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付添い人決定とオマケ、そして君にダンスを

 私の想定と違い、付添い人はあっという間に決まった。

 数学教師のローザだ。

 彼女はマックスと私の諍いの裁定において公正な人だったから、私は彼女と町を歩いて親交を深められるならば嬉しい限りだ。


 しかし、人生は良い事があればそれの駄賃のようにして悪い事が起きる。


「ほら!私の言う通りにすれば簡単だったのに!」


 私は自室に戻ると、空っぽのベッドに転がっている大男に怒鳴っていた。

 頭が無いのでどんな表情をしているかわからないが、胸の辺りがびくびくと上下しているので笑いをこらえているだろう事は確実だ。


「あなたはこの展開を分かっていた?」


「キャサリン達は君が憎くて堪らない。可愛い君に女王の座が奪われるのが怖くて仕方が無いのかな。そして、自分達のやった事が自分に返ってくるのも怖くて仕方が無いから君から目が離せない。」


「だから私に付添い人を付けろって言い張ったの?」


 デュラハンは身を起こし、左腕を伸ばして彼を見下ろす私の頬を突いた。

 私がかなり怒っていることをデュラハンに教えるために膨らませていた頬はそれで萎んだが、私の怒りが萎んだわけではない。


「俺は君の身が一番だよ。キャサリン達は単なるおまけだ。それに、彼女達は一緒に行動していた方がいい。町から戻ったら君の寝具やドレスが汚物塗れ、そんな結果は嫌だろう。」


 私の怒りなんか完全に消えた。

 その代わりに物凄い恐怖で叫び出しそうだった。


「そこまでするものなの!」


 あ、叫んでいた。

 デュラハンはそんな私に笑い声をあげると、私を自分へと引っ張った。

 完全にベッドに座り直したデュラハンの腕の中に私はいて、私は彼に後ろから抱き締められるようにして彼の足と足の間に挟まれて座らせられている!


 脅えるべきよね。

 こんな親密な行為は駄目だと叱りつけるべきよね。


 でも私は背中に当たるデュラハンの固い胸の感触や、彼の体が温かくないという事実を突きつけられている状態なのに、逃げたいなんて思わなかった。


 そしてデュラハンこそ私を抱き寄せながら抱きしめてはいなかった。

 私の胸の辺りで腕を交差しているが、彼の腕は私に一切触れていないのだ。

 まるで、大きくて安全この上ない椅子に私は座っている、そんな感じだった。

 だからか、私は緩んとした気持ちになって、自分から寄りかかって彼の胸に背中を預けていた。


「無邪気な君。美しき我が乙女、プルーデンスよ。こんなに気を許して良いのか?俺という呪いの存在のせいで、君はこれからろくでもない真実ばかりを目にする事になるかもしれないというのに。」


「でも、それはあなたのせいじゃないわ。悪い行いは行う人の意思によるものだわ。誰かのせいにしてはいけない行為だと思うもの。」


「その意思こそ俺が呼んだ悪意によるものかもしれないよ。俺はもともと凄い悪鬼で、だからこそ人間達は俺の首を取ってしまったのかもしれない。」


「あなたは優しいわ。だからそれは違うと思う。」


「お馬鹿さん。男は優しくしたい相手を自分で決めるものだ。女のように誰にでも優しくして、誰にでもお友達でいましょう、そんなことは出来やしない。」


 それは私にだから優しいって言っているの?

 私は身じろぎをして後ろへ振り返った。

 私の右手は彼の胸に当てられ、それは凄く親密であったけれど、振り向いたせいで私達の真実を突きつけられただけだった。


 彼には首から上が無い。

 彼が私を後ろから抱き締めるのは、彼自身の真実を彼こそ忘れたいと思っているからなのかもしれない。

 私は前を向き直し、さらにデュラハンに深く寄りかかった。


「こんなに美しく可愛らしい姫君は、王子様に見初められてお城に嫁いで行くものだ。それなのに俺に囚われてしまったために、君は王子の求婚を撥ね退けねばならない呪いの中にある。」


「今日は泣き言ばかりね亡霊さん。乙女は王子様よりも騎士様を夢見るわ。悪者から助け出してくれる騎士様なんて素敵だわ。」


「そうだな。君には悪者から助け出してくれる騎士が必要だな。」


 デュラハンは私の腰を両手できゅっと掴むと、私を軽々と持ち上げて立たせてしまった。

 急に持ち上げられた私は驚いたが、その感覚が幼い頃に父に抱かれた思い出と重なって、怖いよりも楽しいばかりだった。


「空を飛んだようだわ。ダンスでエスコートされるのもこんな感じなのかしら!ほら!男の人にサポートされてくるって回ったりするじゃない?」


「全く君は!」


 若々しい男性の笑い声が弾けた。

 私は彼の素敵な笑い声によって振り向いたが、その時にはデュラハンは既に立ち上がっていた。

 彼は胸に右手を上げてほんの少しだけ腰を落とすという礼を私にした。


「ダンスを踊って頂けますか?お姫様?」


 デュラハンは私に左手を差し出した。

 私はその手の平に自分の手を乗せた。


「ええと、踊ったことは無いの。」


「踊れ、ない?誰かが踊っているのは見た事があるだろう?」


「お母様の小説の中では、色々な人達が踊っていたわ。」


「無垢は本当に危険だな。さあ、左手は俺の肩に添えるんだ。」


「えっと、ってきゃあ。」


 私が彼の肩に左手を乗せるや、私の腰にデュラハンの右手が回され、私は彼に引き寄せられた。

 爪先がトトっと動いたが、その次には私は横に円を描く様に歩かされた。


「踊れるよ、君は。ちゃんと最初のステップは踏めた。」


「え?」


「俺を追いかけ俺を惑わしてやろうとすれば、それは立派なステップになるんだよ。さあ、続けようか?」


「え、ええと。」


 またグルんと私は円を描く様に振り回された。

 そして彼は斜め横に足を動かし、私はその足を追いかけるように彼に近づいたのに、彼は今度は私に一歩踏み出す。

 ぶつかってしまう。

 私は一歩下がる。


「そう。それでいい。だからワルツは未婚の女性には禁止なんだ。こんなにも親密に触れ合って、こんなにも相手の男に夢中にならねばならない。」


「うそ!ダンスってそういうものなの?相手の男性に合わせるだけで決まったステップなんてものが無いの?それじゃあ私はあなた以外の人と踊れないわ!」


「ハハハ。可愛い君。俺と君が踏んでいるのはちゃんとしたステップだよ。君が誰と踊ろうと、君にステップを仕込んだ俺を忘れる事は出来ない。俺は今君の最初の男になっているってだけだ。」


「え?」


 私はまた大きくぐるっと回された。

 私のドレスはダンス用ではない固い生地の日常着だが、風に舞うようにして裾が大きく膨らんで閃いた。


 楽しい!


 私はもっと振り回されたくなり、デュラハンの右手をしっかりと掴み、左手は彼の肩を離すものかという様にがしっと掴んだ。


「こらお子さま。高い高いがして欲しいだけとは、ああ、君は本当にお子様だ。」


 私の右手からデュラハンの左手は剥がされ、その代わりとして私の腰に彼の両手が添えられた。


「え、いや、違くて、きゃああ!」


 ダンスは終了し、私は笑う亡霊にグルグルと振り回されるだけとなった。

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