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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第二章

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30. 可愛いドレスを試着して

 採寸を終えてフィッティングルームから出ると、レイクロフトがいくつか見繕ったドレスたちが前方に並んでいた。


「お。終わったのか?」

「はい」

「どうだ? 好きな色は浮かんだか?」

「……」


 採寸が流れるような速さで進んでいったこともあり、正直その質問のことは忘れてしまっていた。

 すぐ答えが出てこなかったので察したのか、レイクロフトが言う。


「まあもしなければ、似合う色とかそういう基準で選べば良いだけだけどな。サンプルを見せてもらって、俺としてはこの辺りがアメリアに似合いそうだと思ったんだが、アメリアはどう思う?」


 そう言ってレイクロフトは、前方に並べられたサンプルドレスたちを自信満々に示した。


 一つ目、白のドレスは形こそベーシックなプリンセスラインだが全体にレースがあしらわれている。仕立て屋の技術が必要とされるデザインだろう。

 二つ目の暗めの青色のドレスは、体の線が綺麗に出るマーメイドラインで、細かく縫われている小さな宝石が光の反射で輝くと、まるで星空を表したように見える。

 三つ目は淡いピンク色のドレス。形は一つ目の白のドレスに近いが、こちらはレースの七分袖が付いている。それに、背面の腰元には大きなリボンが一つ付いていて、可愛らしい印象だ。


 さすが高級ブティックなだけあって、どれも華やかで気品に溢れ、輝きを放っていた。


「どれも素敵です」


 アメリアはドレスたちに見惚れながら言う。

 しかし素敵だと思えば思うほどに、自分が着ても似合うわけがないとも思ってしまった。


「この中に気になるものはあるか? 一番に着てみたいと思ったものとかでも」


 あまり自分の意見を言わないアメリアから彼女の気持ちを引き出そうと、レイクロフトはいろんな角度から質問をぶつけていく。


「気になるもの……」


 そのとき、チラリとアメリアが視線を向けたのは、淡いピンク色のドレスだ。


「これか?」

「あ、でも私には可愛すぎですしきっと似合わないと思います」


 視線ですぐレイクロフトにバレてしまったのだが、アメリアは自分には似合わないだろうと否定した。しかし、レイクロフトは首を傾げる。


「何を言ってるんだ。ドレスよりアメリアの方が可愛いだろう。むしろドレスはアメリアの可愛さをさらに高める引き立て役に過ぎん」

「え……」

「一度着てみると良い。ヘレナ、試着も頼めるか?」

「はい。ウッドヴィル様、こちらへ」 

「……は、はい……」


 ヘレナは手早くマネキンからドレスを取り、アメリアを再びフィッティングルームに案内した。



 フィッティングルームでヘレナに着替えさせられながら、アメリアは頭の中で考える。


(陛下には私がどう見えてるのかしら……。私なんかを可愛いだなんて、あり得ないのに)


「先ほどの陛下のお言葉を考えてらっしゃいますか?」

「え!?」


 ずっと黙々と仕事してくれていたヘレナが口を開き、アメリアの頭の中を読んだかのように的確に言い当てると、アメリアは驚いて目を見開いた。


「あの、口に出してましたか……?」

「いえ。お顔が険しかったので、きっとそうだろうと思っただけです」

「あ……」


 そう言われて自分が眉間に皺を寄せてしまっていたことに気づいたアメリア。

 首をふるふると振り、両手でグイッと皺を伸ばす。


 その様子を見ていたヘレナは、自身の手を動かし続けながらアメリアに尋ねた。


「恐れながら申し上げますが、ウッドヴィル様は自己評価が低くていらっしゃるのではないですか?」


 アメリアは不思議な顔をして聞き返す。


「自己評価……ですか?」

「はい。なんとなく、これまでの言動を見るにそうなのではないかと」


(……言われてみれば?)


「……そうかもしれません」


 アメリアは伏し目がちにそう答えた。

 自分ではそんな自覚がなかったらしい。


 一時フィッティングルームに沈黙が流れるが、ヘレナが再度口を開いた。


「……このドレスを作った者として一言申し上げますと、このドレスはウッドヴィル様によくお似合いになると思います」


 ドレスの試着も仕上げにかかろうというところ。

 最後に裾を綺麗に整えれば終わりだ。


 ぱっぱっと裾を整えながら、ヘレナは続ける。


「ウッドヴィル様のピンクの瞳はまるで宝石のように美しく、銀色の髪も透き通るような繊細さ。そのどちらの色も引き立てるのに、こちらのドレスはピッタリです。それに、採寸してみたところウッドヴィル様は腰も腕も細く華奢で、身長は162㎝と平均ほど。年齢もまだ若いので、可愛らしいドレスが似合わないわけがありません」

「そ、そうでしょうか……」


 褒められ慣れていないアメリアは、無表情のヘレナにそんな風に言われても尚、簡単には信じられない様子だ。


「まあでも、百聞は一見にしかず、ですね」


 ヘレナはアメリアをくるりと反転させて、背後にあった全身鏡でドレスを着た姿を見せる。


 そこにいるのは紛れもなくアメリアで、だけどその姿は、これまで見てきたどの自分よりも輝いて見えただろう。


「え……」

「どうですか? これでもまだ似合わないと思いますか? 今回は試着なので割愛しましたが、ここにアクセサリーを着けて、それから髪や化粧もしっかり施せば、より美しくなられます」


 アメリアは言葉を失った。

 ヘレナの言う通り、ドレスアップと言うにはいささか足りない部分があるのに、それでも目の前の自分は、美しいと感じたのだ。


「すごい……。こんなに素敵なドレスなのに、ドレスが浮いてません。一体どうして……?」

「もちろん、ウッドヴィル様に素質がおありだからです」

「そんな……私なんかに素質なんて……」

「誰かにそう言われたのですか? このようなことを言ってはなんですが、ウッドヴィル様は私が見てきたお客様の中でも五本の指に入る素晴らしい容姿かと」


 ヘレナに面と向かってそう言われると、アメリアは呆気に取られて何も言えない。

 彼女はこの高級ブティックで数多くのお客と対面してきただろうに、そんなことを言ってくれるなんてどれだけ光栄なことなのか。


「言っておきますが、誰にでも言ってるわけではありませんからね。私、正直がウリなもので」


 そう補足され、ますます呆然としてしまう。


(本当に……? 本当に私がそんな……)


「一度、このお姿を陛下にお見せしましょうか。陛下の反応を見たら、もう少し自信が持てるかもしれませんし」



 ヘレナはフィッティングルームの扉を開けて、レイクロフトを室内に招き入れた。

 入ってきたレイクロフトが目にしたのは、ピンクのドレスがよく似合い、天使のように可愛らしいアメリアの姿だ。


「すごい! 似合ってるぞアメリア!」


 彼はすぐさまアメリアを褒めちぎった。

 その勢いに圧倒されたアメリアは、恥ずかしさを感じつつも、彼の嘘のないまっすぐな瞳を見ると、少しだけ自信のようなものが湧いてくる気がした。


「……よしじゃあ今回はこれにしよう!」

「え」

「ヘレナ、これに合うアクセサリーも見繕ってもらえるか?」

「かしこまりました」


 レイクロフトに言われて、ヘレナはサッと店の奥に行ってしまった。


 でもちょうどよかったかもしれない。

 オーナーがいる前では言いづらかった。


「あの陛下。大変申し上げにくいのですが、このドレスも高そうなのにアクセサリーまでなんて私には……」

「ドレスだけ給金で買うと良い。アクセサリーは俺からプレゼントさせてくれ」

「ですが、」

「給金が多すぎると言っていただろう。俺としてはそのまま受け取って使って欲しいが、アメリアの性格を考えるとそのままどこかにしまいこみそうだと思ってな。そこでだ。アメリアの気に入るドレスを、アメリアのお金で買ってもらえば丸く収まるんじゃないかと考えたんだ。もし俺がまたドレスを買うと言っても素直には受け取ってくれないだろう?」


 アメリアに渡す額を決めた時から、レイクロフトは良い使い道を考えていた。

 給金をもらったその日に街に行こうだなんて驚いたけれど、彼なりにいろいろ考えてくれていたのだと知り、アメリアは嬉しくなった。


「それで今日、こちらに……。たしかに、私のお金で買うのであれば遠慮しようがないですね」

「ああ。だから、アメリアには本当に気に入ったドレスを選んで欲しい。他にも試着しなくてよいか?」

「……はい。私はあれが気に入りました」


 レイクロフトにもヘレナにも褒めてもらえたドレスだ。気に入らないわけがない。


「それでその、アクセサリーは俺の自己満足というか……アクセサリーは俺がこの後買って、アメリアにプレゼントするものを着けて欲しいんだが……良いだろうか?」


 レイクロフトは眉尻を下げ、まるでいたずらをしてしまって怒られるのかとビクビクする子犬のような顔で確認してきた。

 そんな顔をされては、遠慮するのも可哀想だ。


「……はい。ありがとうございます、陛下」


 アメリアはクスッと笑い、その提案をのむことにしたのだった。

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