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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第二章

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44. 男の正体、そして黒幕は

「この男がアメリアを?」

「はい。間違いありません」


 護衛二人の証言を元に急ぎで作成した男の人相書を手に持って、男の顔を確認するレイクロフト。


 しかし、レイクロフトはその顔に覚えがない。


「……宰相はこの男を見たことあるか? 二十代くらいのようだから、どこかの子息か?」


 ペラッと人相書を宰相の前に差し出して尋ねる。

 宰相は紙に書かれた男をじーっと見つめ、記憶を呼び起こす。


 すると一人、思い当たる男がいた。


「この顔は……ジョシュ・ルメール。ルメール男爵のご子息ですね」

「ルメール……?」


 なぜそんな無名の男爵家の子息が、と言いたそうな顔をしたレイクロフトに、宰相は答えた。


「ルメール男爵夫人は、マクドネル伯爵の姉。つまり……ジョシュ・ルメールは、マクドネル伯爵の甥にあたります」

「なっ!?」

「この件、マクドネル伯爵が裏で糸を引いてそうですね」


 最悪の繋がりだ。

 アメリアの義家族を脅してまで、アメリアを要求してきた奴だ。

 人が多く集まるこの機を狙い、甥を使って誘拐事件を起こすだなんて、そこまで本気でアメリアを欲しているということなのだろう。


「奴がアメリアの能力を知っているとしたらアメリアは……」

「竜を従えるために利用するでしょうね。場合によっては、闇市へ売りに出すなんてこともあり得そうです」


 一番考えたくない未来を思い浮かべて、レイクロフトは目の前の机を思いっきり叩いた。

 ガン、と大きな音がして、机よりも彼の手が怪我を負っていないかと心配になるほどだ。


「陛下……」


 宰相が心配そうに声をかけると、レイクロフトはスッと立ち上がり、扉に向かって歩き始めた。

 それを見た宰相は思わず身を乗り出し、レイクロフトの前進を強引に止めた。


「いけません陛下! どこに行かれるおつもりですか!?」

「そこをどけ宰相」

「どきません」

「マクドネルの邸宅に向かう。アメリアを監禁している可能性がある」

「一体なんと言って邸宅を探すのですか? 人相書が示したのは彼の甥であって、マクドネル伯爵ではございません。何の理由もなしに、貴族の邸宅に踏み込むなんてできませんよ」


 レイクロフトは邪魔立てする宰相を睨みつけながら、ギリ、と奥歯を食いしばる。


「それに、まだパーティーの途中です。陛下がいなくなっては、」

「パーティーなんて中止で構わん! 今は一刻も早くアメリアを、」

「アメリア様には何の立場もございません!」


 何を言っても行かせてくれない宰相に腹を立てながら、どうにか彼をどかそうとしたその時。

 宰相は決定的な一言を口にした。


「今日は陛下の誕生日パーティーで、多くの貴賓を招待しています。陛下自らが助けに行けば、相手が誰なのか注目の的になり、遠からずアメリア様の情報は国内外に広まるでしょう。そうなったとき、陛下はアメリア様をどう紹介なさるおつもりですか?」

「それは……」

「王妃、あるいは王妃候補と言えますか? それとも、竜の通訳士だと公表するのですか?」


 先ほどまで何十人と挨拶をした。

 それでもまだ半分以上は、レイクロフトに挨拶しようと順番を待っている。


 今ここでレイクロフトがアメリアを助けに行けば、パーティーはお開きにするしかない。

 そうなれば間違いなく、招待客たちは何があったのかと詮索をするだろう。

 たとえ、体調不良や急な国務などと嘘をついたところで、全員が全員その話を信じるわけがなく、真実はすぐに国民の間で広まるはずだ。


 そうなったとき、レイクロフトはアメリアのことをどう話す?


「ならば王妃候補にしよう。俺にはその気持ちがあるからきっと問題ない」

「アメリア様側にも同様の気持ちがなければ意味がないのでは?」

「……っ」

「それとも、王妃候補として広めて外堀を埋める作戦ですか? それなら止めはしませんが。……ですが、アメリア様に王妃となることを強要することになるのは、陛下の望まぬことではありませんか?」


 宰相には、レイクロフトの気持ちが手に取るように分かる。


 アメリアに王妃となるよう強要してもよいなら、とっくの昔にやっている。

 強要しないのは、アメリアの気持ちを無視したくないからだ。でも今行けば、無視せざるを得なくなるかもしれない。


 だから、簡単には行かせられない。


 そんな宰相に対して、考え抜いたレイクロフトが答える。


「なら俺は……アメリアに好きになってもらうよう努力する」

「はい?」

「俺が行くことで王妃の道しかなくなるのならば、それが強要ではなく、彼女の意思となるよう努力すればいい」


 真面目な顔のレイクロフトは強い口調で言い切った。




「俺は、アメリアが好きだ。アメリアを……好きな女を助けに行けない王にはなりたくない」




 それは、覚悟を決めた眼差しだった。


 王であると共に、一人の男として好きな女を助けたいのだと。

 彼の燃えるような真紅の瞳がそう物語っていた。


 真剣な想いをぶつけられた宰相は肩を落として、ふー、と大きく息を吐いた。

 ……レイクロフトの瞳を見れば、宰相も覚悟を決めるしかない。



「……その言葉は、後で本人に伝えてくださいね」


 流れで宰相に向かって言ってしまったが、先ほどのレイクロフトの発言は言わば告白。本来アメリアに向けてしなければならない。


 指摘されるや否や、レイクロフトの顔がカカカ、と真っ赤に染まる。


 その反応を初々しく思いつつ、宰相は告げた。



「パーティーはこちらで何とかしておきます。絶対にアメリア様を無事に連れて帰ってきてください」

「! ああ、分かった。ありがとう!」


 宰相が許可してくれたことに満面の笑みを浮かべて、レイクロフトは颯爽と部屋を出て行った。



 そんな彼の後ろ姿を見送りながら、宰相は再びため息を吐く。


「さて。こちらも頑張りますか」


 これから相手をしなければならない招待客から出てくる不満の数々を想像してげんなりしつつも、気合を入れ直していたのだった。

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