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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第二章

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51. 後処理に追われる

 レイクロフトは、意気消沈したマクドネルとジョシュを近くにあった縄で縛り、援軍の到着を待った。


 しばらくして援軍が来ると、地下は騒然となる。

 オークション会場にいた参加者たちも捕縛の対象として、竜騎士のフィンが指揮をとりながら一人残さず捕らえたためだ。


 安全と思われていた地下の闇市に突然竜騎士が何名も現れたことに、参加者たちは驚き叫び、我先にと逃げようとした。

 しかし相手は竜騎士だ。

 竜に選ばれ、騎士としての才も持つ選ばれし精鋭たちの陣形を前に、ただの貴族が逃げおおせるわけがなかった。


 この夜の大捕物は翌日新聞にも取り上げられ、瞬く間に国中に広がったのだった。



────あれから三日が経過した。

 

 援軍が来て安堵したと同時にあの場で意識を失ってしまったアメリア。レイクロフトは彼女を横抱きにして王宮に連れ戻っていた。

 優しく寝台に寝かせ、寝ている間にしっかりと怪我の手当てもしておいた。そして意識が戻るのを待ちながら、今回の事件の後処理に追われていた。



「よくあの場で殺しませんでしたね?」


 書類仕事をしながら、宰相がレイクロフトに話しかける。


「アメリア様があのような状況でしたから、マクドネルとジョシュの二人を殺してしまってもおかしくなかったかと思いまして」


 レイクロフトが連れ帰ったアメリアの怪我を見て、宰相も顔を顰めていた。

 なんと卑劣な、と小さく声も漏らしていたくらいだ。


 アメリアに対してそこまで思い入れのない宰相ですらそう思うのだから、彼女を好いているレイクロフトならばきっとはらわたが煮えくりかえる思いだったはずだ。


「俺だってあの二人を殺したかったさ。だが、アメリアが見ていたからな。それに、初めて闇市のしっぽを掴めたんだ。あの場で奴らを殺しては惜しいと思った」

「なるほど」

「おかげで今は、他の関係者についても探れているだろう?」

「まあまだあまり吐いてはいませんが。引き続き尋問中なので、もう少ししたら何か出てくるかもしれません。……ただ」


 宰相は口ごもってしまった。

 次に来るのは、あまり良くない内容だ。


「…………アレのことは、アメリアが目覚めたら俺から話す」

「はい、お願いします」


 宰相の言いたいことを察して、レイクロフトはそう言った。

 それからすぐ、アメリアが目覚めたという報告を聞き、レイクロフトは全てを投げ出して急いで彼女の部屋に向かったのだった。


***


 目覚めたアメリアを前に、何度となく「大丈夫か?」と聞いたレイクロフト。

 アメリアは何度も「はい」と答えた。彼が安心してくれるまで、嫌な顔ひとつせずに。


 そうしてようやく落ち着いたところで、レイクロフトはあることをアメリアに伝えた。



「……あの会場にお継母様が……?」

「ああ。捕らえた参加者の中にいたんだ」


 アメリアは手の下にあった布団をぎゅっと握る。


「つまり、お継母様は闇市に参加を? でも、実家にいたときにそんな様子は……」


 珍しい生き物を取り扱う闇市に参加していたのなら、家に継母が買った生き物がいてもおかしくない。だが、アメリアの記憶では実家にそんな生き物はいなかった。


「詳しいことは調査中で実際に買ったことがあるかはまだ分からないが、恐らく以前から参加はしていたとは思う。……実は、あの母親はマクドネルに脅されてアメリアを奴に渡そうとしていたんだ。先日王宮に訪ねてきたのもそれが理由だ。多分、闇市に参加したことで弱みを握られたんだろうな」

「……」


 パンガルトの辺境伯夫人が隣国のルフェラまで来て闇市に参加していたなんて誰も想像できない。

 だが、アメリアの父である辺境伯は家を留守にしがちで、継母のモリーは毎日自由気ままに贅沢三昧。

 数日家を空けてルフェラの闇市に参加することは容易だったのかもしれない。


(……私が知らなかっただけなのね)


 アメリアは当時の自分を回顧する。

 部屋に引きこもりがちだったこともあり、モリーが家にいないことにも気付かなかった。むしろ、会えば嫌味を言われるので避けていたくらいだ。


 自分が知らないだけで、実家のどこか一室を使って闇市で落札した生き物を飼っていたのだろうか。

 そう考えると、気付けなかった自分が不甲斐ない。


「今はマクドネル邸を徹底的に捜索していて、マクドネル本人も尋問して関係者のリストがないか探っている」

「……そのリストにお継母様の名前があれば、実家も捜索できるということですね?」

「ああ。さすがに“現場を押さえた”というだけで隣国の辺境伯邸に乗り込むのは難しいからな」


 レイクロフトはこくり、と頷いた。

 そして、アメリアはもう一つ尋ねる。


「あの、そこにメイジー……義妹はいたのでしょうか?」


 先ほどから話題に上がるのがモリーばかりなので、一緒にこの国にも来ているはずのメイジーはどうなっているのか気になったのだ。


「いや、娘の方は会場にはいなかった。だがその後すぐ、宿にいたところを捕らえている。アメリアには申し訳ないが、あの母親の娘だからな。あの日あの場にいなくとも、闇市と関係があった可能性が排除されるまでは捕縛の対象とした」

「では、今は二人とも牢屋に?」

「……ああ」


 仮にもアメリアの義家族を捕縛しているという話なので、レイクロフトは申し訳なさそうな顔をした。

 だがそれを見たアメリアは、「大丈夫です」と伝える。


「お継母様が闇市に関与していたのであれば、その家族であるメイジーも疑いをかけられるのは当然のこと。その処遇は間違っておりませんから」


(そう。陛下の対処は間違っていないわ。だから多分……)


「……ですがそうなると、私も牢屋行きでしょうか?」


 犯罪者とその家族が捕縛対象なのであれば、義理とは言え、アメリアも対象になるだろう。

 アメリアは伏目がちにレイクロフトに確認した。


 するとレイクロフトは烈火の如く否定する。


「ありえない! それは、絶対! 君を牢屋に入れるわけないだろう!!」


 突然噴火した火山のような勢いに圧倒され、アメリアは目をぱちくりと瞬かせた。

 しかしアメリアが驚いていることに気づき、レイクロフトはしゅん、とすぐ熱を落ち着かせる。


「あ、すまない……」

「いえ……」


 それから、レイクロフトはごほんと咳払いをし、真剣な表情をしてアメリアに告げる。


「それでだな、アメリア。君の処遇の件で、一つ提案があるんだ」

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