28. 街へ出掛ける
前回更新からかなり時間が経ってしまいました!> <
ブクマ外さずに待っていてくれた読者の皆様、ありがとうございます!
本日から連載再開します!よろしくお願いします!
この日、朝ご飯を食べ終わり、部屋で休んでいたアメリアの元にレイクロフトがやって来た。
「これを渡しに来た」
そう言ってレイクロフトは、胸元からごそごそと茶色い封筒を取り出した。
それが何なのか分からないアメリアだったが、レイクロフトが差し出してきたので、不思議に思いながらもとりあえず受け取ってみる。
「あの、これは……?」
手に取ってみても分からない封筒の中身。
開けて良いのかも分からず、アメリアはレイクロフトに尋ねてみる。
するとレイクロフトは満面の笑みで「開けてみてくれ」と言った。
言われるままに封筒を開けてみると、中には……。
「え……!?」
目を見張るほどのお札が入っている。
思わずレイクロフトの顔を二度見した。
「アメリアがこの国で働き始めて一ヶ月半が経過した。それは君の初任給だ」
「しょ……?」
(初任給? この額が?)
パンガルトとルフェラの通貨単位は同一でゼニー。
働いた経験はないけれど、パンガルトでの初任給の相場の心得はあり、確か二十万ゼニーほど。
……とすれば、封筒の中身は何かの間違いだろう。
でなければ、パンガルトの相場より何倍も多い七十万ゼニーが手渡されるなんてこと、ありえない。
(あ、そうだわ。確かお給金の一部は実家に……)
「ああちなみに、初めに約束していた通り、アメリアの給金の一部は君の実家の借金返済に充てているから、そこに入っているのはその分を差し引いた額だ」
まるでアメリアの心の中を読んだかのように、レイクロフトはさらりと補足した。
実家へ送る分すらも差し引いた……つまりこれは、純粋にアメリアが使えるお金ということだ。
「な、何かの間違いではないでしょうか? こんな……多すぎます」
「多すぎるものか。レディエの問題を解決して彼女の命を救ったし、竜たちに毎日ご飯も与えている。それに竜たちからの評判も良いし、実績を加味すれば多すぎるということはない」
恐縮して慌てて封筒をまるごと返そうとするアメリアだったが、レイクロフトは返品を受け付けない様子で腕組みをする。
「ですがこんなに……」
「ところでクロエ。今日のアメリアの予定は?」
まだ納得のいかないアメリアを通り越して、レイクロフトは奥に立っていたアメリアの侍女のクロエに尋ねた。
「今日は午後からスピーチの講義を予定しています」
「じゃあそれはキャンセルで頼む」
「…………承知いたしました」
淡々と答えたクロエに対し、さらりとキャンセルを言いつけるレイクロフト。
一瞬考えたクロエだったが、特に反論することなく受け入れた。
その流れについていけないのは当の本人であるアメリアただ一人。
「アメリア。出掛ける支度を」
「え、あの……」
「今日は街に行くぞ!」
意気揚々とそう言ったレイクロフトとは反対に、アメリアはただ目をぱちくりと瞬かせていたのだった。
***
レイクロフトに促されるまま、そしてクロエにされるがままに外出用の服に着替えたアメリア。
先日レイクロフトから訳も分からずドレスが贈られてきて、その中には普段使いできそうな服も数着交じっていた。今回アメリアが着替えたのはその中の一着で、程よくフリルがあしらわれた白いシャツの上にワンピースを着るタイプ。空のように淡い水色のワンピースは、腰元がキュッと絞られており、その下はふんわりと裾が広がる可愛いシルエットの服だ。
その後レイクロフトと共に馬車に乗り、揺られること十分程度。
ルフェラの街にやって来た。
馬車の中から見える景色は、パンガルトとは違った様相で見るだけでも楽しい。特に一番異なる点は、見渡せばそこかしこに竜がいること。
建物の上で休んでいる竜もいれば、空を飛び回っている竜もいる。中には、人間と一緒に店頭に立っている竜も。
(……あの竜は主従契約を結んでいるのね)
ふと目に入ったのは、露店でパンを売っているお店。白髪のおばあさんがゆったりと接客している隣で、薄緑色の竜がちょこんと座っておばあさんを見守っている。そしてその竜の喉元の逆鱗は欠けていた。
「どこか気になるお店でもあったか?」
「あ……いえ。先ほど通ったパン屋さんの店先に竜がいて……」
「ああ、あそこか。店主が二十代の頃に契約を結んだらしくて、もう四十年近く一緒に店に立っていると聞いたことがある」
「四十年……! そんなに長い間いつも一緒にいるって素敵ですね」
「運命の竜が見つかればそれくらいザラだぞ。長い者だと、子供の頃に出会って八十年くらいは共に生きるからな」
八十年と言う月日を共にする。
それを聞いて、アメリアは比べてしまった。
「…………家族よりもそばにいてくれる存在なんですね。竜って」
比べるべきではなかったのに、どうしても頭には自分の家族が浮かんでしまう。
レイクロフトは、アメリアの表情の翳りを見つつも、そのまま相槌を打った。
「そうだな。主従契約を結んだら、切っても切れない仲になる。人の中には平気で裏切るような奴もいるが、竜にはそれがない。人よりも気高く、強く、信頼に篤い。俺は、竜のいるこのルフェラに産まれて良かったと思うよ。……ああでも、パンガルトにはパンガルトの良さがあるだろうし、そちらの国を否定するわけではない。それは誤解しないでほしい」
竜の良さを語ったところ、アメリアの故郷を非難したと捉えかねられない発言をしたことに気づき、レイクロフトはすぐに訂正した。
「ぜひいつかパンガルトの街も見てみたい。今度パンガルトを訪問した際にはアメリアが案内してくれるか?」
「……私、ですか……? 多分私では、十分にご案内できないかと、」
「アメリアの育った街を見たいのだ。アメリアのお気に入りの店とか場所とか。そういったものを教えてくれればよい」
ここ数年は外に行けず、街がどれだけ様変わりしたかも分からない。そんな自分が隣国の王を案内するだなんて、力不足にも程がある。
けれどレイクロフトは、それで良いと言ってくれた。
ただアメリアの好きなところを案内してくれれば良いと。
(……もしかしてこれは社交辞令? 実際陛下がパンガルトに行く場合、行き先は辺境領ではなく王都のになるからそのときは宰相あたりが立派に案内できる人を付けるはずだもの。きっとそうね)
「……分かりました。そういうことであれば、お任せください」
「ああ。楽しみだ」
レイクロフトの言葉を社交辞令と受け取ったアメリアは、下手に断り続けてもいけないと考え、その場は適当に受け流すことにした。
そんな会話に一区切りが付いたところで、馬車が停車した。
「お。着いたようだな」
レイクロフトはささっと馬車から降り、アメリアもエスコートされながら馬車を降りた。
そして、目の前に立つ店の扉を開けると、そこはブティックだった。




