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見舞う気がない見舞客

お読みいただきありがとうございます。

恋愛物なのに、ここから胸糞回です。

胸糞は次話で終わりますので、どうぞご容赦下さい。

2022/9/14 胸糞回は結局次話とその次という二話となります。


 私の微睡を破ったのは乱暴に開けられたドアの音と、ドアを開けてなだれ込んで来た騒々しい女性達の足音と笑い声である。

 私は誰が来たのかと、病室の戸口を見返した。

 そこで分かっていながらもがっかりと落ち込んだ。


 私の病室に入ってきたのは、来てもらっても嬉しくもなんともない私の学友達であったのだ。


 キャサリンとシーモアはいつものように腕を組みあい、シーモアが真っ赤なリボンを結んだだけのバラの花束を右手にぶら下げている。

 キャサリンとシーモアは朗らかな笑顔を顔に貼り付けており、もともと綺麗な二人の為、二人はキラキラと輝いているようだった。


 さて、私と一緒に横になっていたはずのデュラハンはベッドの中にはすでになく、私のベッドに腰を下ろして闖入者達を見つめていた。


 待ち構えていたぞ。


 彼には首から上はないけれど、そんな風に見えた。


 私は身を起こした。

 私が上半身を起こしたら丁度デュラハンの背中の後ろになるなと気が付き、彼の庇護欲が嬉しくなって笑みが勝手に出た。


 痛い。

 笑うと頬が痛いわ。


 私が頬を押さえると、私の痛みが嬉しいという風に、キャサリンとシーモアはさらに大輪の花の笑顔を顔に作った。

 それから彼女達は親友のような顔で私のベッドにまで近づくと、気さくそうな笑みのまま花束を投げるようにして私の膝の上に置いた。

 バラはトゲを取っていなかったらしく、私の薄い寝間着の生地を簡単に貫き、チクチクとした不快な痛みを与えた。


「お見舞いですわ。学園の代表として参りましたの。」


「学園の温室で育てておりますバラですわ。あなたの為に、特別に、切って参りましたのよ。」


 私は花に罪は無いからと、膝の上からそれを持ち上げた。

 葉の影で何かが動き、何だと思いながら覗き込んだ。

 にゅるっと動いたのは毛虫だ。

 キャッと思った次には、私の顔にはデュラハンの大きな手があった。


「毒虫を仕込むとは。君の目に毒針が入る所だった。」


「助かったわ。ありがとう。」


 私は花束を自分から遠ざけてから顔をあげると、キャサリン達に余裕の笑みを返した。

 顔が痛いがそんなことは構っていられない。

 負けるものかって気持ちだ。

 しかしながら、キャサリンとシーモアが私の睨みに動揺するはずなど無い。


 彼女達は自分達の嫌がらせが不発だろうと全く意に介していない、それどころか、私に感情というものが無いかの如く振舞って来たのである。


「まああ。お加減は如何?プルーデンス様。そんなにお辛いなら侯爵様のお宅にご厄介になればよろしいのに。」


「ええ、ええ。本当にね、キャサリン様。プルーデンス様は気が付かない方でがっかりですわ。プルーデンス様が侯爵様のお屋敷にいらっしゃれば、私達も侯爵様のお宅に出向く事が出来ましたでしょうに。全く友達がいのない方です!」


 キャサリンとシーモアは、さも私が考え無しだという風に頷き合った。

 私が彼女達に会いたくないと言えば、彼女達が門前で追い払われると考えもしないのであろうか。


「うふふ。プルーデンス様。お怪我はとっても痛そうね。顎の下から口元まで真っ青よ。でも、ジョアンナの顔はぐしゃぐしゃのぐっちゃぐちゃ。あなたはその程度で済んで良かったと神様に感謝しなくてはね。」


「全くキャサリン様の言う通りよ。やっぱり同じ階級同士って話なのですわよね。同じ階級同士ならば守り合う。ああ、紳士階級だったばかりに、可哀想なジョアンナ。下女を守るために下男に罪を擦り付けられて可哀想なジョアンナ。」


「何をおっしゃっているの?」


 キャサリンとシーモアはいじわるそうな眼つきをしながら私を見下ろし、シーモアは私に向かって拳を突き出した。

 シーモアの拳が開かれると、彼女の手に握られていたであろうもの、真っ赤なリボンが付いた小さなカギが私の膝の上に落ちた。

 毒虫入りの切っただけのバラの花束の上に、あの塀の穴を塞ぐ扉の鍵が落されたのである。


「あなた方、何を?」


「友達は庇い合うもの。あなたの罪の証拠を私達は隠しておりましたの。ねえ、シーモア様。」


「ええ。キャサリン様。何を聞かれても私達はあなたを庇いましたよ。ジョアンナ様を罠に嵌めたあなたの罪を隠しました。さすが、下女。この鍵を使って学園の外に出ていらっしゃったのね。」


「本当に酷い方。でも、許して差し上げますわ。ええ、ダニエル様はあなたがお好きになさればいい。その代わり、ダニエル様の独身の従兄様達、彼らを私達に紹介してくださらなきゃ嫌よ?」


「あなた方は何をおっしゃっているの?全部あなた方の悪巧みではないですか。それを全部私のせいにされたくなかったらあなた方の言うことを聞け、ですか?少々どころかかなりおかしい物言いではないですか。」


 そこでキャサリンとシーモアは互いに笑い合った。

 クスクス笑う姿は、はたから見れば可愛らしい少女の姿かもしれないが、会話が通じないと感じている私には恐ろしいばかりである。


「ジョアンナはどうするのだと聞け。お前達に殿方を紹介するのはやぶさかではないが、お前達のお仲間だったジョアンナは仲間外れなのか、とな。」


 デュラハンが私に囁いた。

 私はキャサリン達の言う通りにするような言葉を一言も言いたくはなかったが、デュラハンが言うのだからと思い切った。


「お友達。いいですわね。いいわ。お友達としてダニエル様にあなた方へのお相手を紹介してもらえるように頼んでみましょう。でも、ジョアンナはどうなさるの?彼女は仲間外れのままになさるの?」


「うふふ。そんなはずはないでしょう。私達はお友達ですもの。ここに来る前にちゃあんとジョアンナへのお見舞いは終わっていてよ。ねえ、シーモア様。」


「ええ。キャサリン様。私達は素晴らしい結婚をするから心配するなと伝えました。おほほ。あなたが貧しい思いをなさっていたら、豊かになった私達がちゃんとご援助して差し上げるから安心なすってって、ねえ。」


「そうですわ。援助して差し上げるって約束してあげましたのよ。だって、ねえ。あの顔じゃもう無理じゃないですか!」


「ねえ。私だったら死を選ぶわ。ねえ?あれは無理だわ!」


 二人は吹き出して笑い出し、私は目の前の人達こそ虫にしか見えなくなった。

 人が持つ情も何もなく、己の欲望の実現しか考えていない、そんな恐ろしい化け物にしか見えなくなった。

 動けなくなった私の代りに、ノックも無しに病室のドアが動いて開いた。

 食事を乗せるカートが入って来たが、私はそこで完全に動けなくなった。


 だって、私を抱き締めて口を封じた大男がいる。


 だって、カートを押すのは、白い寝間着のドレスを纏い、頭を包帯でぐるぐる巻きにした亡霊の様な少女、重症で動けないはずのジョアンナなのだ。

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