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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第二章

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38. 楽しい罰ゲームと困った義家族

「今日は何回言った?」

「一回です」

「そうか!」


 アメリアとレイクロフトがテーブルを囲んで夕飯を食べ終わったとき。レイクロフトが尋ねた先はアメリアの侍女のクロエである。


 先日アメリアがレイクロフトと交わした罰ゲームの約束。

 アメリアが自分を卑下して「私なんか」と言う度に、アメリアはレイクロフトの名前を呼ばなければいけない。


 その発言が何回あったか、なぜか毎日クロエが数えてレイクロフトに報告しているのだ。


 今日は一回。

 それを聞いたレイクロフトはとても嬉しそうだ。


「では今日は名前を呼んでもらえるな」


 アメリアの罰ゲームは、もはやレイクロフトにとってはご褒美のようなもの。彼はうきうきだ。


「……陛下、そろそろこの罰ゲームやめませんか?」

「やめるわけないだろう?」


 アメリアにとってこの行為は苦行なのだ。

 名前を呼ぶだけ、と言われてしまえばそうなのだけれど、国王陛下を名前で呼ぶなんて、小心者のアメリアにとっては恐れ多過ぎて毎度心労がすごい。


 それでも、どうせすぐに飽きるだろうと思い、初めは仕方なく名前を呼んでいた。

 ところが、いつになってもレイクロフトは飽きる気配を見せない。


 ……実のところ、この罰ゲームを始めてもう二週間は経過しているのだが。

 彼のうきうきな笑顔は最初の頃に見た顔と変わらない。


 何度呼ばれても、彼は飽きるところを知らないようだ。


 アメリア側も「私なんか」と言わないよう発言に気を配ってはいるものの、完全に失くすことはできていない。

 初めの頃と比べれば回数は確実に減っているけれど、未だ週に一、二回は出てしまう状況だ。


「この二日聞けていないから、三日ぶりか?」

「左様でございますね」

「いやあ、楽しみだなあ」


(ああほんと……どうしてそんなに嬉しそうなの……)


 楽しみで仕方ないレイクロフトとは相反して、アメリアの口からはため息が漏れ出る。

 そして、ぎゅっと膝の上の拳を握って覚悟を決めたアメリアは、重い口を開く。





「……レイクロフト、様……」





 名前で呼ぶのは恥ずかしい。

 何度呼んでも慣れないアメリアは、毎回直後に顔を赤らめている。

 それがまた、レイクロフトの楽しみを増やしているとも知らずに。


 かぁーっと赤く染まったアメリアの顔は、三割り増しで愛らしい。

 慣れない名前呼びで若干の恥じらいを見せてくれる姿は、レイクロフトの中になんとも言えない感情を生まれさせるには十分だった。そして同時に、アメリアへの愛情を深めるのにも、十分だったのだ。


 レイクロフトは満面の笑みで「ああ、アメリア」と返事をした。


 するとそこで、宰相が扉をノックして食堂に入ってきた。

 それを見たレイクロフトは、一瞬にして真剣な表情に変わる。


「お食事中のところ失礼します」

「どうした?」


 食事中と知りながら来たのだから、緊急を要するということをすぐに悟った。

 宰相は困ったような顔をして、レイクロフトに耳打ちをした。



「アメリア様のご家族が正門の前で騒いでいるそうです」

「!」



 口元も覆いながら耳打ちしたため、その内容は向かいの席に座っているアメリアには聞こえていない。


 レイクロフトは「またか」とぼやいてため息をついた。


(また? 何か問題が起きたのね?)


 内容は分からずとも、レイクロフトたちが問題に直面していることは察せる。

 アメリアは即座に席を立ち、レイクロフトたちに向かって礼をする。


「陛下。私はこれで失礼いたします。こちらで宰相様とお話しくださいませ」

「あ……。追い出すようになってすまん」

「いえ。お気になさらず」


 申し訳なさそうに眉尻を下げたレイクロフトにアメリアは笑顔で返答して、自分の部屋に戻ったのだった。



***


 アメリアが出て行った直後、宰相は憚ることをやめてレイクロフトに詳細を報告した。


「ご家族は正門前まで来てアメリア様に会わせろと言い、いつも通り断ったところ、今度は陛下に会わせてほしいと」

「学ばん奴らだな」

「そうですね。ただ今回は、いくら断っても帰ってもらえず、正門前に座り込んで、会わせてくれるまでテコでも動かないと宣っています」

「それなら放っておけばよい。じきに音を上げて帰るだろう」

「はい。私もそう思ったんですが、今度は母親が“娘に会わせてください”と大声で叫び始めまして。国民にわざと聞かせて、陛下の評判を落とそうとしています」


 モリーやメイジーは、二週間前に王宮から追い出されてからも何度かアメリアを訪ねてきていた。

 だが、それをレイクロフトは正門前で止めさせていたので、モリーたちが会いに来ていることをアメリア本人は知らない。


 アメリアは優しいから、もし来ていることを知れば会うだけならと受け入れる。

 そうなれば間違いなく、またアメリアが傷つく。

 それだけは避けたかったのだ。


 しかし、モリーたちの諦めの悪さは凄まじいものがあり、何度も何度も訪ねてきて、今回は騒ぎまで起こし始めた。



「騒ぎまで起こして恥ずかしくないのだろうか?」

「……無礼を承知で申し上げれば、厚顔無恥、なのかと」

「なるほどな。一体何の用でアメリアにそこまで会いたがるんだか」

「アメリア様本人にしか話さないと言ってますので、こちらでは分かりかねますね」


 宰相と会話して、レイクロフトは悩む。


「我々としては取り押さえたいのですが、いかんせんアメリア様のご家族ということで躊躇っております。いかがいたしますか?」

「…………俺が行って直接話そう」



 結果、レイクロフト自らが出向いて話をすることにしたのだった。

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