45. 誘拐されたアメリア
「…………ん」
パチパチ、と木が燃える音と、ふと体が感じた寒さで目を覚ましたアメリア。
ゆっくりと上半身を起こして周りを見渡す。
「そうだわ。私……」
直後、気を失う前の記憶が、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
レイクロフトの誕生日パーティーで名前も知らない男からしつこく声をかけられ、それからナイフで脅された。そのまま会場を出て、人気のないところで何かの薬をかがされて気絶してしまった。そして目が覚めたらこの……鉄格子の中というわけだ。
目が覚めるときに聞こえた木が燃える音は、鉄格子の外側にある松明が発していた。
ここには陽が入ってくる窓がなく、辺りが暗い。きっとここは地下なのだろう。松明が唯一の明かりなのだが、松明は鉄格子の外側に置かれているのでアメリアがいる場所はほぼ暗闇で、足元も見えにくい。
「誘拐され……た? ここは地下牢か何かかしら?」
なんとなく、地下にある鉄格子の中となると、そんな感じがしたのだ。
立ち上がって明るい方へ行き、そこから外側の様子を覗いてみる。
見える範囲では、見張りなどは見当たらない。
とはいえ、鉄格子の扉には南京錠がかけられているので、たとえ見張りがいなくてもアメリアが外に出ることはできない。
「あの人は一体何者だったのかしら……」
アメリアはぶつぶつと独り言を唱える。
顔見知りではないあの男。
パーティー会場にナイフまで持ち込んでアメリアを誘拐したあの男は一体何者なのか?
「それに、私なんか誘拐しても……。あ」
何の足しにもならないのに。
多分アメリアはそう独り言を漏らそうとしたのだろう。
しかし、はた、と気づく。
また「私なんか」という発言をしてしまったことに。
「次に陛下に会えたときに報告しないといけないわね」
今は一人なのだから黙っていればバレないものを、そうしてしっかりレイクロフトに報告しようとするあたり、アメリアの純粋さが窺える。
「おい、うるさいぞ!」
「!」
すると突然、ガシャン、と鉄格子を叩かれた。アメリアは驚き、肩をビクッとすくませる。
(人がいたのね。この人が見張り番?)
誰もいないと思って口に出してしまっていたので、突然見張り番と思われる男が現れ驚いた。
しかしすぐ心臓を落ち着けて、アメリアは勇気を出して見張り番に話しかけた。
「あ、あの……」
「……」
「私は誘拐されたんでしょうか?」
「あ? そんなん当たり前だろうが」
聞かれた瞬間、見張り番は「馬鹿かお前は」と言いたげな顔をして、当たり前だと返事をした。
見張り番の強面が繰り出す圧力に怯みそうになりつつも、アメリアは必死で質問を重ねる。
「わ、私を誘拐したのは、どなたなんでしょうか?」
「そりゃお前、マ……」
「いけないね」
見張り番が犯人の名前を言おうとしたその瞬間、アメリアには見えないところから聞き覚えのある声が聞こえた。
こつ、こつ、と靴音を鳴らして前進してきたその人は、アメリアを拐った張本人、ジョシュだ。
「一介の見張り番が、雇い主の名前を簡単に教えちゃうなんてあり得ないよ? 君、クビね」
にっこりと笑顔を浮かべながら、バッサリと見張り番にクビを言い渡す姿は、なんだか気味が悪い。
言い渡された方は慌てて撤回を求めている。
「そ、そんな……! どうかお考え直しを、」
「しつこい男はもっと嫌いだよ。しっしっ」
手をヒラヒラと払うようにして、頑なに見張り番を追い出したジョシュ。
とりつく島もないと悟った見張り番は肩を落として出て行ってしまった。
「さ、じゃあ行こうか」
すると今の見張り番とのやり取りなんてなかったかのようにスッパリ切り替えて、ジョシュはアメリアに笑顔を向けて言った。
「い、行くって……」
「だーいじょうぶ。悪いようにはしないからさ」
彼の笑顔の気味悪さからアメリアは後ずさって距離を取るも、ジョシュはそんなこと気にせず、手に持っていた鍵を使って、牢屋にかけていた南京錠を解いた。また、鉄格子の扉を開けてアメリアに近づくと、ポケットから手錠を取り出して抵抗できない彼女を後ろ手にし、それをかけた。
「まあ一応ね。逃げられたら困るし」
それからジョシュは、アメリアの腕を掴んで無理矢理どこかへと連れ出したのだった。




