53. 竜たちに歓迎される
アメリアは父親へ手紙を書いた。
父親がモリーと再婚してからは、父親からも疎まれていて、冷たい態度を取られてはいたけれど。
それでも、血の繋がった唯一の家族だ。
最後に感謝の気持ちを送るのが礼儀だろう、と考え、レイクロフトにも許可をとった。
「……アメリアより、と」
これまでの思いを便箋五枚に綴り、クロエに託した。
その後アメリアが聞いた話では、父親はモリーたちの責任を取るかたちで辺境伯の爵位を剥奪されて、一人で僻地へと移り住むことになったらしい。
また、モリーとメイジーは、ルフェラ側の法に則って裁いて良いとパンガルトから通達が来たため、レイクロフトが処罰を下した。
モリーは勿論のこと、モリーに連れられて闇市に参加したという証拠が見つかったメイジーは共に、王都から遠く離れた場所にある更生施設に送られることになった。
更生施設であれば、牢屋よりは随分とマシな生活だけれど、これまで贅沢暮らしをしていた彼女たちにとっては辛い生活が待っているだろう。
そして闇市を主催していたマクドネルは財産を全て没収された上、死ぬまで牢屋入りとなった。
アメリアを誘拐したジョシュは、これまで闇市に出品する生き物たちも誘拐していたこともあり、三十年の牢屋入り。
その他、闇市の関係者や参加者たちも、闇市への関与度合いを考慮しつつ裁きを受けた。
……こうして、今回の一件は幕引きとなったのだった。
***
『アメリアー! 元気になったかー!』
「はい、ライロさん。ご心配おかけしました」
体調が良くなり、レイクロフトの許しも出たため、アメリアは久しぶりに竜たちに会いに来た。
早速元気な声で出迎えてくれたのは、いつも明るいライロだった。
『うるさいぞライロ』
『なんだと!?』
『まあでも、無事で良かったです。アメリアさん』
「シズマさん……」
元気すぎるライロを静かにさせようとするシズマとのやり取りを見るのも久しぶりで、アメリアは日常が戻ったことに感動する。
「お二人とも、私が誘拐されたときたくさん動いてくれたと聞きました。ありがとうございました」
そんな二匹に、アメリアは頭を下げて礼を言うと、二匹は照れくさそうに笑った。
『へへ。当たり前だろ』
『当然のことをしたまでです』
するとそこに、いつも日陰で寝ているリュイリーンがやってきた。
『おかえり。……あと、結婚おめでとう』
いつも無口なリュイリーンが珍しく言葉を発した。
ライロやシズマも含めて、そこにいる全員が驚いて目を見開く。
『まさかリュイリーンが喋るとは……』
『……』
ライロがリュイリーンに話しかけたが、リュイリーンはまた口を閉ざしてボーッとしてしまった。
『でも確かに。結婚が決まって正式に王妃になるそうですね。おめでとうございます』
『は! ってことは、ご飯係も竜騎士に戻るのか!?』
今度はシズマが、リュイリーンの言葉を聞いてアメリアにおめでとうの言葉を贈った。だがそこで、王妃になるならご飯係も変わるのか?という可能性に気づいてしまったライロが、慌ててアメリアに詰め寄る。
『せっかくアメリアのおかげで良い飯食えてたのによお』
『おいライロ。お前は本当礼儀に欠けるな』
『こっちは死活問題なんだぞ? 礼儀なんて言ってる場合かよ』
『ご飯係が変わるくらいで大げさな』
アメリアがご飯係でなくなったとしても、アメリアの前に対応していた竜騎士たちにその仕事が戻るだけだ。
多少言葉が通じなくてもどかしい場合もあるかもしれないが、そこまで支障があるものではない。
……けれど、ライロは頑なにアメリアが良いと言う。
『いやいや。アメリアが来るとこう、場が和むだろ? 癒されるっていうかさ。あれはアメリアだから出せる空気だと思うぜ? 毎日の癒しがなくなるなんて辛いだろ!』
『む……』
「ライロさん、そんな風に思ってくれていたんですね。……嬉しいです」
単に言葉が通じるからではなく、アメリアだから良いのだと。ライロがシズマに熱弁した内容を聞き、アメリアは笑みを浮かべて喜んだ。
「安心してください。ご飯係はそのまま続ける予定です。陛下もきっとお許しくださると思うので」
『ほんとか? それならよかった』
『でも、無理はなさらないでくださいね。王妃となれば忙しくなるでしょうし』
「はい。ありがとうございます、シズマさん。……私も、皆さんに会えると癒されるので、ご飯係を続けたいんです」
『それなら……まあ』
アメリアから自分たちに会うと癒されると言われて、シズマは少し照れくさそうにしながら、小さく頷いた。
「そう言えば、エンレットさんは今日も竜の谷ですか?」
近くに姿の見えないエンレットの所在を、アメリアはライロたちに尋ねた。
「先日の闇市で保護した子竜を、エンレットさんが谷で面倒見てくれているんですよね?」
『ああそうだな。どこかに売られちまった母親を見つけて谷に戻せるまでは、王竜様が見ておくらしい』
『生まれたときから変な薬を注射されていたようですしね。時折、王竜様の目で体調を確認してあげているみたいです』
「母竜が早く見つかると良いんですが……」
『まあそこは王様が頑張ってくれてるんだろ? 王様を信じようぜ』
『きっとすぐ見つけてくれますよ』
自分を安心させるように話してくれるライロとシズマを見て、アメリアは笑顔で「そうですね」と返事をしたのだった。




