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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第二章

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41. パーティーが始まる

────レイクロフトの誕生日当日。


 アメリア付きの侍女、クロエは焦っていた。


「アメリア様、もうお時間が……」

「ごめんなさい。あと少しだけ待ってくれませんか? 今日はここに来ている竜が多くて、ご飯がまだ足りないみたいで」


 夜に開かれる誕生日パーティーに参加するアメリアの支度が急がれるのに、当の本人は日課である竜のご飯係の仕事が終わらないと言い、まだ部屋に戻ってくれないのだ。


「だから言ったじゃありませんか。今日くらい他の方に任せるべきだと」

「ごめんなさい」


 朝晩、王宮の裏手にいる竜たちにご飯をあげるのはアメリアの務め。

 例え今夜パーティーが控えているとしても、その仕事を誰かにお願いすることはできなかったのだ。


 アメリアらしいと言えばアメリアらしいのだが、準備する側のクロエからすれば、ただただ焦る。


『なんだアメリア。急いでんのか?』

「ライロさん」

『今日は王宮でパーティーがあると言ってたでしょう。そのせいで竜も多く集まっていますし』

『そうだっけ?』


 柵から乗り出して話しかけてきたライロに、後ろからシズマが教えてあげた。

 ライロは今日パーティーがあることを忘れていたようだ。


 そのまま、シズマはアメリアに話しかける。


『もう良いですよアメリアさん。まだ食べてない竜もいるでしょうが、我々は一食くらいなくても死にませんし』

「え、でも、」

『なんだったら、後でパーティーに出てきた料理でも持ってきてください。そっちの方がみんな喜ぶと思います』


 どうしても引き下がってくれなさそうなアメリアに、後でパーティーの料理を持ってきて欲しいと言うシズマ。

 そう言われてしまえば、ここは無理に料理を運んでくる必要はないだろう。


 アメリアはシズマに言われた通り、後で料理を届けることに合意して、この場は一旦去ることにした。


「ささっ。それでは急ぎましょうアメリア様!」

「あ、はい」


 クロエに急かされながら、アメリアは部屋へと戻った。



 ……部屋に戻ると一気にそこは嵐になった。


 嵐のような目まぐるしさの中でお風呂に入れられ、体にも顔にも芳しい香りのローションを塗られ、それからいつも以上に丁寧に髪を梳かされた。手櫛を通しても引っ掛かりがないくらいにサラサラな仕上がりだ。

 そこまでが第一段階。

 今度は、コルセットでこれでもかというくらい腰を締めつけて、ヘレナのブティックから届いたピンクのドレスを身に着ける。

 そして最後は鏡台の前に座り、化粧を施しつつ、髪を結っていく。化粧は、アメリアの場合元の肌が美しいのでそのナチュラルさは生かしつつ、ドレスと合わせて目元にもピンクを入れる仕様。きらびやかなドレスとの相乗効果でより映えるような仕上がりを目指したのだ。それから、サイドの髪の毛で三つ編みを作り、それを後ろに持っていってハーフアップにした。三つ編みを結んだところには透けるように薄く柔らかいリボンを着ける。



 一息もつかずにクロエがせっせと頑張ったおかげで、なんとかパーティーの開始までには間に合ったようだ。


「ふぅ……こんなものですかね?」


 最後の仕上げを完了させて、クロエがそう漏らした。


 ひたすら黙ってクロエに一任していたアメリアは、完了の言葉を聞いて瞑っていた目をゆっくりと開ける。

 すると目の前の鏡には、想像以上に美しく仕上がった自分の姿が映っていた。


「わあ……」


 アメリアは思わず感嘆の声を漏らし、鏡の中の自分をまじまじと見つめる。

 立ち上がり、その場でくるっと一回転して背面も確認して、クロエに感想を言う。



「ありがとうございますクロエさん。素敵です」

「良かったです。陛下もアメリア様に釘付けになること間違いなしですね」

「え!? いえそれは……」

「そんなにお綺麗なんですから、自信を持ってください。……ああそうだ。陛下以外からもどこぞの殿方から言い寄られるかもしれませんので、気をつけてくださいね」

「そんな、私なんて…………あ」


 言いかけて、アメリアはふと気づいた。

 クロエがニヤリと笑ったことに。

 これは彼女の罠だ。


「今日は一回ですね」

「ひ、ひどいですクロエさん……!」

「今日のこの日に名前で呼んでもらえたら陛下がお喜びになると思いまして。これを私から陛下への誕生日プレゼントにさせていただきます」

「そっ……」


 先ほどの会話は、アメリアが名前で呼ばざるを得ないよう仕向けたクロエによる誘導尋問だったのだ。

 それに気づいたアメリアは慌ててクロエを責めるが、レイクロフトへの誕生日プレゼントと言われて何も言えなくなる。


「その言い方はずるいです」

「ふふ。……あ、噂をすればいらっしゃったみたいですね」


 コンコンコン、と部屋の扉が小気味よく鳴らされ、クロエはすかさず扉を開けに行く。


 彼女が扉を開けると、正装姿のレイクロフトが部屋に入ってきた。


 思わずアメリアが見惚れてしまうくらいに、ビシッと前髪がかき上げられた今日の髪型は、大人びていてかっこいい。

 それに、いつにも増してかっちりとした正装が合わさって、なんだか別人のように見える。


 ……しかし、そうやって相手に見惚れて呆然としてしまったのはアメリアだけではなかった。


 部屋に入って早々に美しいアメリアを瞳に入れたレイクロフトもまた、その輝きを見て何も言えなくなっていた。


 互いに無言で見つめ合うこの空間だけ、まるで時が止まったような感覚がしたが、二人はすぐにハッとして我に返った。



「……コホン。その……よく似合っている。ヘレナの店で一度試着姿を見てはいるが、何度見ても綺麗だな」


 わざとらしく咳払いをしたレイクロフトが、アメリアのドレス姿を褒めた。これにはアメリアもお礼を言い、レイクロフトを褒め返す。


「ありがとうございます陛下。陛下のお姿も、凛々しくて素敵です」

「そうか?」


 褒められて、彼は嬉しそうに笑った。



「……俺は後から会場に行く。もし時間が取れたら、どこかで話したい」

「はい。お待ちしております」



 アメリアの立場はまだ公になっていない。


 レイクロフトは彼女を王妃に望んでいるが、アメリアがまだそれを受け入れていないことも。また、アメリアが竜の通訳士であることも。知る人間はごく一部。

 だからまだ、レイクロフトがアメリアをエスコートすることはできないのだ。


 そのことはアメリアも理解している。


 彼が少し寂しそうな顔をして後で話したいと言ったので、アメリアは静かに微笑み、頷いたのだった。

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