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6. 竜の言葉が分かるようで

「こんな嘘つきはすぐ牢屋に、」

「落ち着けフィン。俺からの質問はまだ終わってない」


 有罪判決を急かそうとするが、再びレイクロフトに制止されたフィン。

 ぐっ、と喉を鳴らし不服そうにする彼を横目に、レイクロフトはアメリアに視線を戻した。


「アメリア。竜は他に何か言っていたか?」

「……はい。『お母さんどこ』とも言っていました。私はそれを聞き、森の中で子供が迷子になっているのかもと思い助けに行ってみたところ、子供の竜が罠にかかっていました」

「なるほど」


 アメリアは事実しか述べていないのだが、フィンやレイクロフトの様子はどうもおかしい。その理由について、レイクロフトが説明を始めた。


「……竜と共生していないパンガルトの人間は知らないかもしれないが、基本的に、我々人間には竜の言葉は分からない」

「え……?」

「唯一、主従契約を結んだパートナー竜の言うことならば分かる。……が、今の話では、君は契約を結んでいない竜の言葉が分かっていたことになる。だからこのフィンは、君が嘘をついているとめくじらを立てている状況だ」


 フィンはふん、と鼻を鳴らす。


「だがどうしてか……俺は君が嘘をついているようには思えない」

「陛下!?」


 レイクロフトはそう言うと、外へと出れる扉に向かって歩いて行った。扉はガラスで出来ており、そこから見える外側では、何匹かの竜が羽を下ろして休んでいるようだ。


 レイクロフトは扉をキイ、と開き、そして外の竜たちに向かって言葉を発した。



「エンレット!」



 すると、一匹の竜がスッと立ち上がり、レイクロフトの元まで優雅に歩いてきた。


 その竜は夕陽のような黄味を帯びた赤色……緋色の竜だった。

 歩く様子からも見てとれたが、かなり高貴な竜だということが遠くからでも分かる。


「ふっ、お前のような罪人には見せるのも惜しいくらいだが教えてやろう。あれが陛下のパートナー竜。緋竜のエンレット様だ。どうだ、美しいだろう!」


 その美しさにただ見惚れてしまっていたアメリアを見て、フィンはまるで自分のことのように鼻高々に教えた。


 その間にも、レイクロフトと緋竜──エンレットは仲睦まじい様子を見せ、彼が緋竜に向かって手を伸ばせば、緋竜はそれに応えるように顔を下げ、大人しく撫でられている。


(すごい。竜との共生ってあんな感じなのね……)


 故郷では見たことのない美しい竜。そしてそんな竜との共生。先ほどレイクロフトからは『パートナー竜』などという単語も出た。

 きっとあの緋竜が、レイクロフトのパートナー竜なのだろう。


 するとそこで、アメリアとエンレットの目がバチッと合った。


 少し遠くにいたにも関わらず、エンレットの目は真っ直ぐにアメリアを貫いて、アメリアもまた、その美しい緋竜から目を逸らせない。


(なに……これ……)


 どくんどくんと心臓が大きく脈を打っていて、これまで感じたことのない感情が心臓の奥で小さく灯った気がした。


 アメリアは縄で結ばれた両手首を胸元まで上げ、ぎゅっと心臓の辺りを押さえる。


 気持ちを落ち着けようとしてそうしたのだが、そう簡単には変わらなくて。

 それどころか、ふと気づけばエンレットはレイクロフトが開けた扉をくぐってアメリアの方へ近づいて来ている。すると脈はさらに早くなる。



「あ、あの……」


『怖がらなくていいわ。貴女に危害は加えない』


 戸惑うアメリアにそう告げたエンレットは、アメリアの目の前で歩みを止めて、次の瞬間驚きの行動をとった。





 すっ





「え……」


「エンレット!?」

「緋竜様!?」



 エンレットは、アメリアに対して首を垂れたのだ。


 それを見たレイクロフトやフィンは大きな動揺を露わにして咄嗟に大声を上げた。


「何をしているのですか緋竜様! この者は罪人ですよ!?」


 まだ扉の近くにいたレイクロフトに代わってか、フィンは居ても立ってもいられずエンレットに物申す。しかし、エンレットにはプイッとそっぽを向かれ、フィンはそれに対してがーん、とショックを受けている。


『フィンはまた悪い癖が出たのね。レイ、この人は罪人ではないわ。むしろ恩人よ』


 タタッと小走りでエンレットのところまでやってきたレイクロフトに対して、エンレットは静かにそう言った。


「恩人?」

『それにこの人は、レイの相手に相応しいと思うわ』

「何を……」

『この人なら、王妃に迎えても良いわよ』

「!」


 エンレットは柔らかく微笑み、レイクロフトは目を見開いて、参ったな、という表情をしている。



「陛下! 緋竜様は一体なんと!?」

「ああすまない。エンレットは、……いや。これはアメリアに答えてもらおうか」


 フィンがレイクロフトに尋ねるも、レイクロフトはそのまま答えず、回答をアメリアに委ねた。

 突然振られたアメリアは「え」と声を漏らす。


「今このエンレットが何を言っていたかを答えてみよ。そうすれば、アメリアはパートナーではない竜の言葉も分かるということが証明できる」


(何を言っていたか……?)


 アメリアはごくりと唾を飲み込み、先ほどのレイクロフトとエンレットの会話を思い出しながら答える。



「彼女は、私は罪人ではないと言ってくれていました。それから……」


 もう一つはそのまま言って良いか判断が難しかったので、アメリアはちらっとレイクロフトを見るが、レイクロフトはその意図を汲み取って頷いてくれたので、そのまま口に出す。


「それから、私を王妃に迎えてもよい……と……」

「なっ……!」


 アメリアの発した言葉にフィンは食ってかかる。


「何を馬鹿げたことを、」

「やめろフィン。アメリアはただエンレットの言葉を復唱しただけだ」

「陛下……!」

「今の言葉は間違いなくエンレットの言葉。これでアメリアは本当に、パートナーではない竜の言葉も分かるということが証明できたな。しかも、エンレットが私の妃に、と初めて認めた女性だ。……これ以上は不敬に当たるぞ?」


 怒るフィンを宥めようとするレイクロフトだったが、最後のはほとんど脅しだ。

 王であるレイクロフトから不敬に当たると言われては、臣下であるフィンはぐうの音も出なかった。

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