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あなたの化けの皮を剥がします

 私とモーリーンの会話に割り込んで来たカイルは、自分の言葉がとても挑発的であることを分かってやっていたようだ。

 彼は私達の視線を集めたとわかると、全く悪びれない様子で微笑むと更に生意気そうに言い募ってきたのである。


「ご気分を悪くされたらごめんなさいね。だって、その先生がおっしゃったことって、仲良しの皆様方に対して、このみんなは未来が無いのよって言っているようなものじゃないですか。未来が欲しいならば、そこから抜け出すのよ?」


「あ、ああ、あなた!」


「いいのよ、プルーデンス様。ジェニファー様の言う通りだったかもしれませんわね。ええ、自慢できる家名も無く、財産も美貌も無い私達にはなんの魅力もございませんもの。社交界では壁の花どころかパーティへのお誘いをいただけるかどうかですわ。だからせめてここにいる間ぐらい、将来を忘れて楽しく語り合いたいと考えていましたが、その考えこそ負け犬の証拠なのかもしれませんわね。」


 モーリーンはカイルに怒りを見せるどころか、寂しそうに微笑んだ。

 彼女は面長で優しい顔立ちをしているが、頬がふっくらしていることで、年齢よりも第一印象は幼い印象を受ける。

 そして彼女が自分で言う通りに、彼女はキャサリン達のような美人ではない。

 それでも私は彼女が自分の美し過ぎる母に重なる時がある。

 それは私の母のように、モーリーンの所作が淑女教育を受けた人の振る舞いそのものでしかないからであろうか。


「あなたは美しい方ですわ。私は母の様な貴婦人になりたいと望みますが、あなたの様な振る舞いができてこそって、あなたにお会いしてから思いますもの。」


「ま、まあ!私こそあなたにはそう感じますのよ。ええ、大好きだったセリーナもあなたに似ていらっしゃいます。彼女は常にお優しく、困った人を見れば助けにいらっしゃる方でした。私を見捨てる事など無いはずだと分かっていたのに。ああ、あの子が重い病気を患っていた事に気が付かなかったなんて!」


 モーリーンはポロポロと涙を零し始め、私は彼女を弟達が泣いた時にするようにして抱きしめた。

 すると、彼女からふわっと花の香りが流れてきた。


 あのサシェのクチナシの花の甘い香りではない。

 このバニラの様な香りは、ヘリオトロープだろう。

 ヘリオトロープは恋した太陽を常に追い続ける花だと言われている。


 大事な親友の死を嘆き続けているモーリーンによく似合う香りだと、私はさめざめと泣き出した彼女の背中を撫でながら考えた。

 私達がかき回すことで、モーリーンがさらに辛い思いをするかもしれない。


 どうすればいいのか。

 私は弟を見返した。

 私の視線を受けた弟は、私にだけ見えるように黒板に文字を書いた。


 セリーナの行動を詳しく聞いて


 私はこんな場面でも目的を忘れない弟を尊敬するばかりだ。

 そして弟は書いたばかりの文字を消し、別の言葉を黒板に書き込んだ。


 セリーナは裏切者だから殺された?


 その文字もすぐに消されたが、私のモーリーンを抱く腕は強張った。

 ソーンの嘆きの言葉が頭の中で繰り替えされたのだ。


「あいつはみんなのために巣箱から追い出されたのでしょうか?」


 誰か一人を生贄にしなければ生き残れないと思い込まされた生徒達。

 もしかしたら、セリーナを生贄に差し出したのが、セリーナを裏切り者だと思い込んだモーリーンだったのではないのだろうか。

 だからこんなにも傷ついて落ち込んでいる?


「あなたの教科書を確かめさせていただけないかしら?」


 私は突然の少女の声にハッとして、モーリーンを抱いたまま私に声をかけて来た少女を見上げた。

 リンダ・マックスは小馬鹿にしたような表情を浮かべて私の机の前に立っていて、私に対して見下すように睨みながら手を差し出した。


「私の教科書が何か?」


「あなたが私の教科書を盗み見ていた証拠を差し出せと言っているの。」


 意味が分からないと彼女を見つめると、彼女の青い瞳はいつもよりも暗く見えるがおかしなぎらつきの輝きがあった。

 どうしたものだと戸惑っていると、私の腕の中でモーリーンが身を起こし、自分の涙を拭いながら私の代りにマックスに言い返したではないか。


「数学の正しい答えはみんな一緒になるものだわ。教科書に書き込まれた予習した答えがどちらも正しければどちらも同じものでしょう。」


「いいえ!同じなのは私の教科書を覗き見たからよ!私がこの学園で一番頭がいいのだもの。そうよ、この間だって、覗いていたのよ。自分でも言ったわよね。私を覗いていたって!」


 私は大きく溜息を吐くと、自分の教科書をマックスに差し出した。

 ダニエルの屋敷にいた間、何もすることが無いからと予習して、半分以上のページは書き込みで埋まっている。


「どうぞ。思う存分確認なさるといいわ。」


 マックスは私の教科書を取り上げると、教師が宿題を忘れた生徒にするような尊大な振る舞いで私の教科書のページをめくり始めた。

 それからその教科書を床にぽいっと投げ捨て、やはり教師がするようにして私に立てと命令して来たのだ。


「リンダ様。それは少しどころかとても失礼な行動ですわ。」


「いいえ。みんなは心配しているのよ。嘘吐き女にあなたが取り込まれてしまったのではないかってね。だから私はこの女の嘘を公にします。ええ、嘘ばかりって気が付きました。この人の教科書の予習は、家の人にして貰ったものなのよ。そうよ。さあ、本当に解けるならばみんなの前で解いて御覧なさいな。」


 リンダは教壇の後ろの大きな黒板に向かって手を振りかざした。

 そこには三人の少女達、モーリーンが教室に入って来るときに一緒にいた子達が、クスクス笑いながら数式らしきものを書いている所である。

 マックスの命令によれば私がそれを解けばいいと言う事だろう。


 でも、あら?


 黒板に書かれた数式は教科書では見た事が無かったけれど、私には見覚えがある気がする?と嫌な気持ちになりながら小首を傾げるしかなかった。


「リンダ様、これを解きなさいとプルーデンス様におっしゃられますが、何を考えていらっしゃるの?それは教科書のどこにもない問題ではございませんか!」


 モーリーンは自分の教科書を開いて、黒板にある数式を探してくれたようだ。

 そしてマックスはモーリーンの言葉を受けると顎を上げ、してやったという顔付になって私達に種明かしをして見せたのである。


「新しい先生、ミゼット・フィレイソン先生がおっしゃったのよ。プルーデンス・クーデリカ様が嘘吐きでなければ解けるはずだって!」


「ええ。わたくしは期待していてよ。」


 女性にしては低いが滑らかな響きは誰をも安心させる良い声で、私はそんな声を出した人物へと視線を動かしていた。

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