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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第二章

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36. エンレットだけが持つ『王竜の目』

 洞窟の外に出たは良いものの、ここからどうするか。


 三匹の子竜を抱えては馬に乗れない。

 しかし、歩いて行くには竜の谷は遠すぎる。


「とりあえず谷の方へ向かおう。恐らく途中で上を飛んでいる誰かには会えるはずだ」

「はい」


 今は竜の谷の竜総出で子竜を探している状況だ。

 レイクロフトが言う通り、歩いていれば誰かが頭上を通るだろうから、そのとき声を出して拾ってもらうしかない。


 あとは誰かに合流する前に、密猟者が現れないことを祈るのみ。


 アメリアとレイクロフトは緊張感を持ちながら、歩き始めた。



***


「大丈夫かアメリア」

「はい、まだまだ行けます」


 尚もぐったりとして動かないヒューイを抱えているアメリアに対し、声をかけるレイクロフト。


 レイクロフトも二匹の子竜を抱えているが、彼は全くもって余裕そうだ。


「そうか。そろそろ誰かと合流できると思うんだが……」


 そう言って空を見上げると、バッと黒い影が通り過ぎた。


「あ」

『ママだ!!』


 レイクロフトの右腕に掴まっていた子竜がそう声を上げた。

 目にも止まらぬ速さで通りすぎた影が母親だと分かるだなんて、竜の親子には何かセンサーみたいなものでもついているのだろうか。

 アメリアにそう思わせるほどに、子竜の『ママ』発言はすごいことだった。


 しかしそうやって叫んでくれたことにより、一度は通りすぎた母竜は急いで引き返してきてくれて、アメリアたちの目の前に降り立った。


『ああ……! わたしの可愛い坊や』

『ママー!!』


 子竜の一匹がレイクロフトの右腕を離し、母竜に向かって一直線に飛び込んで行った。

 母竜は首を下ろし、子竜を思い切り抱きしめた。


「……感動の再会ですね」

「そうだな。無事に会わせてあげられてよかった」


 母竜はずっと心配しきりで辛かっただろう。

 こうして無傷な子竜を抱きしめられて、今どんなに幸せか。その顔からは安堵と喜びの気持ちが溢れ出ている。


 だが、レイクロフトたちにはあまり時間がない。


「喜んでいるところすまないが、ここは危険だから長居ができないんだ。俺たち全員を谷まで乗せて行って欲しいんだが、可能だろうか?」

『問題ないわ。乗って』


 レイクロフトからの頼みを聞き入れた母竜はクイッと踵を返して背中を見せた。


「問題ないそうです」

「そうか。ありがとう、助かるよ」


 そうしてアメリアたちは母竜の背中に乗って、無事竜の谷へと帰還したのであった。



***


 竜の谷に到着するや否や、谷中の竜たちがアメリアたちのところへ群がってきた。

 行方不明になっていた三匹の子竜が戻ってきたのだから当然ではあるが、この谷にこんなに竜がいたのかと思うほどの圧巻の数だ。

 竜から竜へと子竜が見つかったことが伝達されていき、散り散りになって外に探しに行っていた竜たちも続々と戻ってきている。


 しかし、そんな竜たちへの説明は後だ。

 まずは未だ意識のないヒューイをどうにかしなければいけない。


「エンレット!」


 丁度エンレットも戻ってきたので、レイクロフトが名前を呼んだ。


 レイクロフトたちを囲むように集まっていた竜たちも、王竜が現れたことでザッと一箇所、エンレットが降りるための場所を空けた。


 レイクロフトは乗ってきた母竜の背中からヒューイを下ろし、抱きかかえたまま、降りてきたエンレットに見せに行く。


『レイ、何があったの?』

「三匹のうち二匹は無傷だ。このヒューイだけ意識がない」

『確認するわ』


 エンレットはコツン、と自分の額をヒューイの額に当てた。その体勢で瞼を閉じて何かを確認しているようだが、レイクロフトはそのまま話を続ける。


「やはり三匹は密猟者に拐われていたようだ。ヒューイはあとの二匹を守ろうとして犯人に噛みついて、何かを注射されたせいで意識がないらしい」

『……』

「とにかく毒でなければ良いんだが……」


 無言だったエンレットがパチッと瞼を上げ、レイクロフトを見て言った。


『大丈夫、毒ではなさそうよ。この子の体内に有害なものは何も感じられなかったから、時間が経てば目覚めるはず』

「! そうか! よかった」


 パァッとレイクロフトが笑顔を見せる。

 会話を聞いていたアメリアも、一緒に安堵した。


 それから、レイクロフトはきょろきょろと辺りを見渡す。


「そうだ、ヒューイの親はどこにいる?」


 エンレットも頭を上げてぐるっと見渡すも、親竜の姿は確認できなかったようだ。


『二匹ともまだ戻ってないようね。じきに帰ってくると思うわ』

「じゃあとりあえず、ヒューイを巣穴に連れて行くか?」

『そうね。こっちよ』


 エンレットが巣穴の方向に歩き出し、レイクロフトはヒューイを抱えてついて行った。

 その後ろを、アメリアも追いかけていく。



 ……巣穴まで歩きながら、レイクロフトがアメリアに話しかけた。


「さっきの、エンレットが何をしたか分かったか?」


(さっきのって……。額を合わせていたアレよね?)


「いえ……。ヒューイさんの状態を調べていたようですが……竜はみなさん、そのようなことが出来るのでしょうか?」

「いいや。あれはエンレットにしかできない」


 レイクロフトはパートナーの特技を自慢げに語る。


「俺たちはアレを、『王竜の目』と呼んでいる」

「王竜の目……。確かそんな名前を、王妃教育の中で聞いた気がします」

「おおそうか。なら話は早い。王竜の目は代々王竜となった竜にのみ受け継がれる能力で、さっきみたいに額を合わせることで相手の体内の気を読み取れるんだ」

「だから、ヒューイさんが眠っている理由が毒ではないと分かったんですね」

「そういうことだ」


 種明かしをしてもらい、合点が入った。

 エンレットの能力を知り、アメリアはただただ感嘆する。


「すごいですエンレットさん」

『ふふ。ありがとう』


 アメリアが前方を歩くエンレットに褒め言葉を投げると、エンレットは少しだけ顔を後ろに向けて、微笑みを見せた。


 それからアメリアたちは、ヒューイがいつも寝起きしている巣穴に到着し、ヒューイを奥に寝かせた。しばらくしてヒューイの親竜も戻ってきたので、事情を説明して目を覚ますのを待つように伝え、アメリアたちは王宮に戻ったのだった。

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