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18. 竜の谷で再会する

「さ、手をこちらへ」


 アメリアとレイクロフトは、エンレットの背中に乗せてもらい竜の谷にやって来た。

 本来竜が背中に乗せるのは主従契約を結んだ人間だけらしいが、エンレットが許可をしてくれたので恐る恐るながら背中に乗せてもらったのだ。


 人が竜の背中に乗る時は乗馬のときに使うような鞍を付けるのでそこまで乗りにくくはないが、それでも、体力がなく乗馬すらままならないアメリアにはエンレットの背中に安定して乗ることは難しい。そのため、ぐらつくアメリアの体を、レイクロフトが後ろから包み込むように支えて乗っていた。そのおかげもあって、初めはその高さに若干恐怖もあったものの、後半は上空からの景色を楽しむ余裕があった。



 王宮から離れた山の中に位置する竜の谷。

 谷の中心は開けた平地になっていて、エンレットはそこを目掛けて静かに降り立った。


 そこから周りを見渡せば、崖のような壁面には至る所に穴ができている。一つ一つの穴が竜の寝床、言わば巣穴になって、その中では竜が休んでいるのだ。


 エンレットが地面に足をつけ落ち着いたところで、レイクロフトは華麗な身のこなしで先に地面に降りた。そして下から、アメリアに向けて手を差し出した。


 彼の手を取ることは少し気が引けたが、馬の背中よりも高い位置から一人で降りることは難しい。仕方なく彼の手を取ることにしたアメリアだったが、彼の手に自分の手を乗せて降りようとした瞬間足を滑らせてバランスを崩してしまった。


「きゃっ」

「おっと」


 落ちるようにして降りたアメリアは勢いよくレイクロフトの胸に飛び込むも、レイクロフトはそんなアメリアをその逞しい体で容易く支えた。


「……すす、すみません!」


 アメリアはすぐにハッとして自身の足で立ち直す。


「いや、問題ない。全然重さを感じなかったぞ」

「え……!」


 体重のことを言及され、アメリアは恥ずかしさで頬を赤く染める。

 それを見ていたエンレットが、すかさずレイクロフトに忠告する


体重の(そういう)ことは女性にとってデリケートな問題だからあまり言わないほうがいいわよ』

「え! 軽すぎるという意味だぞ!?」

『どんな意味でも、よ。レイはもう少し乙女心を学ぶべきね』

「……気をつける」


 するとむしろレイクロフトから謝られてしまい、それどころか彼はエンレットからも注意を受けてしまい、なんとも気まずい空気。


 ……そんな空気を壊したのは、無垢な子竜たちだった。


『王竜様!』

『王竜様だ! 今日も来たんだね!』


 きゃっきゃっと嬉しそうに、数匹の子供の竜がエンレットに擦り寄ってきた。


「真っ白……」


 アメリアはその子竜たちを見て、彼らの色を思わず口に出してしまった。それを隣で聞いたレイクロフトが応える。


「竜は子供の頃はみんな白いからな。大人になるにつれ、徐々に色を帯びるようになっているが、エンレットたちも昔は白かったはずだ」

「……今後皆さんがどんな色になるか楽しみですね」

「ああ、そうだな」


『アメリア。ちょっと良い?』

「あ、はい。何でしょうか?」

『この子が、あなたに会いたがっていたの』

「この子?」


 そこには、エンレットの背中に隠れて恥ずかしそうにちらりと片目だけ覗かせる子竜がいた。


 もじもじと、目を左右に泳がせる子竜は、なんだか可愛らしい。


『ほら。言いたいことがあるのでしょう?』


 一向に前に出ようとしない子竜を見かねて、エンレットはひょいっと体を横にずらし、子竜をアメリアの方へ容赦なく押し出した。


『あ! え! いや!』


 突然隠れ蓑を失った子竜は慌てふためいている。それを見てアメリアは、そっとしゃがみ込み、その子竜に目線を合わせて優しく声をかけた。


「こんにちは」

『……こ、こんにちは!』

「ふふ。私に何か話したいことがあるの?」


 可愛い子竜の姿に笑みをこぼしながら、アメリアは尋ねた。急かすことはせず、優しくゆっくりと。


『あ、あの! ……ありがと!!』


 照れて真っ赤になりながら、ふんむ、と勢いをつけた子竜から出てきたのは全力のお礼だった。


「え……?」

『この前! 助けにきてくれた!』


(助けに……? ……あ、もしかして)


 一瞬なんのことかと思ったけれど、アメリアはすぐに思い出すことが出来た。


 あの日。

 アメリアがルフェラに来た日のこと。

 この子竜は、あの日森で罠にかかっていた子だ。


「罠にかかっていた竜……?」

『うん! そう! ぼくだよ!』


 そうと分かれば、アメリアの目線は即座に子竜の右足へと向く。あの日見たこの子竜は、ひどい罠に右足を捕られ、怪我をしていたから。


『あ、怪我はもう大丈夫。傷も残ってない』


 アメリアの目線に気づいた子竜はその意図に気づき、彼女から聞かれる前に答えた。

 右足をぶらぶらさせて見せて、もうなんともないことをアピールする。それを見てアメリアは安心した。


「よかった……」

『ごめんね。あのときはとにかくパニックで、おねーさんのこと悪い人とかんちがいしちゃった。……おねーさんは大丈夫だった? いやな目にあってない?』


 おそらく大人の誰かから事情を聞いたのだろう。


 アメリアが密猟者と思われて王宮に連行されたこと、実は子竜を助けようとしていたこと、それから王竜であるエンレットに認められた人間だということ。


 状況が状況なだけに、子供の竜にパニックになるなという方が無理だろう。だが、自分のせいでアメリアに迷惑をかけてしまったことを後悔しているようだ。子竜は俯き、しょげている。


 そんな子竜に、アメリアは明るく答える。


「私は大丈夫よ。それにあの状況じゃ仕方ないもの。気にしないで」

『……ほんとに?』

「ええ、本当よ」


 子竜を恨む気持ちは微塵もない。だからこの子がこれ以上気に病まないよう、アメリアはきっぱりと言い放つ。


『よかったわね、ウラ。もう二度と勝手にあの森に行ってはダメよ?』

『うん! 約束する! ありがとう王竜様! おかげでスッキリした! おねーさんも! 本当にありがとう!』

『じゃああとは他の子たちと一緒にあっちで遊んできなさい』

『はーい』


 会話が終わったところで、子竜のウラはエンレットに促され、他の子竜たちがいるところへタタッと走って行った。



 ……純粋無垢な竜の子供たちは、場をほっこりと和ませてくれた。

 しかし、今から向かうのは一筋縄ではいかない引きこもり竜がいる巣穴だ。


 アメリアたちの微笑みはグッと引き締まった表情へと変わり、目的の巣穴へと足を向けたのだった。

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