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騎士に散々に揶揄われて

お読みいただきありがとうございます。

相思相愛になっておりますので、デュラハンとても機嫌がいいです。

 教室のミツバチ事件はただの事故として有耶無耶になった。

 蜂の巣の持ち込みが誰であるのか不明な上、教師が生徒に個別に尋ねても、聞いた話では、という伝聞形式でしか語らないのであれば確認しようも無い。


 だから、何も起きていない、ということになった。


 この事件を踏まえての学園から生徒への注意としては、蜂蜜は瓶詰めのものだけにしましょう、それだけである。


「犯人探しはするべきだと思うな。」


 デュラハンがしみじみと言った。

 私は、そうね、と相槌を打つべきだが、デュラハンが憂いでいるのは犯人を野放しにしたことで私の身が危険だからではない。

 私は自分から離れた席でできている人だかりを眺めて溜息を吐いた。

 学園側が犯人を確定しなかったがために、我が恐るべき弟は私の学友三十九名全員を処罰対象にしてしまったようなのだ。


「本気で凄いよな。部屋で豪語していた通り、君の学友三十九名、顔が変わろうが名前が変わろうが、絶対に逃さないように個人分析してやがる。」


「私には出来ないお友達を一瞬で作ってね。凄いわ。」


 デュラハンは私を慰めるよりも笑い声を立てた。

 もう!

 私もカイルのように振舞っていたら良かったのかしら。

 まず、カイルは食堂に着くや、一番大き目のグループの中心となる少女に話しかけた。


「こちらの食堂の利用の仕方を教えて下さる?プルーデンスでは少々心元無いのよ。ああ、わたくし?エインズワース子爵家と縁があるダート男爵家の娘、ジェニファー・ダートですの。今後の参考に本日から一週間ほどこちらに体験入学させていただく事になりましたのよ。」


 当たり前だが、カイルより年上の少女はカイルを見下げる様な顔をして、私にするような返しを彼にしたのである。


「それが何か?」


 だが、カイルはここで引き下がってしまう私ではない。

 彼は誰をも魅了できる笑みを返しながら、相手が自分に追従するべきだと考えるだろう台詞を言い放ったのである。


「あらあら、カミラが最近の子はって溜息吐くわけね。優しさってものが欠けているわ。カミラは私のこの体験入学に興味津々でしてね。だって、これから社交界デビューする方々の情報が手に入るのでしょう?」


「そのカミラがどうしたって言うのよ。」


「あら、カミラをご存じないのに社交界の海を泳ぐおつもりでしたの?カミラと言えばジョージア伯爵夫人じゃございませんか。」


 カイルの一言で、彼の周囲は一気にどよめいた。

 私こそ全く知らない方であるが、そのジョージア伯爵夫人は彼女の一言で社交界で浮き沈みが決まると言われるほどの社交界の重鎮であるらしい。

 自分の運命を目の前の子供が握っている?

 そう思わされたのであれば、いくら相手が生意気な子供でも無下には出来なくなるものだ。


 結果、カイルは一瞬で少女達の輪の中心となった。

 その後は自分に群がる少女達に尋問に見えない質問を重ねて、彼女達一人ずつの身上書を彼の頭の中に作り上げているようなのである。


「あとで全部嘘でしたって、いいえ、社交界の重鎮との繋がりが無い事を知られたらひどい目に遭わないかしら?ダート男爵家からお怒りの苦情が我が家に来たらどうしましょう。」


「大丈夫だろ。ジョージア伯爵夫人は君のダニエルの親類の一人で、ダート男爵はあの子の尊敬する教授様だ。」


「え?」


「ここに来る前の君抜きの作戦会議を俺は覗いていたからね。知っているよ。」


「あら!皆して私には内緒?私は本気で誰にも信用されていないのね。」


「夢みたいに純粋な君に汚い事を出来るだけ見せたくはない。そんな間抜けな男達の気持を分かってやってくれ。俺だってそうだ。」


 デュラハンは、俺だってそうだ、その一言だけ私の耳に甘く囁いた。

 私はそれだけで頬が熱くなって、両手を自分の頬に当てていた。

 そしてデュラハンは私の素振りに満足したような、それはそれは心地よいぐらいの深くて滑らかな笑い声を立てた。


「デュラハン。」


「大丈夫だよ。あの子はちゃんと下調べしてから台本を書いている。あの自称百戦錬磨なソーン様もたじたじさ。もう凄くって可愛くってねえ。君は凄いよって彼の耳に囁いてあげたくなっちゃうね。」


「やめて。あの子を虐めるのは止めて。」


「ハハハ。あんな度胸があるガキがお化けが怖いんだもんなあ。本気で可愛いぜ。いやあ、人ってわからないものですねえ。」


「何でも見てきた亡霊のあなたが犯人が分からないことこそ凄いと思うけれど。」


「言うね。俺がいないって、毎晩枕を涙で濡らしていた君が!」


 久しぶりのデュラハン憎まれ口だが、久しぶりでも頭にくるわ。

 私はデュラハンを刺してやりたい気持ちとなり、私はフォークを掴み、皿の上のミートボールにフォークを刺した。


「可愛い弟に感謝するんだよ。彼は君の毒見までしているんだから。」


「弟に残飯係と罵られて食事の皿を押し付けられるのは、意味が分かっていても悲しいばかりですけれどね。」


「いやいや。堂々と人前で君を扱き下ろすことで、君への嫉妬による攻撃が少し減った気がするな。君を虐めたい。おや、代りに虐めてくれる奴がいるからそいつに任せて今日は見るだけにしようかな。わお、悲しそうで楽しいな。だから、君は本気で落ち込んだ顔をしておけ。全く、あのガキは自分を的にしようとまでしていやがる。ちょろまか動くガキを守るよりも、こっちのどんくさいお姫様一人を守る方が楽だっていうのに。」


「あなたは本当に酷いわ。」


「そう。俺はこんな男だ。優しい男が良ければダニエルにしろ。俺は優しくなどない。奪うだけしかできない大昔の男臭いだけの男なんだよ。」


「身を引いて身を隠すようなセンシティブな方ではございませんでしたか?」


「言うね!」


 私達は睨み合った。

 デュラハンには首から上が無いので、彼が私を睨んだのかはわからないし、私こそ顔があったらの位置を睨んだだけであるが。

 でも、感覚的には私達は睨み合った気がする。


「そこには何もなくてよ。」


 私は突然の声に振り返っていた。

 金髪の青い瞳の少女が物怖じした風に立っていて、ほんのすこしふっくらして幼い雰囲気の彼女は、私と目が合うとはにかんだような笑みを返した。


「ご一緒していいかしら?」


「ええ、もちろんよ。どうぞ。」


「ありがとう。あなたのお陰でドレスが無事だったから、あなたにちゃんと御礼が言いたかったの。情けないわよね。我が家にはお金が無いから、ドレス一着一着が大事なものなの。」


 私は私の向かいに座った柔らかい雰囲気の少女を見返して、彼女がメッセージ付きで私にクッキーを手渡してくれた人だったと思い出した。


「うふ。モーリーン・ハーパーよ。キャサリンが怖くて話しかけも出来なくてごめんなさいね。」


「い、いいえ。あの頃だって私にメッセージをくださったわ。あなたは勇気がある方だと思う。」


「まあ、そう言っていただけて嬉しいわ。」


 モーリーンは嬉しそうな微笑を私に返した。

 彼女の笑みは柔らかく、貴婦人の母が作る微笑に似ている。

 そして私は彼女の笑みから、もう一人の女の子を思い出していた。

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