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13. 身なりを整え朝食を

「出来ました……!」


 お仕着せを脱ぎ、自分が持ってきた中から一番動きやすい服に着替えたアメリアに、クロエが声をかける。

 着替え後は、クロエがアメリアの髪を梳かし、血色が良く見えるよう顔にも少し化粧を施してくれた。


「とても綺麗ですよ、アメリア様。服は少し地味目ですが……」


 身なりを整えたアメリアは、非常に美しかった。


 腰より長く伸びた髪も、クロエが丁寧に梳かしたおかげで久々に指が通る感覚を味わえる。それに暖簾のようだった前髪も、自然に横に流して顔の横でヘアクリップのようなもので留めているので、アメリアのピンクの瞳がよく見える。

 軽く施した化粧も派手になりすぎずアメリアによく似合っている。

 ただそう、アメリアの持つ服は安くて地味なものばかりなので、その服装が残念ではあるもののその他は完璧だ。


 クロエはその出来栄えを見てニコニコと笑っている。


「それにしてもよくここまで髪を伸ばしましたね。前髪もですし。長い髪がお好きなのですか?」

「あ……髪は、切る機会がなかっただけで……」


 継母たちがそんな機会をくれなかったので、ただ伸ばしっぱなしだっただけだ。


「そうなのですか? でしたらお切りになられますか? 長いのも良いですが、毛先の方は傷まれてるようなので一旦腰元あたりで切ってしまうのもよろしいかと」

「……そうですね。どこかで切ることができるなら」

「では後ほど手配しておきます」


 クロエはにっこりと笑って受け入れてくれた。


 お風呂に入れて、ふかふかのベッドで寝られて、侍女が自分の世話をしてくれるなんて……。

 ただの通訳士になったはずが、実家よりも良い待遇を受けられていることに驚きが隠せない。



「アメリア様。お腹は空いておられませんか? そろそろ朝食の準備が整いますので、よろしければ食堂に案内させていただきます」

「朝食? ……じゃあぜひ」

「かしこまりました。ではどうぞこちらに」


***


 待遇に戸惑いながらも、流れるように朝食をもらえる場所に連れて来られたアメリア。「食堂」と言っていたので、侍女や使用人が使うところかと思ったのに、これはまさかである。


「あの……?」

「こちらにおかけください。すぐに朝食を運んでまいります」


 案内された食堂は大層豪華で、クロエが引いてくれた椅子も背もたれの枠が金色に輝いている。

 確実に侍女が使うような場所ではない。


「どうされました?」

「えっと、ここって本当に私が使って良い場所なんでしょうか……?」

「はい。陛下からそのように仰せつかっております」

「……ここってどなたが使う場所ですか?」

「今までは陛下専用の食堂でした。今日からは陛下とアメリア様のお二人でお使いいただくことになります」

「へっ……」


 アメリアの喉がヒュッと鳴る。


(陛下専用の食堂を私が一緒に使う……!? 有り得ないわそんな……)


「わ、私、私にはこんな素敵な場所は勿体ないです……。あの、できたらクロエさんたちが使っているようなところのほうが落ち着くんですが……」


 慌てふためきながら、アメリアは違う場所を希望した。

 レイクロフトとの食事が嫌なわけではないが、少なくともこの国の王と同じテーブルにつくなんて身分不相応過ぎてできるはずがない。


 だが、クロエはクロエで、上から命じられているためアメリアの希望を聞くわけにもいかない。


「私たちの食堂を!? まさかそんな、アメリア様をあんなところにお連れすることはできません」

「でも私、本当にこんなところで食事できる身分じゃなくて……」

「何を仰ってるんですか。アメリア様は陛下の大事な方ですし、何より陛下が、アメリア様にはここを使ってほしいと言っているのですから。十分に資格はおありかと」


 いくらアメリアが恐縮していても、クロエにとってのアメリアは陛下が選んだ女性だ。丁重にもてなす必要がある。

 クロエにハッキリとそう言われてしまえば、アメリアはこれ以上反論できない。


「……分かりました」


 アメリアが渋々受け入れると、クロエは改めて椅子を指し、アメリアを誘導する。

 アメリアはその指定された椅子に座り、ドキドキと落ち着かないまま。クロエが運んできたこれまた自分には豪華すぎる食事を少しだけ食べた。



「……ふぅ」


 満腹でもう食べられないアメリア。

 朝食なので控えめな量だとは思うが、サラダにパンにソーセージにスクランブルエッグにスープ。

 ……ほぼ毎日固いパン一食の暮らしをしていたアメリアの胃には、どれも一口二口食べるだけで精一杯。お皿にはまだたくさん残っているが、これ以上は胃が受け付けなそうだ。


 残すのは申し訳ないと思いつつ、アメリアはゆっくりとフォークを置いた。

 

「……もうよろしいのですか?」

「はい。すみません」

「お口に合いませんでしたか?」

「いえそんな……! どれも美味しかったです。パンもふわふわで、こんなに美味しいパンは久しぶりでした。ただ……」

「ただ?」

「その、多分私が少食なんです……。明日からは量を減らしてもらえると助かります」


 アメリアが食べた量は、一般的に女性が食べる量より遥かに少ない。体重を気にして食事量を制限している貴族令嬢でももう少し食べるものだ。


 クロエは食の細さに驚きながら、しかしそれがアメリアの要望なのであれば聞き入れるしかないと考えた。


「承知しました。料理長に伝えておきます」

「……ありがとうございます」


 アメリアはニコッとクロエに微笑んだ。



「次の予定は王妃教育になっていますが、思いの外時間が空いてしまいました。一度部屋に戻りますか?」

「……王妃、教育……」


 その言葉は何度聞いても慣れない。

 自分になれるわけもないのに講師の方の時間をいただいてしまっても良いのかと、なんだか申し訳なくもなる。


「……あの、時間ってどのくらいありますか? もしよければ、竜の皆さんに挨拶に行きたくて」

「!」


 アメリアが自発的に竜に会いに行きたいと言い出したことにクロエは驚いた。


「そういうことでしたら、時間は問題ございませんので行きましょうか。案内いたします」

「ありがとうございます。助かります」


 こうして、昨日レイクロフトたちに連れて行ってもらった王宮の裏手にアメリアたちは向かったのだった。

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