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私の真実

 私は自分を見つめる人達を見返した。

 全員が全員、私を思いやる視線を向けてくれているが、私は利己的な理由でダニエルに嘘を吐いていたに過ぎないのだ。

 その嘘のせいで誰かが誰かを傷つけたり、カイルがなりたくもない軍人にさせられてしまったら事である。

 私は大きく息を吸い、私の拠り所のようにしてフェリクスを抱き直した。


「わ、私は、ええ、私がダニエルに軍の記録を見せて欲しいと願ったのは、私を助けてくれた騎士様を探しているからよ。大昔の軍服を着た顔もわからない方なの。だから、軍の記録からあの方が誰か探れるかもしれないって思ったの。」


 ダニエルに嘘を吐いたその時は、デュラハンの首が誰に奪われてどこに隠されたのかを探すきっかけが欲しいという思いつきだけだった。

 そして、彼が消えた今では、私は生前の彼自身を知りたい、それこそが私の真実で本心となっている。

 そう、私はデュラハンを求めているのだ。


「騎士?君を助けた?君の外出は一昨日が初めてでしょう?」


 ダニエルは質問形で聞き返して来たが、私が一昨日まで外出などしてはいないかったことには確信を持っているような口調だった。

 彼は本気で私の動向を調べていたのだと驚いていたが、だからこそ彼は私には罪が無いと信じ切っていたのだろうか。


 では、真実を伝えれば、彼は私に対する考えを変えてしまうかしら?

 でも、人の命がかかっているのだから、自己保身などしてはいけないのよ。

 私はダニエルに分かるように大きく首を横に振った。


「プルーデンス?」


「違います。私は二週間近く前にも外に出ています。月が無い新月の真っ暗な夜にです。ダニエル。それから、ソーンさん。私はソーンさんの妹様と同じ目に遭ったのよ。キャサリン達に真夜中に呼び出されて、塀の穴から外に追い出されてしまったの。」


 ソーンはごくりと唾を飲み、私をまじまじと見返した。

 ダニエルも私の告白に呆然とした顔付で見返している。


 私は腕に抱く末弟の頭に頬ずりをした。

 私は言わねばならない、その気力を振り絞るために。

 私を助けてくれた騎士の頭を探す約束をしているから、だから私は誰とも結婚など出来ないと。


 いいえ。

 顔もわからない彼に恋をしてしまっている、から、私はダニエルの気持に答えられはしないという真実を。


「あ、穴から外に追い出された私は、森に逃げるしかありませんでした。だって、私が追い出されたそこには、待ち構えた様に男達がいましたから。そ、それで森に逃げ込んだところで――。」


「その先は言わなくていい。」

「分かりました。」


 我が家の双子がするように、ダニエルとソーンは同時に私の言葉を遮った。

 その上、ダニエルはソーンへと歩いて行くと、自分が持っていた銃をソーンの手にこそ握らせたのである。


 え?


 ダニエルがソーンを撃ち殺すのではなく、ソーンに自害しろってこと?

 私がどうした事なのかとダニエルを見守っていると、彼は私に振り返り、固く引き締まった顔つきで、彼がたった今決意したことを私に突きつけて来たのである。


「プルーデンス。今日中に婚約発表をしよう。私は君に何があろうと君を妻として大事にする。」


「はい?」


 ダニエルは再びソーンに振り返った。

 ダニエルから受け取った銃を握ったソーンは、君の考えは分かっている、という顔をしてダニエルに頷いた。


「え?」


「安心しなさい。今後君を脅かす噂が出れば、このソーンが消すだろう。君が探したい騎士もソーンが片付けてくれるはずだ。」


「ちょ、ちょっと、待って。どうして騎士様を消す話になっているの?騎士様は私を助けて下さったの。何もないまま寮に戻れたのは彼のお陰なのよ。」


 ダニエルは顔に満面の笑みを作った。

 そして私に向けて両腕を広げたのである。

 はい?


「では、何のためらいも必要ないではないか。安心して私の腕の中に入っておいで。私は何があろうと君を大事にしよう。」


「私の意見こそ大事にしてください。私は私を助けて下さった騎士様に恋をしているのです!」


 言っちゃった。

 ああ、言っちゃった。

 私はダニエルに咄嗟に言い返していた。

 デュラハンへの私の真実を。


 私の真実を知ったダニエルは腕を広げたまま凍り付き、ソーンは天井を見上げて煙草の煙を吐き出すような長い溜息を吐いた。


 重苦しい無言だけが残った書斎。

 そこに、私のカイルが嬉々とした声をあげた。


「ダニエル、明日と言わず今からプルの為に騎士探しをしましょう。見つけ出してその人にお礼のお金を手渡せたら、そこで全部終わりです。」


 カイルの物言いによってダニエルはがっくりしながら私への腕を下ろすと、その両腕の手の平で自分の顔を覆ってしまった。


「カイル君。……そうだな。君はプルーデンスを助けた彼こそ認めるって事なんだな。わかった。恋した人に捧げられるものとして私は騎士を探そう。」


「何を言っているの?ダニエルは。お金を受け取るような男はプルにはふさわしくない。お金を受け取らない男だったら、プルの事を諦めるでしょう?大昔の軍服を着て森に住んでいる男がプルを幸せにできるとでも?彼が消えればプルだって諦める。だからお終いだって僕は言っているんです。」


 ダニエルは両手から顔をあげると、天使がいるという風にカイルに輝いた目を向け、感嘆としか取れない声をあげた。


「素晴らしい。その通りだカイル君!探そう!絶対に探し出そう!」


 だが、私はカイルに感心するどころか、気持が暗澹たるものに変わっていた。

 デュラハンが私の前から消えたのは私の為に身を引いたからだと、弟の言葉によってたった今気が付いたから!

 私を自由にするために、彼は石の棺に戻ってしまったのだわ。

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