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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第一章

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24. マノを訪ねる

「……それで本題なのだが」


 いくつか他愛のない会話をして、二人とも食べ終わった頃。

 ようやくここでレイクロフトが本題を持ち出した。


「マノを見つけた」

「!」


 数日前、竜の谷でレディエと約束をした。

 アメリア自ら、レディエが運命を感じたマノという青年に会いに行き、なぜ主従契約を断ったのか確認してくると。


「良かった。見つかったんですね」


 本当は、レディエと約束したその日にでも会うつもりだった。アメリアたちが竜の谷から王宮に帰る復路の時間を抜いても、マノの住む一軒家を訪ねるくらいの時間の余裕はあったからだ。

 しかし、レディエから聞いた情報を元に森の中にポツンと建つ古びた一軒家を訪ねてみるも、そこに彼の姿はなく、その日は会うことができなかった。

 

 留守かと思い数時間はそこで待ってみたものの、その日マノは帰ってこなかった。

 そのためその日は諦めて帰ることになり、アメリアは翌日、翌々日と馬車を使って再度訪ねてみたのだが、どれも空振りに終わった。


 それを受けて、レイクロフトが一旦、緑竜のリュイリーンを家の前に配置した。マノが戻ったらリュイリーンがアメリアを呼びに王宮に戻るという方法に切り替えたのだが、なぜかマノは一向に姿を現さない。


 一応、アメリアたちが認識しているマノの居所が間違っていないかと、すっかり体力も回復したレディエにマノの家の上空までリュイリーンを案内させてみるも、そこはこれまで待ち伏せしていた一軒家で間違いなかった。


 ここまで来るともう待っていても仕方ない。

 アメリアは一軒家から一番近い街まで行き、マノを知っている者がいないか聞き込みをしてみた。しかし残念ながら誰も、「マノと言う栗毛の青年」を知らなかった。


 森の中の古びた一軒家に一人で住んでいる彼は、街の人とあまり面識がなかったらしい。


 そうなって、もはやこれ以上なす術がなくなったところ。

 奥の手として導入されたのは、レイクロフトが懇意にしている情報屋だった。

 その情報屋は先祖代々ルフェラの王に仕えており、その腕と秘密保持の観点ではかなり優秀らしい。


 そんな凄腕の情報屋に、マノの調査を依頼してから数日。

 ようやくマノが見つかったという報告が聞けたということだ。



「マノさんは今どちらにいらっしゃるのですか? 私がすぐにでも会いに、」

「あー、それがだな……」


 アメリアは立ち上がろうとしたが、なぜかレイクロフトが渋い表情で言い淀む。そんな言い方をされては、アメリアは動きを止めるしかない。


「何か問題でも?」

「んー、あー、その、なんだ……? なんて言ったらいいのかあれなんだが……」


 いきなり歯切れも悪くなる。

 やっとマノに話を聞きに行けるのに、何を言い渋ることがあるのかと、アメリアは首を傾げる。


「何でしょうか?」

「……見つけたには見つけたんだが、事情が複雑そうでな」

「事情……?」

「…………いや、ここで話すのはやめておこう。あとは本人の口から直接聞いた方がいい。今回は近場だし馬車で行こうと思うが問題ないか?」

「はい」


 結局レイクロフトの口から答えは聞けなかったが、マノには何か事情があるらしい。


 馬車で良いかという問いにこくりと頷き、アメリアはレイクロフトと共に、マノがいる場所へと向かった。



***


 馬車に揺られること三十分ほど。

 レイクロフトとアメリアは、とある貴族の邸宅に到着した。


 レイクロフトのエスコートを受けてアメリアが馬車から降りると、門の中から執事と思われる男性が慌てて出てきた。


「よ、ようこそお越しくださいましたっ、陛下」


 アメリアたちが乗ってきた馬車には王宮のロゴが描かれている。だから、いかに突然の訪問でも、訪問者が国王陛下だということはすぐに分かったのだろう。

 執事に向かって、レイクロフトは尋ねた。

 

「突然すまない。オルセン男爵はいるか?」

「旦那様は生憎と外出しておりまして……」

「そうか。では、娘はいるか?」

「はい。お嬢様でしたらお部屋にいらっしゃいます」

「ならば問題ない。彼女と話がしたいんだが、どこか部屋を用意してもらえるだろうか?」

「お嬢様と……? あ、いえ。何でもございません! それであれば応接室にご案内いたします!」

「ああ、頼む」


 一瞬疑問を口に出しかけた執事だったが、相手が王様なので不敬になりかねないと察した。

 執事は口を慎み、扉を開いてレイクロフトとアメリアを邸宅に迎え入れた。


 アメリアが扉をくぐるとき、執事はちらりとアメリアを見た。口には出せないが、レイクロフトの隣に立つ女性が何者なのかと不思議に思っているのだろう。当然の反応である。


 執事のそんな様子に気付いたのか、レイクロフトはくるりと振り向いて教えてあげた。


「ああすまない。紹介できていなかったな。……アメリアは俺の大事な女性(ひと)だ。オルセン男爵のご令嬢に用があるのはどちらかと言うと彼女の方でな。俺はただついでに付いてきただけだ」


(……?)


「そ、そうでございましたか……」


(大事なひと……?)


 アメリアがきょとんとしてレイクロフトを見ると、彼はニッと口角を上げて笑った。

 その顔を見てから一拍遅れて、レイクロフトに大変な紹介のされ方をしてしまったと気付いたがもう遅い。


 不思議そうな顔をしていた執事も、もうアメリアと視線を合わせなくなっている。


(……あ、なるほど。そう言っておけば、この執事さんが何か追及してきたり変なことをしてきたりもできなくなるものね。私が竜の通訳士になったことは王宮でもごく一部の人しか知らないようだし、陛下なりに私を守ってくれたのだわ。……私ったら変な勘違いをしそうだったわ。恥ずかしい)


 執事の様子を見てそう感じとったアメリア。

 本当は、純粋に自身の気持ちを言っただけだったのだが、レイクロフトの真意はアメリアには全く伝わらなかったのだった。

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