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お姉さんをしなくちゃいけないのは勘弁ね

 デュラハンは賢い。

 あざとい、って言った方がいいのかしら。

 自分が手助けできなさそうだと認識するや、私に対してすぐに小憎たらしい行動を起こすのである。


 まさか、それこそ俺に手助けを頼みたいのかな?


 そんな風に小馬鹿にされたようにして囁かれて、助けて、なんて言ってしまえる人などいないと思う。

 実際、家庭科の刺繍の手習いや絵画の授業のお絵かきなどを、幽霊騎士である彼にさせるわけにはいかないだろう。


 でも、彼はちゃんと私を助けてくれてはいた。


 驚く事に、彼が言っていた通りに、学友達は私を無視するだけでなく、次々と私に攻撃を仕掛けて来るのである。


 家庭科の時間では針に糸を通そうとしたところで背中を押され、デュラハンが私の顔を押さえてくれなければ目に針を刺してしまうところであった。

 大きな手の感触は優しくて、私は彼に首が無くて良かったなんて思った程だ。

 そんな風に守ってくれた人と目が合ったら、私は絶対に惚れてしまうかも。


 また、お絵かきの時間では筆洗いの汚れた水を被せられそうになった。

 が、デュラハンが襲い掛かる少女達の武器である小さな水入れを次々に弾いてくれて、私には一滴もかからなかった。

 私に水を被せようとした人達全員が、自分のドレスを汚しただけだ。


 ざまあみろ、だが、幼子のように同年代の子達が泣き始めたのには驚いた。

 そのせいで私が我関せずを貫くどころか、泣く前に染み抜きに走ればいいじゃないの、と、イライラばかりが募って動いてしまったのである。

 応急処置的な染み抜きをしてあげてから、急いで着換えてドレスを寮のメイドに手渡せと指示してやる、を、泣いている数人分繰り返したのだ。


 ああ、ここでもお姉さんをしなきゃいけないなんて。

 それも自分に嫌がらせしてきた子達に!


「君は守りがいがあるね。こういう気質の子は大好きだよ。」


「ありがとう。守って下さることには感謝しか無いわ。でも、私がお姉さんをしなきゃいけない事態になるのは今度から避けて。」


「難しい要求だ。善処しましょう。」


 デュラハンは私の耳元で軽やかな笑い声を立てた。

 そう、デュラハンは私をちゃんと助けて守ってくれているのだ。

 そんな彼に、刺繍をする事やそれなりな絵を描く事こそ代わってやって欲しい、なんて願う事こそおこがましいと分かっている。


 でもね、こういった教養部分こそ私には苦手なことなの!


 ダ~ダ~ン。


 重苦しいピアノの音に、私はさらにさらにウンザリとしてしまった。

 眼鏡をかけた初老の音楽教師が、自分の演奏にうっとりした様にして少女が弾くにはもの悲しすぎる曲をピアノを奏でているが、この曲を私も弾かなければいけないという苦行が待っているのである。

 刺繍は下手でも針は使える。

 絵は苦手でも、私と同じぐらいに絵が下手な人ばかりだから恥ではない。

 けれども、この音楽については、私には手も足も出ないのだ。


 私は溜息を吐きながら楽譜を眺めた。

 ぜんぜん、読めない。

 オタマジャクシの小川の散歩にしか見えない。


「どうした?ここは一番の安息の時間じゃないのか?先生のピアノで奏でられた素晴らしき音楽を鑑賞するだけという、天国のような時間。」


「この曲が課題曲なの。先生が弾き終わったら、一人ずつ演奏するのよ。どうしよう。私の番は来週ぐらいのまだまだだけど、私はピアノなんか弾けないわ。」


「わお。素晴らしき才女にそんな弱点があったとは!」


「もう!あなたは。」


 デュラハンに怒って見せたが、私は彼の揶揄いの言葉によって恥ずかしいという気持ちにはならなかった。

 馬鹿にしている、そんな声音が見つけられなかったからかもしれない。

 でも、凄く嬉しそうに私の頭の中でクスクス笑いをするのは止めて欲しい。

 彼は知っているのかしら。

 彼の笑い声こそ音楽みたいで、聞こえる度になんだか背骨に響く感じがするってことに。


「何て君は可愛いんだ。頭を失った俺に失った自信を取り戻してくれるよ。」


「ああ。」


 頭の中での会話中は考えが読まれちゃうんだった。

 私は顔から火が出そうなぐらい恥ずかしくなって、両手で顔を覆っていた。


「あら、何でもお出来になるクーデリカさんは、先生の手本を聞かずとも楽譜だけで曲を理解されたという事かしら?」


 私の横に座るシーモアが私に話しかけてきた。

 とっても意地悪そうな光を金色の瞳に宿しながら!


「きたきた!」


 私の頭の中で期待一杯の声も上がった。

 私もそうだが、彼こそキャサリン達が行ったいじめに関して怒っているのだ。

 デュラハンは哀れな少女が殺された最後まで何もできずに見つめるしかなかったのだから、彼の怒りはかなりのものだろう。


 だが、そんな彼であるが、亡霊として積極的な行為で彼女達を殺そうとは考えてはいない。

 彼はただ、昨夜にあった事を誰にも内緒にして、そのかわりとしてキャサリン達を散々に煽れ、と私に指示したのだ。


 それで私は彼の指示に従い、寮母達にも教師達にも昨夜のキャサリン達から受けた仕打ちは一切伝えていない。

 朝から私を遠巻きに見ていただけのキャサリン一味であったが、こうしてシーモアが私に話しかけてきたのは、それが功を奏してのことなのか。


 デュラハンに顔があれば、私の弟達が悪戯が成功した時のような笑みを顔じゅうに浮かべていることだろう。

 私も出来る限りの笑顔を顔に作ってシーモアを見返した。


「何でもできるなんて買いかぶりですわ。」

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