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新月の夜にご一緒しませんか?

 私は突然の部屋のノックに驚いた。

 驚いて急いでドアを開けると、そこには学園一の美女で、学園の女王様であるキャサリン・ハムサイドが取り巻きのジョアンナ・モースとシーモア・ユングという三人で一緒ににこやかに立っていた。


 キャサリン・ハムサイドは私よりも濃い金髪に私よりも薄いが水色みたいな綺麗な青い瞳をした美女である。

 長い髪は緩やかに流れていて先の方だけがカールしている。

 私の髪の毛のようにくるくる巻いていないので、月の光みたいで綺麗だな、なんて私は思った。

 そんな美女が、初めて私に笑顔を向けているのだ。

 あなたとはお友達よ、そんな風な気さくな笑顔だ。


 もちろん、キャサリンの親友らしいジョアンナは赤毛に緑の目でとっても可愛らしい顔立ちだし、シーモアは黒髪に金目というやっぱり美人だ。

 つまり、学園のカーストの上の人達が私の部屋を訪れて、これ以上ないぐらいの親愛の情を見せているという事だ。


「あの。」


「クーデリカさん。今晩あなたはお暇かしら?」


「は、はい。ええと、もう寝るだけですが。」


「まあ、良かった。私達は新入りのあなたの歓迎会をどうするか、ず~と今まで考えておりましたのよ。そして今夜は月のない新月。月のパワーが一番強い願い事に適した夜。魔女ごっこをしながら夜のお散歩をするには最適な日じゃございません?」


 真っ暗な外に散歩?

 いえいえ、願い事に適した夜だ、から?


 これは貴族の子女らしいロマンチックなお遊びなのかしら?

 そして、彼女達が私に今まで話しかけもしなかったのは、歓迎会をするまで悩んでいたから?


 なんてナイーブ。

 それこそ貴族のお嬢様であるからかしら?


 私は自分の母親を思い出した。

 あけっぴろげに当てこすりを言ってくる人達に対して母はいつだって笑顔を崩さず、でもって、後で父の胸の中で泣いているという守らなきゃいけない女性という母の姿だ。

 私だったら言いたい事を言っちゃうけれど、そう言うことを言えない人達ならば、この一週間の私への態度は仕方がなかった事かも?


「クーデリカさん。」


「え、ええ。お誘いありがとうございます。すぐに着換えますわね。」


 三人は一斉にクスクス笑いをし出した。

 それから私の間違いを教えるようにして、彼女達が寝巻の上にガウンを羽織っている姿でしか無いとガウンの襟元を摘まんで見せたのだ。


「はい。すぐにガウンを羽織って参りますわ。」


「ええ。寮母達に見つかった時には、寝ぼけていました、を通しましょう。」


「まあ!ハムサイド様は機転が利きますのね。」


 あら?キャサリンは私の褒め言葉を聞くや、むっとしたかのようにしてほんの少し眉根を寄せた。

 機転が利くってお嬢様には使っちゃいけない言葉だった?

 私は自分が失敗したと思いながら部屋に戻ると、急いでガウンを手に取った。

 これ以上学友を苛立たせちゃ行けないわ。

 そんな気持ちだった。


 それからたった十数分後に、そんな気持ちを抱いた自分を下水に流してしまいたい気持ちになっていたけれども。


 キャサリン達は壊れた塀の穴まで私を導いた。

 穴には即席で作られたような扉が付いていて、絵本で読んだ不思議の国へ入っていけそうな雰囲気を見せていた。

 もちろん扉には南京錠が掛かっていたが、シーモアがくすくす笑いながらその南京錠に小型の鍵を差し込んだ。


「あら、まあ。寮生は鍵を持っていらっしゃるの?」


「今日の為に盗んだのよ。」


 ジョアンナが妖精っぽい外見通りに、悪戯小鬼のようにして答えた。

 私は悪いことをいけないと思うよりも、そんな悪巧みに仲間に入れて貰えたって事に嬉しくなっていた。


「この壁の向こうは深い森が広がっているの。夜にここから覗くと、騎士様とお姫様の世界が続いているような幻想的な世界よ。」


 キャサリンは夢見がちに語ると、扉が開いたそこを覗く様に手を閃かせた。

 私はいつでも少女のような母がこうして作られたのだと、なんだか素敵な秘密を知ったような気持ちになりながらしゃがみこんで扉の世界を覗き込んだ。


「え、きゃああ!」


 私は背中をしたたかに蹴られ、気が付けば、地面に転がっていた。

 塀の外側という、寮の敷地外の地面だ。


「いったい何を!」


 何が起きたのかと振り向いたそこで、私が追い出された扉が完全に閉められて穴は塞がれ、私に思い知らせるようにして鍵がかけられた音が響いた。


「どうして!」


「虫が部屋に入りこんだらどうなさります?部屋の外に出しますわよね。」


 キャサリンの言葉は私を凍らせ、その代わりとして彼女の取り巻き達の嬌声があがった。


「ハエはハエらしく森にお帰りなさいな。」

「あははは。ハエって酷いですわよ。ジョアンナ。」


 私は唇を噛むと、寮の中に再び入れる方法、ここではないが塀をよじ登れそうな場所を探そうと走り出した。

 敷地はぐるりと高い塀で囲まれている。

 でも、とっても古い塀なのだもの。

 あの穴があったようにして、穴かよじ登れそうに崩れた箇所ぐらいあるはずよ。


 私は急いで駆け出したが、方角を間違ったと一分しないで気が付いた。

 私は正門に向かって走るべきであり、人に見つからない奥へと向かうべきじゃなかったのである。


 私は六人の男達に囲まれた。


 彼らはみんな同じように舌なめずりして、私を値踏みするような目つきで見つめながら私に一歩また一歩と近づいてくるのだ。

 ぼろ布同然の衣服は勿論、顔付こそ下卑ている彼らは、今の私の助けどころか災厄にしかならなそうだと、世間知らずの私でもわかった。

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