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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第二章

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29. ブティックと笑わないオーナー

 何の躊躇いもなく店の中まで入っていくレイクロフトとは対照に、アメリアはその店の格式高さに恐れ慄いた。


(こ、こんなきらびやかなお店初めてだわ……)


 アメリアの住んでいた辺境領にもブティックはあったけれど、ここまで豪華ではなかった。


「どうしたアメリア? 早くこちらへ」


 入り口近くで立ち止まったアメリアを、レイクロフトが手招いた。

 名前を呼ばれてハッとしたアメリアは「すみません」と謝りつつ、レイクロフトの近くまで駆け寄る。


「アメリア。こちら、この店のオーナー兼デザイナーのヘレナだ」


 レイクロフトは、彼の隣にピンッと背筋良く立っていた女性──ヘレナを紹介してくれた。

 ヘレナは固い表情のまま挨拶をしてきた。


「陛下が店舗までいらっしゃるなんて何事かと思えば、素敵なお連れ様がいたのですね。なんでもお申し付けください」

「あ、よ、よろしくお願いします。アメリア・ウッドヴィルと申します」


 ヘレナは、髪の毛をオールバックにして後ろでお団子を結っている。それに、黒のロングワンピースに身を包んでいるので上から下まで真っ黒な印象を受けた。だからだろうか。首からかけている細長い黄色のメジャーと、手首に着けているピンクのピンクッションが逆に際立つ。

 デザイナーということなので、すぐにでも採寸や裾直しなどができるように常にその道具を身につけているのだろう。

 しかし気になるのは、その口角……いや、表情筋が全く働いていないことだ。真っ黒の様相で笑わないと、少し怖い。


 だが、レイクロフトは何も気にせず、慣れた様子でヘレナに注文をする。


「早速で悪いんだが、アメリアの採寸をお願いできるか? それと、いくつかサンプルも見せてほしい」

「え?」

「承知しました。ウッドヴィル様、こちらへどうぞ」

「え?」


 レイクロフトがさらっとヘレナにお願いしたのは、アメリアの採寸。

 まさか自分が採寸されるとは思っていなかったアメリアは展開についていけない。


「あの、私の採寸、ですか? 陛下のではなく?」

「俺のは定期的に王宮で測っているからいらないんだ。でもアメリアは、最近食事量が増えて健康的になってきたし、せっかく新しくドレスを買うならサイズもぴったり合わせた方が良いだろう?」

「……?」


 レイクロフトの採寸は必要ないことは分かった。

 問題は後半の部分。


「……新しく、買う?」


(それはつまり、私のドレスを新しく買うってことよね?)


 なぜいきなりそんな話になっているのか、皆目見当がつかない。アメリアはこれまでの会話を頭の中で呼び起こし、自分が何か忘れているのかと必死に脳内で検索する。

 そんなとき、レイクロフトが「あ」と声を上げた。


「もしかしてまだアメリアには伝わってないのか? 今度、王宮で俺の誕生日パーティーが開かれるんだ。アメリアにも勿論参加してもらうつもりだから、それ用に新しくドレスを買おうかと思ってる」


(き、聞いてないわ……)


「その顔だと聞いてなかったみたいだな。驚かせてすまない。でもそういうことだから、アメリアも自分が着たいと思うドレスを探してくれ」


 アメリアが何かを発言する前に、レイクロフトは彼女の気持ちを読み取って話を進めた。


(探すって……)


 事の次第を理解したのも束の間。

 この豪華なブティックの新しいドレスだなんて一体いくらするのかと不安になる。

 それから、王室御用達ブティックのドレスともなればきっと素敵に違いないから、自分に似合うわけがない。

 そして、もう一つ思うのは。


「あの、陛下……。私は、先日陛下からたくさんドレスをいただいたばかりですので、あの中のどれかで十分です」


 先日突然ドレスが何着も部屋に届き、食事も豪華になったのは記憶に新しい。

 届いたドレスはまだほとんど着る機会もなくワードローブにしまってあるのだ。新しいドレスを買うのは、それらを着てからの方が良いだろう。

 しかし、レイクロフトの意志は変わらなかった。


「ああ。あれは取り急ぎってことでアメリアに似合いそうな流行りのドレスを見繕っただけなんだ。普段着る服もアメリアは手持ちが少なそうだったから、そういうものも含めてな。だけど、今日はようやく時間が取れるから、ちゃんとアメリア自身の目で見て気に入るドレスを選んでほしいんだ」

「私の気に入るドレスですか……」


 そう言われても、自分でドレスを買うなんて生まれて初めてだ。

 母が生きていた頃は母が選んでくれていて、継母が来てからはドレスを買う余裕もなかったから。

 一体何を基準に選べば良いのか分からなくて、アメリアは目に見えて戸惑っている。


 そんなアメリアにヘレナが尋ねた。


「お好きな色はありますか?」


 表情は全く変えずに、淡々とした問いだ。


「あるいは、好きなタイプやデザインでも。仰っていただければ理想のドレスを探します。もし既成のもので見つからなければ、作ることも可能です」

「あ、えっと……」

「すぐ答えるのが難しければ、採寸の間に考えていただければと。こちらにどうぞ」

「は、はい」


 結局即答できなかったアメリアは、ヘレナに誘導されてフィッティングルームに入った。

 それ後は、あれよあれよと言う間に服を脱がされて下着姿にされ、体の隅から隅まできっちり採寸されたのだった。

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