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竜の通訳士になりました。 〜義妹に婚約者を奪われ隣国に追いやられたのですが、竜王に気に入られて求婚されています〜  作者: 香月深亜
第一章

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20. 共感するこころ

 巣穴の奥は、仄暗く静かな場所だった。

 日光が入らないからか涼しさも感じる。


 アメリアはそこへ、レイクロフトに手渡された松明を持って入って行く。


 赤茶色の体を持つレディエは、暗闇に混ざってしまいほとんど見分けがつかない。

 アメリアが地面に転がる小石を軽く蹴飛ばしてしまうと、その音で彼女は目を覚ました。

 すると空中に白目の部分が現れて、暗闇の中に彼女の瞳だけが浮かぶ。



「レディエさん。あの、」

『帰れと言ったでしょ』


 アメリアの言葉はピシャリと遮られ、再び瞳も閉じられてしまった。

 それでもアメリアは諦めない。


「あの、少しだけ……お話しさせてもらえませんか?」

『……』


 レディエからの返答はなかった。

 これ以上話したくないということだろう。


 それでも、アメリアは帰らない。


「えっと……。私……私も、レディエさんと同じだったんです」


 ゆっくりと、言葉を選びながら話し始めた。


「同じというと語弊があるかもしれませんが……。私も、ある人に見限られたと感じて……それからいろいろあって、この前まではほとんど自分の部屋に引きこもっていました。……レディエさんの言う“運命”というものがどういう感じなのかは私には分かりません。でも、同じように引きこもっていた私には、その、あなたの気持ちを理解できるところがある気がして……」

『……』



 レディエは変わらず無言だが、しかし、一度閉じた瞳は再び開かれた。

 アメリアの話に耳を傾ける気になったのだろうか。あと少しでレディエと話ができるかもしれない。アメリアは諦めずにもう一段踏み込んだ話をした。


「……私も、死にたいと思ったことがありました。……正確に言うなら、このまま何も食べずにいたら死ねるかなと、考えたことがありました」


(そう。今のレディエさんと、同じように……)


「うちは、数年前に母が病気で亡くなり、先日まで父と継母、それから義理の妹と暮らしていました。ですが、忙しい父はほとんど家におらず……いつからか、父がいないとき、継母や義妹の私に対する扱いは段々とひどくなっていきました。私に付いていた侍女は解雇され、食事は一日一食、しかも固くなったパンだけとか、お世辞にも美味しいとは言えない食べ物ばかりになりました。それに、食事以外にも何かと辛いことばかりで。無理して生き永らえるくらいなら、いっそ食べることをやめてこのまま死んだ方がマシなんじゃないかって。それにそしたら、最後くらいはお父様の目に留めてもらえるんじゃないかって。…………そんなことを考えてしまうくらいには、私も、追い詰められたことがありました」


 アメリアがそんな話をしていると、隣にいるエンレットからは殺気のようなものが出てきていた。

 きっとエンレットも口を挟みたいのだろうが、アメリアは何か考えがあって話しているようなので、下手に話を割ってしまわないよう我慢しているのだろう。それでも抑えきれなかった殺気が外に漏れ出している状態だ。


 その殺気は恐らく、アメリアの家族に向けたもの。アメリアに対してなんてひどい仕打ちをしていたのだと、怒っているのだ。


 それに気づいたアメリアは、エンレットに苦笑いを向けておいた。



「それでも私が生きているのは……。多分どこかで、期待していたからだと思います。いつか、お父様は気づいてくれるって。血の繋がった家族だから、いつかはもう一度、私の味方になってくれるって。そう思って……」


 言いながら、アメリアの瞳には段々と涙が溜まってきていた。


「レディエさんも、同じではないですか?」


 話を振られ、レディエの瞳孔が僅かに揺れる。


「だって本当に死にたいなら、いくらでも方法はあるじゃないですか。引きこもって餓死するなんて回りくどい方法は必要ないはずです。特に、餓死するにも一ヶ月ほどかかってしまうあなた方竜には回りくど過ぎます。あなたはまだ運命の相手に期待しているのでは? こうしている間にも、振り向いてくれるかもって。……私の考えが合っているなら、あなたはここで死ぬべきではありません」

『……』

「少しでも長く生きて、その方とパートナーになれる未来を期待して、何か行動を起こすべきではないでしょうか」

『……うるさい』


 ひたすらアメリアが語っていたところで、聞くに堪えなくなってきたレディエがようやく口を開いた。


『わたしだって努力したわ。何度も会いに行って、何度も主従契約をお願いした。でも彼は……振り向いてはくれなかった。彼と共に生きられないなら、生きていたくないのよ』


 哀しみで揺れる瞳から、悲痛な叫びが聞こえてくる。

 それほどまでに、レディエは傷ついているのだ。


 運命の相手から断られることはほとんどないというのに、それでもレディエは断られてしまったから。


「……その方から理由は聞けたんですか?」


 アメリアは素朴な疑問を投げかける。

 相手に何かしらの事情があるのなら、まだ説得の余地があるかもしれない。


「その方にも何か事情が……」

『好きじゃないと言われたわ』


 ……一瞬、そこに一筋の光が見えかけたのに、すぐ消えてしまった。


「好きじゃない……?」


 その理由はいささか単純。

 それに、レディエがこうして命を投げ出そうとしている理由として軽い気がする。


『……いま、“そんな理由で?”って思ってるでしょ?』


 アメリアの考えは、暗闇の中でもレディエに見抜かれてしまった。図星をつかれたアメリアはビクッと肩が少し動いた。


「え……え、と……」

『嘘が下手。分かりやすすぎ』

「……すみません」

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