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王国認定魔術師という存在

 私はダニエルに、本来の計画通りにカイルの体験入学の一週間だけはこの学園にいさせて欲しいと願い出た。

 その理由は、この学園に紛れ込んだとデュラハンが言う魔法使いを捕まえてデュラハンの首のありかを探りたいという目的と、私がどうしてもモーリーンやティナを敵と思えないから確かめたいという思いからだ。


 それが大事なカイルを危険に陥らせるかもしれないと理解しているのに、私は学園に留まることを望んだのである。

 もちろん、ダニエルは私を引き摺ってでも連れ出すと反対の声を上げた。


 しかし彼が意思を通せなかったのは、彼の友人となったソーンを想ってのことだろう。

 ソーンこそここで引き下がる気は全くなかった。

 つまり、私とカイルに学園に残って探りを入れて欲しいと望んでいたのである。


「俺は妹の死の真実が知りたい。この学園の少女達、全員を一人ずつ誘拐して拷問にかけても、俺は真実を突き止めるつもりです。ダニエル様、俺の今後に口を出さないと約束されるならば、どうぞクーデリカ嬢をお連れ下さい。」


 外見は獅子の様な男性であるが、ダニエルこそ温厚で常識的な男性だ。

 ソーンによって確実に起こるだろう少女誘拐惨殺事件について彼は考えざる得なくなり、私に一週間の猶予を与えるしかなくなった。

 その時のカイルがソーンを見上げる目は尊敬以外の何物でも無くて、私は今後の為にこの事件が終わったらソーンと絶交しようと決意している。


 そのカイルは今や私のベッドで寝息を立てていて、カイルのベッドには当たり前のようにしてデュラハンが転がっている。

 ダニエルとソーンの二人が帰った後はこうして私達はベッドに入ったが、デュラハンはカイルが寝付くや眠れない私にくどくど文句を言って来るのだ。

 私はカイルの可愛い寝姿から視線を剥がすと、隣りのベッドのデュラハンを再び見つめた。

 デュラハンは胸の上で手を組んでいる仰臥姿であり、ピクリとも動かないその姿は死体そのものに見せていた。


「俺は死体だ。死体が死体らしくしてどこが悪い。」


「ええ。その格好は見慣れておりますわ。いつもそこのベッドに転がって私を揶揄っていらっしゃったもの。でも、何時もそんな死体の様な恰好では無かったわ。今のあなたは私に自分が死人だって再確認させたいだけですわよね。」


「さあ。君に生き返らせてもらいたいだけかもな。」


「ええ。出来る事なら生き返らせたいわ。だからせめて、あなたに首を返してあげたいのよ。」


「君は自分の事しか考えていない。」


 デュラハンは不機嫌な様子で私にそう言った。

 確かにここに残りたい考えは、ダニエルやデュラハンを無駄に心配させて煩わせるばかりという、私の自己満足でしかないかもしれない。


「確かに私は無力だわ。でも!」


「君を失った場合の事を考えていないという事だ。」


 私は唇を噛んで黙るしかなかった。

 デュラハンの言う通りだ。

 私は自分に何かあった時の事、カイルの気持やダニエルやデュラハンがどう感じるかなんかを、とっても軽く見ていたかもしれない。

 素直に謝ろうと口を開いたが、デュラハンの追撃の方が早かった。


「君の覚悟はか弱き乙女の夢物語だ。戦場に出る男の覚悟などでは無い。」


「なんて酷い事を!あなたが今までに愛した女性はそうでも、私は違うわ!」


「いいや。俺が愛してきた女こそ君とは違う。彼女達には覚悟があった。俺を喰らい尽くすぐらいの度胸があった。俺との将来が無くとも、俺をベッドに押し倒して俺に乗ってくるぐらいの勢いがあったさ。」


 私はカイルを起こさないようしてベッドから出ると、隣のベッドに向かって飛び跳ねていた。

 犬か猫が飼い主の胸の上に乗ってしまう様にして、私はベッドに横たわる彼の上に乗ってやったのだ。


 結果として、私はデュラハンを馬みたいにして跨って乗った姿となった。

 だからか、私は自分を浅ましいと恥ずかしく思うよりも、乗って征服してやったという勝利感が芽生えてしまっていた。


「どう?おっしゃる通りにあなたの上に乗って差し上げましたわよ。私に覚悟があるのは分かって頂けて。」


 私の股の下でデュラハンが小刻みに震えた。

 彼は亡霊の癖に、腹筋を震えさせての大笑いをし出したのだ。


「デュラハン!」


「いや、最高だ。よし、覚えた。無知な君を百戦錬磨の淫婦のように動かすにはどうしたらいいか、俺は学習させてもらった。」


「デュラハン!私を揶揄っていただけ?酷いわ!ってきゃあ!」


 怒った私がデュラハンから離れようとしたそこで、彼は私の腰を掴んで動かせないようにしたのだが、ついでと言う風に私のお尻を指先で撫でたのだ。


「最高の乙女よ。俺に喜びを与える恋人よ。俺に戦う理由を与えてくれるのは嬉しいが、君を守るためではなく、失った君への弔い合戦は辛すぎる。俺はもうこの世には無い人間だ。戦の最中に死んで楽になることが出来ないんだよ?」


 私は両手で口元を押さえ、自分が考え付かなかった事に対して慄いていた。

 デュラハンは私が死んだ後、永遠に私の死を嘆くと言っているのだ。


「ああ!愛している!」


 私は彼に覆いかぶさっていた。

 心臓の鼓動など聞こえない固い胸板に顔を押し付けて、彼はとっても冷たいと感じながらも、どうしても止められない愛おしさから彼にしがみ付いていた。


 私の背中にデュラハンに両腕が回された。

 全く嫌らしさなど感じない優しい手は私を守るように抱いている。


「あなたを知りたい。あなたの顔を知りたい。優しいあなたに首を返してあげたい。あなたを元通りにしてあげたい。」


「ああ。だが諦めるのも必要な時がある。王を守るロイヤルガードは騎士だけじゃない。魔法使いもいる。そんなのに君が狙われたら最悪だ。」


「どうしてそんな魔法使いがあなたの首を探すことを邪魔するの?」


「俺の首を持ち去った奴らだからだろう。どこに埋めやがったか知らないが、俺の首は奴らの大魔法の術具に最適だったってことだ。奴らの大義名分、王様のご治政をお守りする、って目的にね。」


「あなたは女王陛下をお守りして、この国が豊かになる礎を築いた方でしょう?」


「だからかねえ。メラディスは俺に大いに惚れてくれたからなあ。寄せ集めでしかない俺の部隊なんかに歴史ある団を潰されたくないって思ったのかねえ。」


「団?ただの魔法使いでは無いの?」


「黄金の暁団というものを王は騎士団のほかに持っているんだよ。騎士団は自分が好んだ者達を任命できるが、黄金の暁団は建国時代からずっと、王位継承と一緒に王が相続してきた負の遺産だ。」


 デュラハンは私を抱きながらベッドから身を起こすと、ベッドの頭側となる何もない部屋の壁に向かって右手を翳した。

 すると、部屋の中に月の光が入ったかのように、仄かに世界が明るくなった。


 太陽を模した円陣の中心に甲虫のシルエットがあるモチーフが、白い壁に影絵のように映し出されたのである。


 デュラハンの腕が私を抱く力が強くなり、デュラハンはこの映像から私を守ろうとしているみたいだ、なんて思いながら単純でも印象深いマークを眺めた。


「このマークを覚えろ。男だろうが、女だろうが、肌のどこかに入れ墨か焼き印があるはずだ。入団すれば一生、いや、死んでも抜けられない魔術師の秘密結社の入会証だ。俺には奴隷の印にしか見えないが、奴らには栄光ある印だ。」


「秘密結社って、騎士団では無いの?」


 デュラハンは右手を振った。

 壁に映しだされた映像は消え、薄暗いだけの世界となった。

 その中でデュラハンが出した声は、初めて聞くぐらいに暗く冷たいものだった。


「騎士?人の風上にも置けない奴らが?」



お読みいただきありがとうございます。

深夜の話になりますので、夜になってからの投稿です。

また、これを章の終わりにするか、次章の最初にするか悩んでおりました。

明日から次章となります。

どうぞよろしくお願いいたします。

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