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どうしてこんなことになったのやら

 私は自分が与えられた狭い部屋を見回して、大きく溜息を吐いた。

 自分を儚んでの溜息だが、自分の外見が嫌だというわけではない。

 自慢するつもりはないが、私は母譲りのハニーブロンドと青い目をしているし、好みもあるだろうけれど不細工では無いと言い切れる顔立ちだ。


 私のため息は現在の境遇によるものだ。


 名前が嫌い?

 プルーデンスは確かに古臭いが、駆け落ち婚の両親が今後の誓いに慎重を大事にと考えたのであれば、許せなくなくもない。


 自宅で虐待されている?

 そんなことは無い。

 我が家は愛ばかりの家である。


 前述したが、両親は駆け落ち婚である。

 つまり、両家の実家に勘当された身の上であるからして貧乏だが、彼らと彼らが築いた家庭に愛が無いということは無いのだ。

 ただし、貧乏だったのも八年前までであり、現在では愛しかない家という肩書きではなくて、金も愛もある家となっている。

 それは、愛する人を幸せにしたいという父の不屈の精神による。


 現在の父はそれなりな商人となっており、現在の我が家はそれなりの大金持ちとなっているのだ。

 ついでに、家が豊かになれば余裕ができるのか、父と母は私の弟達という存在を生み出し始め、我が家は大家族となっている。 


 ただし、四人の男の子達の世話に翻弄されたことで、両親は大事なことを忘れてしまった。

 大事な長女である私に教養を付ける事だ。

 私はもう十六歳。

 嫁に出られるお年頃だと彼らは気が付き、そこで、良い所に嫁入りするのに必要ともいえる、教養が私には一切身に付いていなかった事に気が付いたのだ。


 そして私は家を出される事になった。

 淑女教育を受けられるようにと、寄宿学校への入学だ。

 現在私は、自宅のある首都から馬車で四時間ほど離れた郊外にある、聖バンシショレイト女子学園の寮という一室に押し込められている。

 だからと言って先程の溜息は、父によって寄宿舎に入れられた自分の身の上を嘆いての溜息じゃない。

 だって、寄宿舎に入ることは私の喜びであったもの。


「プルーデンス。お母さんが言っていたんだが、お嬢様は寄宿舎に入って教養を身に付けたり、お友達を作るもんなんだってな。そうしないと貴婦人になれないそうじゃないか。お前に頼るばかりで気が付かなくてごめんな。来週には学校に行けるように手配したから。」


 二週間前、父が死にそうな顔をして私に学校のパンフレットを手渡してきたが、私の内心は歓声をあげたいぐらいに大喜びだった。

 実家にいれば五人姉弟の一番上の長女として、私は体が弱い母の代りにやんちゃな弟達へ調教をしなきゃいけない立場だったのだ。

 一人きりになれる、それも、周りはきっとおっとりした女の子達ばかりよ、そんな環境を父親に与えられて嬉しくないわけなんかないじゃないの、と。


「まあ!お父様!お母様と同じ経験が出来るのはいつだって楽しみよ。そんなお顔をなさらないで!」


「だって君が来週からいなくなるなんて!可愛い一人娘なのに!」


 あら、忘れていて申し訳ないの罪悪感じゃなくて、そっちの感情?

 これは喜び過ぎたら寄宿舎行きを取り消されるかしら?


「まあ!お父様。私こそお父様のいない生活は考えられませんわ。」


「じゃ、じゃあ。やっぱりやめるか?結婚相手は私がいくらでもいい男を見つけて、相手が何だろうが君が気に入ったらならば結婚させてあげるから!そうだよ。貴族の男よりも私が仕事で取引する若者の方がいい男が多いじゃないか!」


 背筋に悪寒が、ぶるる、である。

 単なるリップサービスなのに、お父さんたら愛情重い。

 結婚相手は貴族も庶民も幸せにしてくれるならどちらでもいいけれど、生まれて初めて一人で自分の事だけできるという環境を体験できるのよ?

 これを台無しにしちゃったら大変だわ!


「え、ええと。で、でも、甘やかされているからこそ私は試練を受けるべきだと思いますの!大、大好きなお父様とお母様の為に、どんなに辛くたって私は素晴らしい貴婦人になれるように頑張りますわ!いいえ、頑張りたいの!」


「おおおお、愛しの我が娘よ~!」


 私と父は抱き合い号泣したが、私は家を出られる未来に有頂天になりながらの嘘泣きだった。

 ただし、そんな親不孝な私は、ちゃんと学園にてしっぺ返しも受けている。

 一週間前に学園に編入したが、未だに私には友人と呼べる人どころか、学校ではいない人として扱われているのだ。


 寄宿舎は貴族の子女が通う所だ。

 大金持ちでも庶民でしかない私は、学友達とは身分違いの成金娘と見下されてしまっているようなのである。


 でも、それで悲しくて溜息が出たわけではない。

 その程度の事が私の悩み事になるわけなど無いのだ。

 話しかけられることがなくたっていいのよ、それぐらい。


 私は大きく溜息を吐いた。

 私に与えられた個室は、相部屋では無くて一人部屋だ。

 ベッドにライティングデスクに本棚とクローゼット程度しかない、狭い相部屋だが、誰も私と相部屋になりたくないので一人部屋だ。


 しかし、この結果は弟達に翻弄されてきた私には幸運でしかない。

 弟達によって一人の時間などベッドで眠る時間ぐらいの私には、この環境は最高のものでしかないのだ。

 だったはずだった。


 私は自分のため息の原因、私のベッドの向かいに置いてある空っぽなはずのベッドを再び眺めた。


 ベッドには、私の溜息の原因が偉そうに足を組んで座っていた。

 煌びやかともいえる刺繍の入った近衛兵のような軍服姿をした、体のとても大きな男性がマットレスも乗っていない空っぽのベッドに座っているのだ。


 そいつは私の視線の中で、それはそれは悠々と、自分の膝に置いてあった私の小型の黒板に文字を書き、それを偉そうな手つきで持ち上げた。


 客に茶菓子も出さないのか?


 意外にも綺麗で読みやすい文字であることが、さらに私を苛立たせた。

 深夜の部屋で思わず声を荒げてしまう程に。


「あなたは亡霊だし、お茶を飲む口がどこにあるのよ!」


 今夜から私の部屋の同居人となったらしい男。

 ただし、彼には首が無い。


 感謝というのは行動で表すべきだ


 私は新たに黒板に書かれた文字に歯噛みした。

 私を無視してきた人達が急に話しかけて来たからと言って、無防備にその人達の頼みを聞いてしまった私にどれほどの咎があるというのだろう。


 こんな首なし騎士亡霊を背負いこむ羽目になるぐらいの咎が!

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