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15. ご飯係を引き受ける

「あ、あの……!」


 エンレットたちに近づいて、アメリアは声を掛けた。

 昨日の今日ではあるが、どんな反応をされるかと内心ドキドキしながらも、ペコリと頭を下げる。


「おはようございます」

『あら、おはよう。アメリア』


 するとそんなドキドキも吹き飛ぶくらい、エンレットは優しい声で挨拶を返してくれた。心なしかその表情は嬉しそうだ。


 そして今度は、ライロとシズマも応えてくれた。


『おー! 昨日来た凄いやつだな!?』

『おはようございます、アメリアさん』

 

 ライロは驚き半分で返事をして、シズマは冷静に返事をしてくれた。

 どちらも自分のことを覚えていてくれたことに、アメリアは安堵と共に嬉しくなり、ふふ、と笑みをこぼす。


『それで、どうしたのアメリア。私たちに何か用事?』

「あ、いえ。ただ少し時間があったので、皆さんに挨拶したいなって思っただけなんです。その……これからのことを考えて、少しでも仲良くなれたらなって思いまして……」


 何の用かと聞いてきたエンレットに、アメリアは答える。


 突然言い渡された「竜の通訳士」という仕事。まだ分からないことばかりではあるが、アメリアなりにしっかり向き合った結果の行動だろう。


 昨日一日だけではまだ話もできていない竜も多くいる。

 エンレットたちと距離を縮めつつ、そして新たな竜とお互いを認知することも必要になると考えたのだ。


(あんなに素敵な待遇を用意していただいたんだもの。何もしない訳にはいかないわ)


 将来王妃となる人のために用意された広くて豪華な部屋。それから陛下と同じ食事。

 それだけの待遇を用意しても良いほどに、アメリアの仕事は存分に期待されているのだと、体感していた。



『あらそうなの。ありがとう。会いに来てくれて嬉しいわ』


 突然の訪問にも関わらず、エンレットから嬉しいと言ってもらえてアメリアは顔を綻ばせる。



 するとそんな空気に割って入るように、ライロが残念がる声を出した。


『あーでもちょっと遅かったな。もう少し早く来てくれてたら、あのご飯係に俺たちの希望とか伝えてもらえたのに』

「……ご飯係、ですか?」


 何のことかとアメリアはライロに聞き返す。

 確か昨日レイクロフトは、竜たちには竜騎士の人たちが持ち回りでご飯を与えていると言っていた。その竜騎士に何か問題があったのだろうか。


 しかし、エンレットはサラリと、『ライロの我儘だから気にしなくて良い』と言う。

 これにはライロが反応する。


『そりゃないですよ王竜様〜! 王竜様は食事に欲が無さすぎなんですよ。いつも俺たちに先に取らせてくれますし』

『それはまあねえ』

『俺以外にも、食事に不満持ってるやつは大勢いるはずですよ!!』


 ライロはぐわっと口を大きく開けて、エンレットに物申した。

 とは言え、言われたエンレットはそれでもあまり気にする様子はない。


 そんなエンレットからは王の貫禄……いや、母親の貫禄に近いものを感じる。


 会話に入って良いかは悩ましかったが、アメリアはそっと質問を投げかけてみた。


「……あの、ご飯に不満とは、どういうものなのでしょうか……? お役に立てるかは分かりませんが、私でよければお話を聞かせてほしいです」

『! アメリア……』


 アメリアが真剣な眼差しでエンレットを見つめると、エンレットは困ったような顔をした。

 それでも、エンレットはアメリアに話をしてくれた。


『……大したことじゃないのよ。ただね、最近ご飯を運んでくるのはリュイリーンのパートナーで、他の人だったらパートナー竜を通してこれが食べたいとか、もっと量を増やしてほしいとかお願いできたりするんだけど、リュイリーンがあれ(・・)だから私たちの言葉をパートナーに伝えてもらえてないのよ』


 リュイリーンとは、昨日紹介してもらった緑竜だ。

 確か昨日も寝ていた。

 それに起きたときも、ほとんど喋ってなかった。


 そして今も、日陰で寝ている。

 

「リュイリーンさんはお昼寝が好きなんですね」

『好きなんてもんじゃねえ。仕事の時以外いっつも寝てるさ』


 ライロがツーンと言い放つ。

 いつも明るいライロとは対照的な性格で、なかなか合わない部分もありそうだ。


 それでも、事の次第は把握できた。

 アメリアは、うんうん、と小さく頷き、ライロに提案してみる。


「……そういうことでしたら、私が代わりにご飯係をしましょうか?」


 勿論それは、レイクロフトの許可が取れたらにはなるけれど、通訳士としての仕事の予定はまだないから時間はある。そして、ご飯を与えに来るということは毎日竜たちに会えるということ。


 朝晩の二回だと言っていたので、朝は多少早く起きる必要も出てきそうだが、実家にいた頃誰よりも早く起床していたアメリアにとってはそれも苦ではない。



『おお、そりゃあ良い! アメリアならなんでも聞いてくれるしな!』

『良いのよ無理しなくて。あなたはあなたのやることがあるでしょう?』

「私なら大丈夫です。むしろ、皆さんと親交を深められると思うので私にとっても良い機会になると思うんです」


 心配そうな顔をするエンレットに対して、アメリアはにっこりと微笑みを返す。

 エンレットは、アメリアがそう言うなら、とすぐに折れてくれた。


「きちんと陛下にも許可を取りますので、その点はご安心ください」

『どうせレイも、あなたの望みなら聞いてくれるはずよ』

「……そうだと良いんですが」



「アメリア様。そろそろお時間です」



 話がまとまったところで、クロエがアメリアに声を掛ける。王妃教育の時間が来たらしい。


「分かりました。……ではみなさん。取り急ぎ失礼させていただきます。ご飯係の件は、陛下とお話しでき次第対応いたしますので、少しだけお待ちください」


『おう!』

『ありがとうございます』

『レイによろしくね』


 アメリアは最後にペコリと頭を下げて、王宮に戻ったのだった。

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