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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第二章

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40. 宰相は何でも分かってしまう

「え…………?」


 レイクロフトが例えで出した内容を理解したメイジーの顔が、徐々に青ざめていく。

 ただ観光に連れてきてもらえたと思っていたのに、自分がアメリアの代わりに王宮で働けと差し出されそうだったと知れば、当然の反応である。


「ありえませんよね? お母様が私を、お義姉様の代わりにだなんて……」


 震える声で聞いたメイジーに対して、モリーは目線を背けつつ、開き直る発言をした。


「あ、あなただって、アメリアが王妃候補だと知ったとき、自分から代わりになると名乗り出ていたじゃないの! 今更そんな顔しないで頂戴」

「あれは……! お義姉様の立場が私より高くなりそうだったから言ったのです! そうではなく、お母様はただの王宮勤めのお義姉様の代わりに私を差し出そうとしたのですよね!? それとこれとでは話がまるで違います!!」


 メイジーはきゃんきゃんと鳴く子犬のように、母親を責め立てる。モリーはその声が耳に障ったのか、両手で耳を塞ぎながら言い返した。


「あーもう、うるさい! 今まで働かずに贅沢できていたのは私が辺境伯と結婚したからなのよ? あんな暮らしを与えてもらったのだから、あなたは娘として、私に恩を返すべきでしょう! 王宮なら就職先として安心できるし、良いじゃないの!」


 モリーは、ふんっ、と鼻を鳴らして言い切った。

 まさか開き直られるとは思っていないメイジーは、一瞬ぽかんとしてからすぐ、目に涙を浮かべて泣き始めた。


「ひっ、ひど〜〜い!! 私は実の娘なのに〜〜!!」


 びえ〜ん、と恥ずかしげもなく泣き散らし始めたメイジーは、まるで五歳児のようである。



 モリーとメイジーの幼稚なやり取りに言葉を挟む隙もなく、事の次第を見守っていたレイクロフトたち。

 ただ言えるとすれば、メイジーではアメリアの代わりになんてなれる訳なく、そして、アメリアをマクドネル伯爵の元に嫁がせるのは言語道断であるということ。



 落ち着いた頃を見計らい、レイクロフトは気になっていたことをモリーに確認した。


「母娘喧嘩が終わったなら聞きたいんだが、マクドネルはなぜアメリアを要求しているか言っていたか?」

「い、いえ。ただアメリアを嫁に欲しいとだけ……」


 彼女も理由までは聞いてないらしい。

 脅されたと言っていたから、聞ける状況ではなかったのかもしれない。


「あ、あの陛下……」


 考え込むレイクロフトに、門兵が声を掛けた。


「ん? どうした?」

「その、ここでは人目が……」


 そう言われて見渡せば、確かに少し人だかりができ始めている。

 正門前で騒ぐ女性たちがいて、終いには竜王と王竜が二人揃ってそこに現れれば当然ではあるが。


「ああ、すまん。気づかなかった。もう終わらせる」


 レイクロフトはモリーに近づき、最後に一言告げる。


「アメリアを渡すつもりはないから諦めて国に帰れ」


 そう言った彼の顔は、微笑んでいたのだった。



***


「そんなことがあったのですか……」


 執務室に戻ったレイクロフトが、正門前で何があったかを宰相に伝えると、宰相は開いた口が塞がらないようだった。


「ああ。隣国まで来て迷惑な話だ。……だが、俺はそれよりもマクドネルが引っかかる」

「アメリア様を要求している理由、ですか?」


 レイクロフトの言いたいことをすぐに理解した宰相が尋ねる。その問いに彼はこくりと頷いたので、宰相が予想を述べてみる。


「単純に、嫁ぎにくるはずの娘が王妃候補になったと聞いて、娘に価値があると思ったのでは?」

「それなら良いが、王を敵に回すことになるんだぞ? そこまでして王妃候補を要求すると思うか?」

「……アメリア様が全ての竜の言葉を理解できることを耳にしたとお思いですか?」


 またしても、宰相はレイクロフトの心の中を言い当てる。

 言い当てられたレイクロフトは少しだけ目を見開いた。


「確かに、その能力を聞いた上で要求しているとなれば、厄介ですね」

「あいつのことだ。アメリアを手に入れて金儲けの道具にでもするつもりなんだろう。そんなことさせてたまるか」


 マクドネルは、悪評高い成金貴族。

 その評判は国内に留まらず、隣国パンガルトにまで伝わるくらいの有名人だ。


 しかし、評判が悪いだけでは罰することができない。あくまで人として最低というだけで、罪を犯している訳ではないからだ。


 正直、そういう輩はレイクロフトにとって、目の上のたんこぶのような存在だったりする。


 そんな人間がアメリアを要求するなんて、何か裏があるに決まっている。



「とにかく、奴がアメリアと接触しないようにさせたい。だから、一週間後の誕生日パーティーの日はアメリアに護衛もつけて欲しい」

「手配しておきます」

「あとそれから、」

「部屋の方の警備も増やしておきます。外に出られる時も、必ず一人は護衛がついて行くように配置しましょう」


 ことごとく宰相に先を行かれ、レイクロフトは目を丸くした。


「いつもながら、お前には俺の心が見えているのか?」

「いいえまさか」


 宰相は、ふふ、と上品に笑った。


 ただレイクロフトが分かりやすいというだけ。


 ……だがその答えは、宰相の胸の内に収められたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この二人、ここまでしてても旦那は(ヒロイン父)は止めないのか?王から隣国へ苦情は入れられないのか?? 謎すぎる…
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