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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第二章

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37. ちょっとした罰ゲームを

 アメリアたちが王宮に戻る頃にはすっかり月が上にのぼり、真っ暗な夜を迎えていた。


 レイクロフトとアメリアは軽くご飯を食べて、その後レイクロフトがアメリアを部屋まで送り届けたところで、軽く話す。


「こんな遅くまですまなかったな」

「いえそんな」

「今日はアメリアのおかげであの子竜たちを無事保護することができた。ありがとう」

「と、とんでもないです! 皆で必死になって探したから見つかったんです。私なんてそんな……」


 そう言いかけたその時だった。


 レイクロフトの人差し指が、そっとアメリアの口を塞いだ。おかげでアメリアはその後の言葉を紡げない。


(陛下?)


 アメリアは困惑して眉尻を下げ、レイクロフトを見つめる。

 見つめられたレイクロフトは、一拍置いて、アメリアに言う。


「……その言葉はもう使うな」


(その言葉?)


「アメリアはよく“私なんか”と口にしているが、気づいていたか? これまでの環境やあの義家族がそう仕向けたのだろうとは思うが……。アメリアは“私なんか”と卑下する必要はないくらい、素敵な人間だと俺は思ってる。あとエンレットも、それに他の竜たちだってそうだ。みんなが君を認めている。だから、もう言わないでほしい」



 突然言われたことに、アメリアは呆然としてしまった。

 自分にそんな口癖があるだなんて気づいていなかったのだ。


(そう言えば今日会ったヘレナさんにも、自己評価が低いと言われたんだったわ……)


 恐らく目利きであろう二人、ヘレナとレイクロフトから一日で同じようなことを言われるとは、思ってもみなかった。


(……私はいつから、そうなっていたのかしら)


 レイクロフトに言われた口癖はいつからだった?

 どうしてそれが口癖に?


 いつからかは思い出せない。けれど原因はきっとレイクロフトが言った通り義家族にあるだろう。


 レイクロフトの指が唇から離れたところで、アメリアが口を開く。


「……お継母様たちに散々言われたんです。“お前なんかにはもったいない”って……。ドレスも、食事も、何もかも。私にはもったいないと言われ過ぎて、私も自分で言ってしまっていたようですね。口癖になっているだなんて、気づいていませんでした」


 アメリアの顔が複雑な色に染まる。


 怒り? 悲しみ? 痛み? 恨み?


 そのどれでもない、あるいは全てがないまぜになったような感情が、彼女の中に湧き出てきているのだろう。


 そんなアメリアに、レイクロフトは言葉をかける。


「言葉には魂が宿ると言うだろう? アメリアが浴びせられたひどい言霊が悪さをしていただけだ。これから変えていけば良い」


 彼はにかっと笑い、是正策を出した。


「そうだな例えば……褒められたときは“私なんか”と謙遜するのではなく“ありがとう”と口にするようにしてみるとか。とにかくその口癖を言わないように意識してみてほしい」


 無意識で口癖がついてしまっていたアメリアに、返答の例えをくれるのはありがたい。


 謙遜や卑下ではなく、お礼で返す。

 それならばできそうだと、アメリアはこくんと頷いた。


「ありがとうございます。意識してみます」

「ああ。……あ、そうだ」


 ここでさらに、レイクロフトはあることを思い付いた。


「ただ意識してるだけじゃつまらないから、もしまたアメリアがその口癖を使ったら、何か罰ゲームをするのはどうだ?」

「!」


 まるで悪知恵を働かせた子供のように、右の口角をあげてにやりとした笑みを見せるレイクロフト。

 課せられる側のアメリアはただただ驚き、このあと出てくるであろう内容を前に少しだけ怯える。


「ば、罰ゲームですか……?」

「例えばそう、“私なんか”と口にする度に俺のことを名前を呼ぶ、とか」

「え!?」


 予想の斜め上をいく罰だ。

 というか、罰と呼べるのかも怪しい。

 だが、王様であるレイクロフトのことは通常「陛下」と呼ばなくてはならず、名前で呼ぶなんてあってはならない。


「そそ、そんなことできません!」

「何もみんなの前で呼べと言うわけではないからそこは安心してよい。それにあくまで罰ゲームなのだから、アメリアはとにかく“私なんか”という口癖を言わなければ良いだけだぞ?」


 簡単だろ?と言いたげな顔をされて、言い返すことができない。


 口癖というのは無意識に口から出てしまうから口癖になっているのであって、たとえ意識したとしても、発言をゼロにすることはきっと難しい。


(でも、陛下はそれも分かった上で楽しんでいるみたいね……)


「……わ、分かりました。がんばり、ます」

「ああ。楽しみにしてるぞ」


 レイクロフトの『楽しみ』というのは間違いなく、アメリアが罰を受けるのを、ということだろう。

 もちろん根本の、口癖が出なくなることも期待してはいるのだろうが、直近はとにかく名前を呼んでもらおうという、それを楽しみにしていることがありありと伝わってきて、当の本人であるアメリアは複雑な気持ちでいっぱいだった。

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