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私のルームメイトは煌びやかな前歴がおありらしい首なし騎士様です  作者: 蔵前
騎士様は言う、地獄の入り口はいつもどこかにある、と
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焼餅焼きな騎士様

「まあ!ザクロ石って本当にザクロみたいなのね!」


「人の口真似をするのはやめてくださる?」


 私はあれからずっとデュラハンを無視していたのだが、彼が私の物まねをし始めた事でとうとう私は彼に喋ってしまった。

 でもまだ怒っているのよ。

 大柄な亡霊が少女の真似事をして変な声を出したから、思わず笑ってしまったけれど、私はまだ怒っているのよ。


「プルーデンスはやっぱり子供か。何を怒っているのかわからん。あんな軟弱な男の妻になりたいなら俺は止めないぞ。」


「軟弱って!侯爵様と商人の娘、という凄い垣根を飛び越えて求婚できる人よ?崇高な精神をお持ちの素晴らしき方だわ。」


「いいや、軟弱だ。気に入った女は愛人にするべきだ。奪って己が手に入れるものだ。それを?妻?神様に許された繁殖行為しか許されない相手に?シーツで隔たられ、互いの体を抱く事も出来ず、突き立てて精を放つだけの妻にしたいのか?俺は惚れた女ならば、体の隅々まで奪いつくしてやりたいと思うがな!」


 ザクロ石を使った宝飾品のガラスケースから遠ざかっていた私達は、デュラハンの言葉のその時に、中世の婚礼用のシーツが飾られているガラスケースの前に立っていた。

 今は灰色がかっているが、かっては輝けるような白いシーツだっただろうそれの隅々にまで施された刺繍は見事なもので、それが歴史を教える文化財となっているのも頷ける。


 だが、デュラハンの下品極まりない台詞の後にそれを目にした私は、シーツに穿たれた穴が目に入って生々しさしか感じなかった。


「嫌らしい!」


「これだからおぼこは。ベッドの中での最高を知れば、君こそ妻ではなく愛人になりたいと望むであろう。」


「これは最悪なしきたりだね。今の世はこんなシーツが夫婦の間に存在しないことに私は感謝でいっぱいだ。君の様な純粋な人に心の赴くまま求婚できる。」


 私の隣にダニエルは立ち、ガラスに映っている私に向けて、ガラスに映っているダニエルは流し目をした後に片目を瞑った。

 私は笑いを噛み殺しながらデュラハンを横目見た。

 あなたの考えこそ時代遅れのようですわよ、そんな風にして。


 デュラハンは襲い掛かってやるぞと言う風に右手をかぎ爪にして私に凄み、私はそんなことは絶対にしない彼に笑いが零れてしまった。

 彼に怒りを持ち続けるなんて不可能ね。


「うわ、何が!」


 ダニエルは慌てたようにガラスから振り返った。

 彼が目線を動かした先は私の右隣り、デュラハンが立っているその場所だ。


「どうなさったの?」


「ガラスに映った君の横に、ガラスに映って、いや、見間違いか。」


 そう言えば私達三人が仲良くガラスに映っていた、と、デュラハンに慣れっこになっていた私は今更に気が付いた。

 慌ててガラスを見返したが、そこにはすでに私とダニエルしか映っていない。


「な?君以外にも俺の姿を見せられるだろ?」


 してやったという機嫌のよい声が私に囁き、私はこのろくでもない人をどうしてやろうかと考えた。

 愛人の方が妻よりも良いだなんて、こんな大昔の考え方しかしない人を!


「ダニエル様。民俗資料室は古い幽霊がいるのかもしれませんね。同じ幽霊だったら恐竜が見てみたいわ。古生物の展示室に行きませんか?」


「では、お手をどうぞ。プルーデンス。」


 ダニエルは嬉しそうに笑顔となって、私に腕を差し出した。

 私はダニエルの腕を取り、私の後ろでデュラハンが小馬鹿にしたようにして、はっ、なんていう声をあげたのが聞こえた。


「俺は置き物も動かせるんだよなぁ。」


 恐竜の骨にダニエルが襲われる。

 ちょっとそんな場面を見てみたい気もするが、それは人道に反する。


「君に触れたその男は、君を思うからこそ君と繋がっている。俺はこいつに憑りつく事もできるぞ。こいつが君の未来の旦那様にたるかの素行調査をいたしましょうか?報酬はこいつの首でな。」


 デュラハンはダニエルに敵愾心むき出しだ。

 私はウンザリしながら目を瞑り、それで何のためにここに来たのだろうかと思い出した。

 デュラハンの頭を探すためじゃないの。


 そして、思い出した。

 私が足を踏み入れた場所にデュラハンは向かう事が出来るけれど、私が禁止された場所には彼だっても進めない。

 学園では私が呼ばれた事がある学園長室にも、まだ立ち入ってはいないけれど今後私が入ることのできるダンスホールにだってデュラハンは行けるが、キャサリンやローザ達の私室に私が入れないように彼は入れない、らしい。


 つまり、この自然史博物館が来客者に開いている場所しか私とデュラハンは足を踏み入れる事は出来ず、一番の目的だった軍事資料室には入れない、という事なのだ。


 私は自分に腕を差し出している男性の横顔を見つめた。

 侯爵様って、それなりな権限があるお方よね?

 私に見つめられていることを知ったダニエルは、嬉しそうに微笑むと私にその顔を向けた。


「何かな?」


「あ、あの。ええと。」


「何かな?プルーデンス?」

「必要ない。そこには何もない。探る必要など無い。」


 二人の男性の重なった言葉で、私はデュラハンの言葉によって次の言葉が出てしまったと言っても良い。

 自分が必要ないって言われたような気がしたのだ。


「弟が軍隊に興味を持っているの。ここは元軍事施設で、大昔の軍の資料が保管されていると聞いたわ。ちょっと覗いて見たくなったの。昔の大砲やライフル銃などもあるのでしょう?」


「ハハハ。面白みも無い資料ばかりだよ。大事な書類は全部片付けられてしまって、そうだね、たいしたものは残っていないのに、どうして閲覧が不許可なんだろうね。よし、ちょっとだけ覗いてみようか?」


「まあ!ありがとう!」


 ダニエルに御礼を言いながら、私の胸はずきずきと痛んでいた。

 これは人の好意を利用した酷い行いよね。


「まあ、どちらに参りますの?」


 私とダニエルはキャサリンの声に同時に足を止めて、同時に彼女を見返した。

 そこで私と彼はここに私達以外がいた事を思い出したのだ。

 ダニエルこそ、自分が逃げてきた相手に再び捕まったという、数分前までの自分の境遇を思い出したのだろう。

 女性に怒鳴ることなど出来ない紳士でしかない彼は、疲れた様にして自分の目元を私に差し出していない方の手で覆った。


「お二人だけの勝手な行動は許しません事よ。」


 キャサリンはそれはもう底意地の悪そうな笑みを顔に浮かべていた。

 絶対に私の行き先は全て邪魔してやる、そんな強い意思が見える。

 なぜ?


「密室に男と二人きり、それで婚姻成立だおめでとう。」


 デュラハンの囁きに私は自分が何をしようとしていたか気が付いた。

 まあ!

 キャサリンの横入りに感謝する日が来るだなんて。

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