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5. 王宮に連行され、弁明する

 王宮に到着する頃には、アメリアはもうふらふらだった。

 なぜなら、驚きの方法で連行されたからだ。


 瞬く間に縄で捕らえられたアメリアは、騎士たちにされるがまま森の奥に連れて行かれた。そこで待っていたのは立派な姿をした竜たち。


 先ほど見た子竜など比ではないくらいに大きい。ゆうに五メートルくらいはあるだろうか。


 そんな大人の竜が合計五匹だ。

 しかも青、緑、黄など、鮮やかで色とりどりの色を纏っていて美しい。


(さっきの子は白っぽかったけど、竜って個体によって色が違うのね)


 初めて出会う竜を見て、その大きさに若干の怖さは感じつつも、それ以上にその美しさに見惚れてしまったアメリア。


 ……とまあ、そこまでは良かったのだが、ここで気付くべきだったのだ。


 竜の隣に置かれている鉄の檻には、車輪も、その檻を引く馬も待機していなかったことに。


 騎士が強引にアメリアを鉄の檻に入れて、檻の外からガチャンと施錠すると、次の瞬間アメリアはふわっと宙に浮いた。

 正確には“アメリアの入った鉄の檻”が、宙に浮いていた。


「ひえっ……」


 まさかの連行方法は馬車ではなく、竜だったのだ。


 五匹いた内の一匹が、鉄の檻に括り付けられていたロープを持ち上げている。


 空飛ぶ竜を見られたことを喜ぶよりも、いきなりそんな不安定な持ち運び方をされていることの恐ろしさが優ってしまい、アメリアは顔面蒼白になりながら必死で中から檻を掴み、落とされないことを祈ったのだった。



 ……そんなこんなで王宮に到着すると、アメリアの魂は口から出そうになっていた。

 空を飛んだ経験などない彼女には当然の結果かもしれない。


 きっと浮いている間は生きた心地がしなかっただろう。実際の滞空時間は十分かそこらだろうが、アメリアにとっては何倍にも長く感じたはずだ。



「おい、早く出ろ」



 しかしそんなアメリアを見ても、彼女を密猟者だと思っている騎士には優しさなんて皆無で、無体なことを言う。


「あの、ちょっとまだ足に力が、」

「いいから出るんだ!」


 震えて足に力が入らないと答えると、騎士たちが二人がかりでアメリアの両腕を持ち上げて無理矢理連行した。



 ……そうしてアメリアは、王宮の広間に連れて行かれ、王様の前に差し出された。


「陛下。竜の密猟者を捕らえました」

「この娘が?」


 威厳ある装いで出てきたのは、アメリアが想像していた王様像より遥かに若い青年だった。

 彼の名前は、レイクロフト・ウェルズリー。

 二十代後半くらいの彼は、藍色の髪を後ろで一本の三つ編みにして、その瞳は燃える炎のように赤い。身長は百八十センチほどの高身長で、細身だ。


 レイクロフトはアメリアから五歩分離れたくらいのところまでやってきた。彼がピタッと足を止めると、騎士が近づいて行き、連行してきた経緯を説明する。


「はい。子供の竜を罠にかけて、回収しにきていたところを捕らえました。しかもこの者が仕掛けた罠には鋭利な刃もついており、罠にかかった子竜は足から血を流す怪我を負っていました。なんとも卑劣な女です」

「ほう?」



 アメリアが会話に入る隙もなく、森の中で盛大に勘違いされた内容をはっきりきっぱり言い切りの形でレイクロフトに報告する騎士。

 しかもそんな勘違いをされているので、アメリアは軽蔑の眼差しを向けられている。


(メイジーと同じような目。この人も私を軽蔑しているのね……)


 家で継母や義妹から散々向けられた視線なので、その視線の意味はすぐに分かる。

 こうして勘違いされたまま牢屋にでも入れられるのかと自分の人生を嘆きかけたときだった。



「……しかし、この娘にそんな度胸は無さそうに見えるのだが?」


 決めつけてかかる騎士とは異なり、レイクロフトは疑問を投げかけた。それについては騎士が自分の見解を述べる。


「竜を回収する役目なので下っ端なのでは? 下っ端であれば、お金欲しさにもらった仕事をするだけなので度胸はなくても……」

「そうか。娘……名前は?」


 ふむ、と顎に手を当てて考える様子を見せるレイクロフトは、突然アメリアに名前を聞いてきた。

 アメリアはおどおどしながら答える。


「あ、アメリアと申します……」

「アメリア。本当に君は、竜の密猟をしていたのか?」


(え?)


 レイクロフトからそう聞かれるとは思わず、すぐに否定の言葉が出てこなかったが、隣にいた騎士は即座に心外だと訴えた。


「陛下は私を疑うのですか!?」

「落ち着けフィン。お前はよく早合点をするだろう? お前の目撃証言だけで有罪とするのは危険だ。きちんとこの娘の言い分も聞かなければな」

「それは……」


 騎士の名前はフィンと言うらしい。

 しかも、よく早合点をすると。


 レイクロフトはその騎士、フィンのことをよく分かっているようだ。

 おかげで、何も話させてもらえず連行されたアメリアに、ようやく弁明の機会が与えられた。


「どうだアメリア? 何か言いたいことはあるか?」

「…………あの、私は、密猟なんてしていません」


「なっ!」

「フィン」

「っ」


 アメリアの発言に反応しようとしたフィンを、レイクロフトは左手を出して制止した。


「では森の中で何をしていた?」

「……私はただ、あの子を助けようと……」

「なぜあそこにいた?」

「……実は、私は隣国のパンガルトからこちらのルフェラに嫁ぎに来たのです。しかし途中で、道にできたぬかるみに馬車がはまって車輪が壊れてしまい、立ち往生していました。御者が別の馬車を調達しに行ったので私は馬車の中で待っていたのですが、『助けて』『痛い』というような子供の声が聴こえてきたので、急いで森の中に入りました。するとそこに、罠にかかった子供の竜がいたのです」

「…………なに?」


 レイクロフトの眉毛がピクリと動いた。


 アメリアはただ正直に答えただけだが、何か気になる点があっただろうか。


「竜が『助けて』や『痛い』と言っていたのか?」

「……はい」


 彼が目を細め、睨みつけるように見つめてきたので、アメリアはビクッと肩をすくませ、ドキドキしながら答えた。

 するとどうやら、この答えはいけなかったらしい。


「陛下! やはりこの女は嘘をついています!」


 黙っていられなくなったフィンが、レイクロフトの後ろからワッと会話に入ってきた。

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