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君の騎士様とは?

 ダニエルとソーン、そしてカイルは、思い立ったら私の意見など何も聞かない、そんな所が共通しているようである。

 そんな彼らは私を尋問するためにと、ダニエルの書斎の応接セットへと連れて行き、大きな長椅子型のソファの真ん中に腰を下ろさせた。

 私が座るソファの向かいにある同じようなソファには仲良くダニエルとソーンが座り、私の左右にはアービーとヒューが陣取った。


 可愛いフェリクスは私の膝の上だが、恐るべきカイルはどこに行ったのか。


 細長いティーテブルの短い辺に置かれた豪奢な一人掛けソファという、本来だったらダニエルが座るべき議長席、つまり、一番の上座であるお誕生席を陣取ってしまったのである。

 椅子にゆったりと座るカイルは、自分が統括者であるという満足そうな笑みを私に向けた。


「カイル、あなた?ダニエルが優しいからって、少しばかり生意気すぎるのでは無くて?」


「ダニエルが優しすぎるから僕が鬼になっているだけですよ。答えたくない質問にだって逃げずに答えて頂きます。アービーとヒューはあなたの看守です。」


「まあ!本当に悪い子!」


 この双子は私を守ろうと私の横にいるのではなく、カイルの指示で私を逃がさないようにそこに座っていたらしい。


「私は四面楚歌なのね。」


「私だけは味方だよ。」


 ダニエルは笑いながら大きく手を叩いた。

 するとすぐに数人の召使が室内に入って来て、色とりどりの小さなケーキが乗った大きな盆をテーブルの真ん中に置き、お茶の入った器を私達の前に置いた。

 そして召使い達が妖精のように消え去ると、ダニエルはケーキよりも甘そうな笑みを私に向けたのである。


「どうぞ。君の笑顔が見たいだけの男の精いっぱいだ。」


「あなたこそ本当に甘い方ね。」


「そう。甘いんだよね。ダニエルは。」


 私はカイルの傍若無人さにぎょっとするばかりだ。

 でも、ダニエルが怒るどころか、楽しそうに笑うのは何故だろう。

 ここは叱るべきではないの?


「ぷる。テーブルのケーキ食べていいの?」


 私の膝の上で確実に無邪気で純粋な子供が声をあげた。

 私は唯一の癒しの頭を撫でて、いいわよと微笑んだ。


「やった!」

「ア―ビー、そっちのチョコケーキを独り占めしようとしないで!」


 大喜びで声を上げ出したのは、行儀を忘れた双子達だった。

 私は膝から末弟を下ろしてアービーの横に座らせ、ヒューも抱き上げてその横に座らせ直した。

 つまり、私が座る場所は、ヒューが座っていたよりもソファの右端という、偉そうなカイルが座る席に近い場所である。


「逃げるつもりならアービーこそ動かせば良かったのに。そっちに僕はいない。」


「逃げる気なんかありませんし、逃げたくなったら司令塔のあなたを抱き締めて逃げます。あなたは私を守るために戦う気持はまだあるのでしょう?」


「いつだってあなたの為に戦いますよ、姉さま。」


 カイルは蕩ける様な笑みを私に向けた。

 けれど、彼は手綱を緩める気は全く無いようだ。


「で、あなたの騎士はどんな軍服だったの?」


「あなたは本当にブレないのね。」


 でも、この質問には答えられる。

 私がデュラハンの衣服を具体的に答えてすぐに、ダニエルとソーンが双子のように口元に手を当てて吹き出す一歩前の様な行動をとった。

 私もカイルもなんだと思いながら彼らを見返すしかなかった。


「なぜお笑いになるの?」


「すいません。その軍服は演劇で人気のある衣装なんですよ。三百年前の実在したレイヴン騎士団の物語は、大衆演劇では有名な題材となっています。」


 親切なソーンが答えてくれたが、私はそんな騎士団がこの国にかってあったことも、彼らを題材にしたお芝居がある何てことこそ知らなかった。


「私は知らないわ!そのお芝居はどこで見る事が出来るの?」


 あ、ソーンが顔を背けた。

 彼の耳は真っ赤に染まっていて、そんな彼はダニエルに肘で突かれていた。


「どうしましたの?」


「ああ、きっとプルを連れていけない場所で公演されるお芝居だってことかも。酒場とか夜のお祭りに、旅芸人がいかがわしい芝居をするんだって。」


「なぜあなたがそんな事を知っているの?」


 カイルは憎たらしい笑みを私に返しただけだが、何故かダニエルが大きく咽た。

 私がダニエルを見返すと、彼はソーンの耳以上に顔を真っ赤に染めており、かなり上ずった声で私に質問を投げかけてきた。


「そ、それよりも、君は騎士様の名前を聞いていたかな?そ、それから、彼について人となりが分かるようなことで覚えていることを教えて欲しいな。」


 人となり?

 私はデュラハンがとっても優しくて博識であるってことを伝えたくなったが、私には彼の事を話せやしないと口をつぐむしかなかった。

 彼による夜中のピアノ教室や、ダンスのステップの手ほどきなど、私だけの秘密にしておきたい宝物の記憶だもの。


「プル?」


「優しい人だった。彼はデュラハンって私に名乗りました。」


 私とフェリクス以外の全員が大笑いするとは!


 双子は笑える機会があれば笑っちゃうお子さまでしかないから分かるわ。

 でも、自称婚約者と私を守ると豪語している実弟と、私を影ながら守る護衛官に任命されたばかりの男よ?

 そんな人達が私を嘲るの?

 ダニエルもカイルも、いいえ、真面目だと思ったソーンだって実は底意地が悪い性格だったのね!


「どうして笑うの!デュラハンの名前のどこがおかしいの?」


「だって、プル。そいつは大嘘つき野郎ですよ?そいつがあなたに騙ったその名前こそ、一つもあなたに真実を語ってはいない証拠ではないですか。ええ、名前通りに腕は立つ人のようですけれど。」


「どういう事よ!」


「デュラハンって首なし騎士の姿をした妖精の名前だよ、プル。」

「お化けの名前なんだよ、プル。揶揄われちゃったね。」


 双子達は楽しそうに指摘してきたが、首なしの亡霊な所は真実で、それこそここでは言えない一番の内緒ごとなのよ。

 でも、私がデュラハンに揶揄われただけのお話になったら、デュラハン探しがお終いになってしまう?

 私は慌ててしまった。


「で、でも、私があなた方に話した軍服が三百年前のレイヴン騎士団のものだと言うのならば、彼が名乗った名前はご先祖のものかもしれないじゃない。」


「そうかも、だけど、デュラハンって、殆ど伝説みたいなお化けのお話じゃない。僕達に沢山昔話をしてくれたプルこそ知らないなんて、本当におかしな話。ああ、そうか。プルはお化けが大嫌いな怖がりさんだったものね。」


 カイルは、ふふんという風に言って見せた。

 本当に小憎たらしい!!

 あなたにデュラハンの姿を見せてあげたいわ。

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