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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第二章

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34. 拐われた子竜

 ひとしきり泣ききり、もう涙も枯れ果てただろう頃。見計らったかのように、再びフィンが執務室を訪れた。


「失礼します陛下。……っ!」


 入った瞬間、アメリアの肩を抱き寄せるレイクロフトが目に入り、複雑な表情を浮かべる。


「ななっ、何を……!?」

「どうしたフィン。何かあったか?」


 しかし、そんな反応はものともしないレイクロフトは、冷静に対応した。


「それが……」


 アメリアがいることで話すことに躊躇いを見せたフィンだったが、レイクロフトがそのまま話させる。


「アメリアになら何を聞かれても問題ない。良いから話せ」


 本当は、アメリア自身はすぐにでも部屋を去ろうと思ったのに、レイクロフトがその手を離してくれず、身動きが取れずにいたのだ。

 ……が、見えないところでそんな攻防が繰り広げられているとは知らないフィンは、ふてぶてしいやつめ、と言いたげな表情でアメリアを見て、それから言われた通りに要件を話し始めた。



「子竜が三匹……行方不明だと」



 行方不明という言葉を聞いて、レイクロフトの眉間に皺が寄る。


「……誰も見ていなかったのか?」

「三匹で遊んでいると思っていたそうです。お互いに目を光らせていても、一緒に行動していた三匹ともに連れ去られたとなると……」

「消えたことに気づけない、か」

「はい。最後に見たのは三時間ほど前だそうです」

「そんなに?」

「取り急ぎパンガルトに通じる道は封鎖して、検問も厳しくするよう通達しました」


 適切に現状を報告していくフィン。

 レイクロフトも即座に話を理解しながら険しい顔をする。


「連れ去られたと仮定して……三時間も経っているとなると、すでに闇市に渡ったかもな」

「三匹も一遍に、ですからね。その可能性が高いでしょう」

「……ライロとシズマを先発隊に任命する。国境付近へ向かい、子竜たちの足跡そくせきなどがないか探ってくれ。俺はエンレットと合流して一度竜の谷に行き、竜たちの様子を確認する」

「承知しました」


 レイクロフトの命令を受けて執務室を出たフィンは、王宮の裏手で待機していたライロの背に乗り、颯爽と飛び立って行った。


***


「みんなはどんな様子だ?」

『動揺しているわね。三匹も消えたのだから無理もないけれど』

「匂いも辿れないのか?」

『三匹の親たちがそれぞれ探ったけれど、どの子も南側、谷付近で途切れてしまっているそうよ』

「その点は奴らが対策済みってことだな」


 フィンとは別隊として、エンレットとともに竜の谷に向かったレイクロフト。

 竜の谷に到着したら、まずはエンレットが竜たちの様子を伺い、レイクロフトに伝えた。


 そしてそこに次いで一緒に来ていたアメリアも、エンレットが会話したのとは別の竜たちの様子を伝える。


 レイクロフトはアメリアに、泣いた直後だから王宮に残っていても良いと言ってくれたが、この状況で何もせずにはいられず、アメリアも付いてきていたのだ。


「こちらも同じ感じです。最後に目撃されたのは、南側の出入り口付近のようでした」

「じゃあ俺たちは、そちらからパンガルトへ向かう道を探してみよう。エンレット、頼めるか?」

『ええ』

「あ、私は……」


 エンレットの背に乗ろうとしたレイクロフトを見て、アメリアが慌てて言う。


「私は、馬車で行っても良いですか?」


 竜で飛ぶよりも距離は行けないけれど、アメリアの能力は、陸地だからこそ役に立つ。


「馬車に乗りながら、外の声に耳を澄ませます。どこかで、子竜の声を聞くことができるかもしれません」


 空を飛んで探す場合、目を凝らして下を探すしかない。広範囲を確認するのには効果的だが、例えば森の上を飛ぶときは木々の葉が邪魔してしっかりと確認ができないだろう。そういった場所は馬車や馬を使い陸路を移動しながら探す方が効果的だ。


 アメリアは瞬時にそれを提案したのだ。


「……それもそうだな。エンレット、上はお願いできるか?」

『大丈夫よ』


「え、あの、私は一人でも、」

「密猟者と出くわす可能性もあるのに一人で行かせられるわけがないだろう。それに、馬車よりは馬の方が早い。俺が馬を走らせて、アメリアには声を拾ってもらうのが良いと思うが?」


 一人で馬車で行く気満々だったアメリアだったが、それはレイクロフトに止められてしまった。


 確かに言われてみればその通りだ。


「あ……では、お願いします」


「よし。エンレット、何かあればすぐ俺の元へ」

『分かったわ。レイも気をつけてね』

「ああ」


 レイクロフトはエンレットの頬をさすり、ほんの数秒、互いの安全を祈ってからそれぞれに出発した。



***


 アメリアたちはすぐに馬を調達し、陸路を行った。


 もうじき日も暮れる。

 日が落ちてしまうと、いよいよ捜索は困難になってしまう。そんな思いから、だんだんと焦りは増していく。


「あの……」

「どうした?」


 そんな中、走り通しだった馬を少し休める意味もあり、パカ……パカ……と少し速度を落として馬を歩かせていたレイクロフトに、アメリアは尋ねてみた。


「闇市って、どういうところですか?」


 フィンが報告に来たとき彼は、子竜たちがそこに渡ったかもと言っていた。


「危険な場所なのでしょうか?」


 これまで外に出て来なかったアメリアには縁もゆかりもないところ。知らなくて当然である。


「闇市は……表では売買できない品物、例えば盗品などが取引される闇の市場だ」

「それって……」

「竜の売買なんて表立ってできるわけがないからな。密猟者たちは闇市に渡すか、あるいはうまいこと積荷に隠したりして密輸している」

「そんな、ひどい……」


 子竜たちは、まだ十歳に満たないと聞いた。

 幼い子供が突然闇市なんてところに連れて行かれたら、どれだけ怖い思いをするのだろう。

 考えただけで、胸が張り裂けそうに辛い。


「法の規制が利かないところだから、こちらとしては無くしたいんだがな。闇市はどこからともなく現れて開催されるし、黒幕はもっぱら大物貴族、客もまた然り。俺たちは今まで一度もその尻尾を掴んだことがない」


 王室が抱えている情報屋を以てしても尻尾すら掴めないということは、闇市という場所の秘匿性が凄まじいということだ。

 もしそこに渡ってしまっていたら、もう取り戻しようがない。


「……早く見つけてあげないとですね」

「ああ」


 改めて事の深刻さを理解したアメリアが呟き、レイクロフトは短く頷いた。




────その時だった。




『……ぃ』


 馬の足音に消されるほどの小さな声が、アメリアの耳に届いた。


(? ……今の……気のせい?)


 空耳かとも思いつつ、声がした方へ耳を澄ませる。



 静寂の森の中。

 そこに響くのは、風が吹いて木々がざわざわと揺れる音ばかり。

 ……そんな中で、確かに聞こえた。



『さむい……』

「!」


 アメリアは目を見開いて、声のした方を見る。


「陛下! 今、あちらから声が!」

「なに? 行こう!」


 その声はレイクロフトには聞こえていなかったようだが、アメリアが指さした方へ急いで馬を走らせた。

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