」


 するとレイクロフトはアメリアを真っ直ぐ見つめて確認した。


「アメリア! 君はマクドネルと恋仲なのか?」

「え……」

「恋仲なのかと聞いている!」

「い、いえ。お会いしたこともございません」


 突然気を昂ぶらせているレイクロフトに押されながら、アメリアは頭を横に振る。


「それなら、マクドネルには俺から連絡しておく」


「え?」

「陛下?」



 何を、と思ったアメリアとフィンの二人がきょとんとする中、レイクロフトは自信満々な笑みを浮かべてアメリアに向かって強気の発言をする。




「アメリア。俺と結婚して、この国の王妃になってくれないか?」




 竜の密猟を疑われて王宮に連れてこられたと思ったら、今度は王様から求婚されるなんて。


 話の流れについていけないアメリアは、目をぱちくりと瞬かせながらその場で固まってしまった。




「陛下! どうしてそんな!」

「見るからに清廉なアメリアがマクドネルのような奴に嫁いで幸せになれると思うのか?」

「それと王妃に迎えることとは別でしょう!」

「そうでもないぞ? 奴に向かってただアメリアは嫁がせないと言っても聞き入れられないかもしれないが、もし俺が王妃にしたいからと言えば諦めるしかないだろう? それに何より、エンレットが認めた時点で、アメリアを王妃にしない手はない」


『レイはよく分かっているわね』


 レイクロフトを援護するように「ぎぁおお」とエンレットが力強く鳴くと、フィンはビクッと若干後ずさる。


「ず、ずるいですよ……。緋竜様を理由にするなんて……」

「ずるいもんか。むしろ理想が高いエンレットが認めた者としか結婚できない俺は可哀想では? ようやく見つけた王妃候補を逃したくはないだけだ」

「ですが……」

「諦めろフィン。俺はもう決めた」

「陛下!」

「あ、そうだ」



 レイクロフトはふと何かを思い出し、話についていけず固まっていたアメリアに話しかける。



「求婚より先にしないといけないことを忘れていた。……俺の臣下が、早合点で密猟者だと決めつけ、無礼なことをしてしまったな。本当に申し訳ない」


 するとレイクロフトは、スッと頭を下げた。


 まさか王様に頭を下げられるとは思っておらず、アメリアは慌てて止めた。


「いえそんな、私はこの通り何もされていないので大丈夫です」

「……アメリアは優しいのだな」


 恐縮だったのでさっさと謝罪を受け入れたのだが、レイクロフトにはそれが優しさに映ったらしい。

 フッとやわらかい微笑みを向けられ、アメリアは思わずドキッとする。



「それでどうだろうか? 俺の妃になる話、引き受けてくれるか?」


 その微笑みのまま、さらりと本題が戻ってきた。

 アメリアは困惑しながらも、一応お断りの意思を示してみる。


「あの、どこまで本気で仰っているのか分かりませんが……」

「俺はいたって本気だが?」

「! ……えっと、では、本気だとしても、私は王妃にはなれません」

「何故だ?」

「何故と言われましても……。私なんかが王妃なんて務まりません。それに、先ほどそちらの方が仰っていたように、ルフェラの民も、私なんかが妃になっても納得できないと思います。あと……」


 流れ出しかけた言葉を、アメリアは喉元で止めた。


 それは、アメリアがマクドネル伯爵に嫁ぐ理由でもある。

 だけどそれは、ある意味実家の汚点とも言える。

 果たしてそこまで話しても良いものか。


「……あと、なんだ?」

「あ……」


「どうせお金絡みでは?」


 アメリアが言えずにいると、フィンが答えを言い当ててしまった。


「マクドネル伯爵は成金貴族ですからね。昔から金に物を言わせるタイプの人間で、本人自体はあの見た目にあの性格です。どうせ、家の借金が膨らみ、その返済の為に若い娘が差し出されたとかそんなところでは?」


 彼の鋭い読みは、当たりすぎていてむしろ怖い。


 アメリアは「その通りです」と言うしかなかった。

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[気になる点] いつもの癖とか言っていたし、いつもこんなことしていますかね部下の人。謝るのはいいけど再発防止に努めてほしい
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