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The Knight of Misfortune

お待たせしました、第21章が公開されました。お楽しみ頂ければ幸いです。

挿絵(By みてみん)


第21話


「なんで…!?なんで…!?

こんなの…ひどすぎる!!」

悲痛な少年の叫びが灰の降る空に響いた。

「ほう、まだ生きているのがいたか…。」

エイシオの存在に気づいたイッキが歩み寄る。

そして放心して座り込む少年の前で足を止めた。

「小僧、お前に印はあるのか?

無ければ、お前もゴミクズだ。」

エイシオの頭を掴もうと手を伸ばした、その時、少年の腕に激しい閃光がほとばしり、強力な風の刃が男の頭めがけて放たれた。

イッキは軽く首を傾け難なくかわす。

風刃(ふうじん)は男の頬にわずかな傷をつけるにすぎなかった。

「なるほど。小僧、お前は風使いか。

だが、まだまだ未熟なようだな。」

先触(ヘラルド)は悠然と少年を見下ろす。

だが怒りに震えるエイシオに、もはや恐怖心はない。

「お前がナルミを…

許さない!殺してやる!」

大地を蹴って上空に飛び上がり、左右の腕から風刃を放つ。

イッキは落ち着いた様子で空中に手をかざして円を描く。

オレンジに光る炎のシールドが現れ、エイシオの攻撃を無力化する。

次いで指先に素早く錬成した炎弾(えんだん)を、地面に降り立ったエイシオめがけて発射した。

咄嗟のことではあったが、少年には相手の動きが読めていた。

師との鍛錬の中で、このような事態への対応を体が覚え込んでいた。

少年は腕を払いあげて大地を這う風の衝撃波を生み出して火の玉を砕き、俊敏さを生かしてイッキの足元に突進する。

そして至近距離から風を(まとわ)わせた(こぶし)をかち上げた。

むろん、イッキは体勢を変えるまでもなく、顎をそらせてやり過ごす。

エイシオは、それを機と見て飛び上がり、風で遠心力を増幅させた蹴りをイッキの頭部に見舞った。

手ごたえはあったが少年の軽い体では、防具に覆われた彼の頭にダメージを与えることはできない。

逆にその足を掴まれ、逆さまに吊るされてしまった。

「ずいぶんと威勢がいいな。

だが、そのような軟弱な攻撃が私に効くと思うか?」

言い終わらぬうちに、少年の足を掴む手に炎を発生させた。

熱と痛みで悲鳴を上げるエイシオを地面に叩き落とし、

「さあ、お前に印があるか否かを見せろ。」

苦しむ少年の首に手をかけた。


その時、一陣の風が灰を巻き上げ、男の額に強烈なウィンドショットがヒットした。

激しい風圧はイッキの足元にうずくまっていたエイシオの体を吹き飛ばすほどだった。

暴風に巻き上げられたガラスの破片が男の体に幾筋もの傷を作り血がにじむ。

風の弾丸は兜にぶつかり軌道を反らせたが、その威力はイッキに軽い脳震盪(のうしんとう)を起こさせるには十分だった。

首を振って正気を保ったイッキが、不気味な笑みを浮かべる。

「おやおや、こんなところで出会えるとはな。」

見据えた先にフローリアンが悠然と立っていた。

「お前を許すことはできん。

この落とし前は、イッキ、お前の命1つで足りると思うな!」

「老いぼれても、なお強気だな。」

大地を蹴り、一瞬にしてイッキとの距離を詰めるフローリアンに対し、炎使いは両腕を交差させ、巨大な火球を発生させる。

その技を見切ったフローリアンは上空に舞い上がり、(ちゅう)を蹴って体を反転させながら、風の(つるぎ)を形成し、イッキの喉元を払った。

「愚かな風使い。

貴様の得意とする空中が貴様の死地となる。」

イッキは背後に飛び下がり、低い体制のまま空に手をかざす。

伸ばした手の先に4つのサーキットリングが現れ、その赤い環が禍々しく輝きを増し始め、刹那、炎を帯びた光線が放たれた。

「!!」

フローリアンがその攻撃を逃れるには、上へ飛ぶしかなかった。

経験上、逃げ場を失う垂直方向の回避は危険と知っていた。

だが炎使いはエレメントの特質上、高く跳躍するスキルを持たない。

だから極力空の高みを目指し、距離を十分に離して体勢を立て直さなければならない。

しかしイッキは、そこいらの雑魚どもとは違った。

地面に手を突つき、腕に溜めた炎のエネルギー波を一点に集約させ、それを推進力に変えて空中へ飛び上がった。

さらに炎の鞭を発生させ、上方のフローリアンの足首を捕らえる。

その反動を利用してフローリアンの目の前まで一気に距離を詰めた。

そして彼の頭を鷲掴みにして、ニヤリと笑う。

「言ったはずだ。

空中が貴様の死地になる。とな。」

イッキは剛腕にまかせて老練の風使いの体をロックし、そのまま重力に任せてすごい勢いで落下し始めた。


地響きと土煙が舞い上がる。


挿絵(By みてみん)


その衝撃でフローリアンは半ば意識を失いかけている。

対して風使いの体でショックを緩衝したイッキは、ほぼダメージを受けてはいない。

「どうした?

やはり歳には勝てんか?フローリアン。」

薄ら笑みを浮かべるイッキの前に膝をつき、立ち上がろうとしたフローリアンだったが、口から大量の血が吐き、前のめりに倒れ込んだ。

その頭を踏みつけてイッキが冷酷に見下ろす。

「私は、導き主様の聖なる偉業のための(いしづえ)

我らが(しゅ)の覇業を妨げる者は死ぬがいい。」

そして腰の刀を抜き、踏みつけにした男の首にあてがった。

ヒヤリとした刃の質感を感じたフローリアンは、血に汚れた顔を歪ませ、

「…ほう。刀を使うのか…?

たかが、こんな死にぞこないの“老いぼれ”のために?」

最大限の皮肉をを吐く。

「高潔な侍の魂だろう?刀ってやつは…。」

「侮辱的な言葉で私の平常心を失わせようと考えているのだろうが、生憎(あいにく)そのような稚拙(ちせつ)な手には乗らん。

この刀は私にまとわりつく呪いだ。

高潔さとは程遠い。」

イッキが刀を振り下ろす。

その瞬間をフローリアンは待っていた。

「だろうな!」

両手で刀を振るう動作に入ると、回避するのは難しいと知っている。

フローリアンの首筋にサーキットが現れ、音にならない高周波エネルギーを放つ。

足元から駆けあがる音にならない強烈な振動が、イッキの体にダメージを与える。

先触(ヘラルド)の耳から血が溢れた。

わずかな隙を見出し、地面から跳ね上がったフローリアンは、炎使いから距離を取り体勢を立て直す。

耳から流れる温かい液体を手でなぞり、赤く染まる指先を見たイッキは嬉々とした表情を浮かべた。

「なるほど。

年寄りのおしゃべりは策の内だったというわけか。

いいだろう。」

刀を振るうと同時に炎が刀身を覆い、陽炎(かげろう)がその軌道を追うようになびいた。

「死に急ぐと言うのなら、今すぐあの世へ送ってやろう。」

イッキが黒く輝く刀身を地面に突き立てる。

地面にサーキット・サークルが現れ先触(ヘラルド)の体を赤く照らしたかと思うと、そこから打ち出された灼熱の波が地を這い、フローリアンの足元で巨大な火柱となって吹き上がった。

直撃は食らわなかったものの、爆風でフローリアンの体は上空に吹き飛ばされた。

たとえ回避できていたとしても、それがイッキの狙いであることは言うまでもない。

風使いにとって最大の利点である空中は、時に最大の弱点となる。

だが地上戦は、この戦慣れした先触(ヘラルド)に利がある。

どちらにしても、フローリアンには不利な状況に変わりはない。

次の手を考える余裕もなく着地したフローリアンは、ここで最大の窮地に陥ったことを理解することとなる。

両腕を広げたイッキの周りにサーキット・サークルが現れ、地面から炎のカーテンが出現する。

それは意思を持ったかのように地を這い、見る間に2人の男の周囲を囲んだ。

さしずめ、炎の檻である。

逃げ場どころか、後退することもできない。

熱風が喉を焼く。

一刻も早く打開しなければ、やがて呼吸ができなくなる。

「さあ、どうする?フローリアン。」

地面から引き抜いた刀を手に、イッキは悠々と近づいてくる。

その刀が再び炎を(まと)う。

「楽には殺さんぞ。」

口元を歪め、フローリアンに切っ先を向けた。

その姿を熱が作り出す陽炎が歪める。

「言いたいことは、それだけか?」

フローリアンはニタリと笑い、両腕を額の前で交差させる。

集約される風のエレメント同士が衝突し、激しく発光している。

イッキは相手が攻撃に移る前に刀を構えて踏み込み、先制をかける。

老練の風使いは、その展開を予測していた。

体内に取り込んだ大量の風のエレメントを瞬時に凝縮させ、一気に全身から放つ。

ドンという爆音とともに、猛烈な風が渦を巻き、2人を包み込んだ。

風の奥義。自身の命を削り、相手を倒す禁忌の技である。


巨大な竜巻はやがて高速で回転する真空の空間を生み出す。

それは渦内部の空気を飲み込み、やがて炎の壁が消失する。

真空空間内部の人間は、その絶対圧で血液が沸騰する。

相手を間違いなく死に至らしめる奥義は、術者にも牙をむく諸刃の剣である。


しかし、その渦の中で不遜に輝くイッキの目を見たとき、フローリアンは改めて、この男が怪物であることを思い知った。

「これが“エンリル”か。嵐の神の名を冠するだけの奥義。

数ある風使いの中でも、発動できる者は(まれ)と聞く。

全盛期のお前ならば、私も危うかっただろう。

老いとは残酷なものだな、フローリアン。

命を散らすには惜しい男が、もう終わりにしょう。」

炎使いの筋肉が隆起し、全身の赤いサーキットが輝きを増す。

地面から抽出する炎のエレメントがイッキの体内で最大限まで圧縮され、やがて太陽フレアを彷彿とさせる大爆発を起こした。

荒ぶる白い炎が風の渦を打ち破り、静けさが辺りを覆う。

膝をつき、かろうじて防御に転じたフローリアンの腕は、痛々しく焼けただれていた。

「さすがだな、フローリアン。

私も久々に命の危機を覚えた。

だが私は、そこいらの炎使いとは違う。

無酸素状態でも炎の燃焼を持続させるパワーがあるのだよ。」

呼吸を整えながら、イッキがニタリと笑った。

「なるほど。

アルファゼマのように簡単に攻略とはいかないというわけか。」

かつて、フローリアンはアルファゼマの教団施設を壊滅させている。

その拠点を守る先触(ヘラルド)とも交戦したが、イッキの強さはその比ではない。

「力なき者と私を比較しないでほしいものだ。

アルファゼマが落ちた理由は1つ。

奴に力が無かったからだ。

だが、今、貴様の目の前にいるのは、真の十三(ぐう)の信奉者。

我らが主のために魂さえ捨てる覚悟を決めた者だ。」

イッキの体が再びサーキットを帯びて光を放つ。

フローリアンは立ち上がろうとしたが、激しい眩暈に襲われ、ガクリと膝をつく。

「お前のようなガラクタに見せてやるのは(しゃく)だが、とはいえ、貴様の力は認めざるを得ない。

私の敵としては申し分なかった。

この白炎に焼かれて死ぬ名誉を与えてやろう。」

イッキの両手にサーキット・サークルが現れ、不気味な波動音が響く。

同時に凄まじい閃光とともに白い炎が荒ぶる3頭のドラゴンとなってフローリアンを襲う。

その3発の白炎を危うくかわしたものの、その場にガクリと膝をついた。

未だ体勢を整えることができない。

とっさに手に触れた地面に突き立つ剣を掴んで、立ち上がろうとした。

それを見て、フローリアンはわなないた。

(すす)けてはいるものの、見覚えのある剣。

ずっと自分と共にあったもの…。


戦慄に体を震わせるフローリアンに近づいて来るイッキは、

「ほう。運命とは数奇なものだな。

ダリアの(のこ)した剣が、今、お前の手にある。」

悪意ある言い回しで煽る。

「風使い。なぜ、お前は戦う?

二十数年前、お前はダリアを守れなかったというのに。

我らの信仰を反故(ほご)にした、あさましき十三(ぐう)。」

「黙れ!お前にダリアの何が分かる!」

イッキはフンと鼻で笑い、蔑むように目を細めた。

「わが師、アルダラは言った。

お前も知っているだろう?古参の女先触(ヘラルド)を。

師は幼い私に何度も語った。

ダリアがどのように教団を裏切り、どのように我々を苦しめ、どのように死んだかを。

憐れなものだな。

ダリアの騎士(ナイト)は彼女の死を止めることができなかった。」


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28年前

雨の降りしきる戦場。

濡れそぼったヴェントゥムの戦旗が見える。

辺りに漂うのは煙と埃と血の匂い。

若き日のフローリアンは戦場を駆けていた。

目指すのはヴェントゥム王によって封印されたアエヴィテルヌス。

王国精鋭の騎士団を相手に闘い続けた彼の体は、限界を迎えて悲鳴を上げている。

だが、あふれ出るアドレナリンが、ただ彼を突き動かす。

遥か前方に見えるのは、ヴェントゥム王イスクロと対峙するダリアの姿。

長い黒髪が緑のサーキットに照らされ神秘的に揺れている。

強力な重力場に包まれ、雨が彼女に触れることもない。

イスクロに照準を定めたダリアが、大きくジャンプする。

「ダメだ、待て!早まるな、ダリア!」

フローリアンの声は激しい雨音にかき消される。

王の腕に白く輝くサーキットが現れ、一瞬にして光が戦場を覆う。

白と緑の閃光が天を割った。

目が眩むほどの光が厚く垂れこめる雲を照らす。

遥か昔より守護者同士の戦いは禁忌である。

その圧倒的能力は森羅万象に影響を及ぼす恐れがある。

もちろん計り知れないパワーは、互いに致死レベルのダメージを与える。


目を開けたフローリアンが見たものは、イスクロの光の剣に刺し貫かれたダリアの姿だった。

泥水の中に崩れ落ちるダリア。

ヴェントゥム王もまた、力を消耗して片膝をつく。

我を失ったフローリアンは、ダリアに駆け寄る。

全てがスローモーションのようだった。

抱き起した妻はピクリとも動かない。

男の心は壊れた。

心臓から湧き上がる言い知れない黒い感情が彼を支配する。

騎士は一斉に国賊へ攻撃を開始するも、激しい暴風に包まれた男にかすり傷さえ負わせることができない。

撤退の角笛が響く。

フローリアンは妻の腰に携えられた銀の剣を抜きとり、風のごとく疾走し、イスクロに襲い掛かった。


その後のことはあまり記憶に残っていない。

負傷した王を守り、退却する騎士団の姿。

泥水の中に横たわるダリアの顔。

その目が僅かに開き、小さな唇が何かを言いたげに動いた。


愛しい妻は、全幅の信頼を置く夫の腕の中で息を引き取った。

後に残ったのは、妻の亡骸とフローリアンの悲痛な叫び。

そして血に染まった彼の両手…。


挿絵(By みてみん)


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「クッ…。」と小さく声を漏らすフローリアン。

「貴様はその剣を見て何を思う?

ヴェントゥムへの恨みか?我々への憎悪か?

貴様は己の弱さを棚に上げ、あまつさえ、うつつを抜かした女にその剣を与えた。

違うか?

…まあ、いい。

そこに転がる憐れな女の死骸を見ろ。

愚かにも私に歯向かった者の末路を。」

ハッと振り返ったフローリアンは、ようやく地面に倒れた(むくろ)がアイコであることを知る。

胸に黒く焼けた穴が開いた無残な姿のアイコ。

無事でいてほしいと切に願った女の死体。

フローリアンの体に怒りと悲しみ、2つの負の感情が駆け上がる。

憐れみでも垂れるようにそれを眺めるイッキが、

「結局お前は、“今回も”守れなかったのだ。」

と、侮蔑の笑みを浮かべた。

「黙れ…。

ダリアの無念も、アイコの悲しさも、全てを俺は背負おう。

だが俺にはまだ守るべき者がある。

十三(ぐう)が、その輝ける目的を達するまで…、

その果てにたどり着くまで…俺は死ぬわけにはいかない!」

男の頬を一筋の涙がつたう。

剣を握る手に力を込める。

ライトブルーの光がほとばしり、剣が風を纏う。

2つの刃がぶつかり合い、鈍い金属音が響く。

炎と暴風が巻き上がり、火炎の竜巻が空を焦がした。

だが、ここまで体力を消耗していたフローリアンに、相手のパワーを押しとどめる力はなかった。

弾き飛ばされ、瓦礫に体を打ち付ける。

背中の皮膚が裂け、血が服を赤く染める。

それでも、彼は倒れなかった。

気力だけで立ち上がった。

「しぶとい奴め。」

イッキもまた、疲弊していた。大きな誤算である。

まさか老いた操者(そうしゃ)に、これほどまで手こずらされるとは思ってもいなかった。

エレメントエネルギーは、大きな力を使うほどに心身を削ってゆく。

もはや一刻も早く決着を付けなければ、自分の身も危うくなることをイッキは知っている。

もうこれ以上、エネルギーを消耗するわけにはいかない。

イッキは目の前の老戦士に向かって刀を振り下ろす。

それを剣で受け止めるフローリアン。

ギィイインという気味の悪い共鳴音が響き、熱を帯びた鉄の金属臭が漂う。

額から流れた血が目に入り、フローリアンの視界を奪う。

剣に熱が伝わり、手のひらの皮膚が焼けるのを感じる。

苦痛に表情を歪めながらも、フローリアンは腕にエネルギーを集め、次の攻撃に転じようとした。

しかし、それを許すほど先触(ヘラルド)は甘くはない。

赤い悪魔は、刃を交差させたまま、不屈の戦士の脇腹を蹴った。

フローリアンの体が弾丸のように飛ばされ、崩れた建物に叩きつけられて大量の血を吐いて倒れた。

意識が遠のき、もう体は言うことをきかない。

ゆっくりと歩み寄ったイッキの燻った刀の切っ先が、ぐったりと動かなくなったフローリアンの眉間に向けられる。

「正直、ここまで私を追い詰めるとは思わなかったぞ、フローリアン。」

もう成すすべはない、と、死を悟ったフローリアンは、腫れた瞼を必死に開けてイッキを睨みつけ、

「トレディシムの私生児よ…、

お前は夜明けを見ることなどできないと知れ。」

ニタリと笑った。

「その減らず口も、ここまでだ。」

独特な構えから、刀が振り下ろされる。


「やめろ!!」

刃はわずかにフローリアンの額の皮膚を傷つけて止まった。

振り向いたイッキの視線の先には、さきほどとは別人のように毅然と立つエイシオの姿。

片足首を焼かれ、痛々しい姿ではあったが、その右手に輝く緑の輝きは、見まごうはずもない十三(ぐう)の紋章。


イッキは急ぎ刀を鞘に納めると、兜を脱いでエイシオの前に深々とかしずいた。

「我らが(しゅ)よ。

御前(おんまえ)に控えるのは、あなたの(しもべ)。あなたの覇業の礎。

あなたをお迎えに参上いたしました。」

エイシオは流れる涙をぬぐいもせず、硬直したまま、足元でかしこまるイッキを見下ろしている。

「お前が…お前がみんなを殺した…!」

(しゅ)よ。

これはあなたが大いなる高みに君臨されるための地固め。

私に与えられた、ささやかな役目でございます。」

エイシオの握りしめられた拳が震える。

「うるさい!

なんで!?

…馬鹿なの!?

なんでこんな…ひどい…。」

「ああ、(しゅ)よ。

あなたは混乱なさっている。」

うつむく少年にイッキが手を差し伸べた。

エイシオは体を強張らせ、身を引く。

「触るな!」

叫ぶエイシオを呆然と見つめるイッキの目が、困惑に揺れ動く。

実母を手に掛けた時ですら動揺を見せなかったというのに。

無理もない。

物心ついたころから、彼は信仰に拠り所を見出し、信仰に生きてきた。

何よりも敬愛し、誰よりもその出現を待ち望んだ十三(ぐう)の姿を、ようやく目の当たりにした瞬間に、彼は絶対的信仰の対象に拒絶されたのだ。

イッキの目から涙が一筋こぼれた。

「おいたわしい、我が(あるじ)

あなたは、あの風使いにそそのかされ、正気を失っておいでなのですね。」

「フローリアンは悪くない!

フローリアンはオレに生きるチャンスを与えてくれた!

でもお前は人の命を奪った!

こんなに…こんなにたくさんの…

罪もない人たちの…!

許さない!

ぜったいに許さない!!」

涙がとめどなく溢れた。

そして、ただ黙って虚ろな目で見つめる男を、エイシオは殴った。

殴ったところで倒せる相手ではないことは承知していたが、そうせずにはいられなかった。

「お前は悪魔だ!悪魔だ!!

みんなを返せよ!」

少年の悲痛な叫びが焼け野原に悲しく響き渡った。

「ああ、偉大なる我が(あるじ)

貴方以上に尊いものがありましょうか?

ここにある死者どもの命は、あなたの存在に比べれば(ちり)同然。

主が歩むべき覇道の(いしずえ)となって、ようやく価値を得た者どもでございます。

そのような下等な者どものために、どうか御心(みこころ)を痛めないでください。」

「黙れ!

命の重さに違いなんてない!

みんなの魂を侮辱するな!」

風が巻き起こり、エイシオの周りに渦を作る。

瓦礫に背を預け、朦朧(もうろう)とした意識の中でフローリアンはその光景を見ていた。

「…そんな技を教えちゃいないだろうが…。」

わずかに口の端を歪めつつ、このまま十三(ぐう)はトレディシムの手に落ちるのを、ただ眺めているしかないのか、と、悔しさに涙があふれる。

しかし、やがてその考えが間違いであったことに気づかされることとなる。


怒りに支配されたエイシオの瞳に、不気味な光が宿る瞬間をイッキは間近で目撃した。

少年の体を緑のオーラが包み、怪しく輝く。

十三(ぐう)のサーキットサークルが衝撃波となって広がる。

地面に転がる小石や瓦礫がカタカタと音を立てて震えはじめ、ついには不均衡になった重力の間に浮かび上がる。

「おお…

これこそ、まごうことなき十三(ぐう)の力…。

(しゅ)よ…、ようやく聖なる王の血がお目覚めになられたか…。」


挿絵(By みてみん)


感極まり、恍惚の境地で両手を差し出す。

その瞬間、エイシオの目の前で一閃の風弾がイッキのこめかみを貫いた。

わずかに微笑みをたたえたまま崩れ落ちるイッキ。


「もういい。エイシオ。」

その声に、振り向く。

そこには満身創痍(まんしんそうい)で立っているのがやっとというふうのフローリアンがいた。

「大丈夫だ。もう終わった…。」

フローリアンは傷だらけの顔で穏やかに微笑んだ。

エイシオの表情から殺気が消え、宙に浮いていた小石や瓦礫がバラバラと地面に落ちる。

「…終わったんだ、エイシオ。」

「…うん」

僅かにうなずいた少年の体がぐらりと傾く。

とっさに彼の体を抱き止めたフローリアンの腕の中で、エイシオは完全に意識を失った。


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「ママ…!」

飛び起きた少女は、体中に走る激痛に体を丸めた。

様子を見に来た医師が、あわてて駆け寄る。

「寝てなきゃダメよ。」

少女の細い体を横たえさせ、毛布を掛ける。

「ママ!ママ!?

怖い…!ママ、どこ!?」

少女は自分の置かれた状況が分からず、混乱していた。

体中に包帯が巻かれ、ところどころ血がにじんでいる。

見るからに痛々しい姿である。

「落ち着いて。ここは病院。

私はあなたの担当医よ。」

薄い水色のカーテンがそよ風に揺れている。

大きな窓から、太陽の光が差し込み、少女を包む。

「ひどい怪我だったけど、応急処置が良かったようね。

あなた、運がいいわ。」

医師が柔らかい笑顔で微笑む。

「ママは?」

「分からない。運ばれてきたのは、あなた1人なの。

ところで、あなた、お名前は?」

「…ナルミ…。」

少女は、白い壁に揺れる木の葉の陰を見つめながらつぶやいた。

「そう。じゃあ、ナルミちゃん。

痛み止めのお薬飲んで、少し休みましょうね。」

薬の入ったカップを受け取り、ナルミはかすかにうなずいた。

「…ねえ、先生…」

心細そうに少女は医師を見つめた。

「私は、どうやってここへ来たの…?」

「あなたは運ばれてきたの。意識を失っている間にね。

私は直接会ってないけど、あなたと同じくらいの年の男の子を連れた旅の人だったそうよ。

それから、あなたに預かってほしいって、小さな…」

医師の言葉をさえぎり、ナルミに飛びついたのは、炎に焼かれ、ところどころ毛の縮れた白黒の毛玉。サミーだ。

キュンキュンと不安げに鼻を鳴らして身を寄せて来る。

ナルミの目から涙があふれた。

「生きてた…。サミー…。」

小さな生き物をきつく抱きしめる。 

その時、ナルミの目に留まったのは、自身の右手に巻かれた黒い布きれ。

かつてエイシオの手の甲を覆っていた、あの黒い布である。

「…エイシオ」

涙のせいで顔の傷がひどく痛んだ。

「ナルミちゃん。

さあ、横になって、少し眠りましょう。」

ナルミからサミーを引き離そうとしたが、少女はひどく嫌がった。

やむを得ず、サミーはナルミが落ち着くまで部屋に置いておくことになった。

医師は看護師を呼び、彼女にしばらく付きそうよう指示を出して部屋を出た。


廊下に出てきた医師を2人連れの帝国軍憲兵が呼び止める。

「あの娘の意識は戻ったか?」

「ええ。もう峠は越えたようです。

それにしても酷い怪我ですが、いったい何があったのです?」

医師の問いに2人の憲兵は躊躇したようだったが、お互い顔を見合わせうなずくと、

「ここからかなり南の小さな農村で、大きな災害があった。

我々でさえ目を覆いたくなるような凄惨な光景だ。

彼女はその村の唯一の生き残り。

これ以上は話せない。」

と、歯切れの悪い回答をするに留めておいて、

「娘と話しはできるか?」

と問う。

「いいえ。それは許可できません。

あと1週間はご遠慮ください。」

そうキッパリと答え、

「村の惨状についても内密に。

今の容態ではショックが大きすぎます。」

医師はわずかに開いた扉から病室の様子を伺い、深くため息をついた。

窓から降り注ぐ淡い木漏れ日の中で、体を震わせるいたいけな少女を、小さなサミーが静かに見守っている。

そんな光景にやりきれない思いを感じている。


「…エイシオは助に来てくれたんだ…。

私を守ってくれたんだ…。

あの約束、忘れてなかったんだ…。

エイシオ…会いたいよ…。」

黒い布が巻かれた小さな手に頬を寄せるナルミの嗚咽が、いつまでも悲しく響いていた。


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ゴーレムの(ひづめ)のリズミカルな音が岩肌に小気味よくこだまする。

海から遠くはなれ、湿度は低い。

日陰に入れば強烈な太陽光は遮られ、冷たい風が頬に心地よい。


「全部オレのせいだ…。」

少年は男の背にもたれかかり、遠くなっていく麓の木々を見つめながら、馬のギャロップと男の心臓の鼓動音が時折重なるのを、ただぼんやりと聞いている。

「そうではない。」

落ち着いた声が、男の背中を通してくぐもって聞こえる。


村の人々は皆、死んだ。

遺体は灰となり、埋葬すらできなかった。

だが崩れた土壁に半ば埋もれていたアイコの亡骸だけは違った。

胸に空いた焼け焦げた穴さえなければ、まるで眠っているように見えた。

フローリアンはアイコの遺体を桜の墓所へ埋めた。

彼女が愛した夫の眠る桜の下へ。

もう、誰も訪れることのない聖地に。

重度の火傷を負い、意識を失っていたナルミには手当を施し、帝都に近い町の病院へ預けた。

大きな町だ。

慈善団体や孤児院もある。

きっとここでなら、彼女は生きていけるだろう。

そう願ってのことだった。


「オレ、やっぱり呪われた守護者なのかもしれない…。」

エイシオがポツリとつぶやく。

「人の死は人生の一部だ。」

少年は、この言葉の意味の深さをまだ十分に理解できる年齢ではなかった。

「俺はまだまだ弱い。

みんなに甘えすぎてたんだ…。」

正直、村は居心地がよかった。

ずっとあの村で、ただの少年として生活することすら望んでいた。

しかし、それこそが悲劇の原因であったことをエイシオは自覚していた。

自責の念が彼の心を締め付ける。

「過去を引きずるな。

過去に捕らわれ続けると、それは重荷に変わり、しがらみとなり、やがて這い出せない奈落に引きずり込まれる。

かつての俺みたいにな。

お前にはそうなってほしくはない。」

「え?」

「悲しみから抜け出そうともがけばもがくほど自分を見失う。

そして道を踏み誤るのさ。」

エイシオはハッとした。

地面に倒れているナルミの顔を見たとき、冷たくなったアイコの亡骸を見たとき、悲しみで自分を見失った。

あの憎い男の、死者を愚弄する言葉を聞いて、怒りが抑えられなかった。

無意識とはいえ、時空の力が発動したとき、本気でイッキを殺そうと思った。

恐怖を忘れ、目の前の敵をただ憎いとしか感じなかった。

あの時、フローリアンが手を下していなければ…、もしかすると…。


「お前はイッキを殺したいと思ったんだろう?

その衝動にかられたときのことを覚えているか?」

ふいに尋ねられ、心臓がギュッと委縮した。

頭の中を見透かされたようで怖かった。

「…うん。」

少年は正直に答えた。

「なら、それを決して忘れるな。

守護者の戦いは、人の命を奪うための戦いではない。

人を守るための戦いだ。

今後、たとえ何があろうと、あのときのことを思い出し、衝動を抑えろ。

それが、これからのお前の務めだ。

お前の正しい心を輝かせ続けろ。

やがてそれが邪悪な黒い影を打ち消す大きな輝きになるまで。」

「…正しい心を…輝かせる…。」

呟くエイシオの脳裏に、ずっと以前、姉とかわした約束が鮮やかに蘇る。

“あなたの正しい心を輝かせなさい。邪悪な黒い影を消し去ることができるから…”

ハッとした瞬間、地面を一羽の鳥の影がスイと横切った。

空を見上げたエイシオの瞳に写りこんだ青い小鳥は、まるで少年に祝福を与えるようにクルリと円を描いたあと、空高く舞い上がり、やがてその姿は見えなくなった。

「…ロタリア…。」

思わずして声が漏れた。


——アメリア、今、その意味が分かった気がするよ。——

少年は頬に流れる涙をぬぐい、背筋を伸ばした。

その背には銀の鞘に収まった剣が輝いている。


「できるな?エイシオ。」

「はい。…先生!」

決意のこもった声が青い空に抜けた。


初めて自分を“先生”と呼んだエイシオを、フローリアンが静かに振り返る。

あの村で穏やかに暮らした3年間が、少年の精神を大きく成長させたと実感した。

村人とのわだかまりもあった。

良き友人がいて、守りたいと思う人もできた。

そして人々の死を見つめた。

村での時間は、決して無駄ではなかったのだ。

———ダリア、アイコ。

俺はまだまだ、そっちに行くわけにはいかなさそうだ。———

フローリアンは澄んだ空を見上げて深く息を吸い込んだ。

「よし!

俺を師と仰ぐからには、この先、何があっても泣き言は聞かんぞ!」

ゴーレムの脇腹をポンと蹴る。

いななくゴーレムは勢いよく大地を蹴り、風を切って走り始めた。


挿絵(By みてみん)


軋みを上げていた運命の環が、今ゆっくりと、そして確実に回り始めた。


                          第21話 おわり


挿絵(By みてみん)


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エピローグ


ヴェントゥム・シティの空に満月が輝いている。

センター・カーネルの王宮内の一室では、白いワンピースの寝間着を来たエリシア王女が、侍女のナナに長い髪をとかしてもらっている。

なにやら、そわそわと落ち着かない姫君の様子を微笑みながら見ていたナナが優しく問う。

「明日が待ちきれないといった感じね、姫様。」

エリシアは鏡越しに老女を見て、にっこり微笑んだ。

「ええ。明日は私にとって、大切な日だもの。」

彼女の言う大切な日、それは彼女の10歳の誕生日を祝うパーティー。

毎年開かれる華やかな祝宴には、王国内はもちろん、友好国の貴族や有識者、富豪が訪れる。

なによりも嬉しいのは、ヴェントゥム大使として世界中を飛び回っている母親が、この日のために戻ってくること。

古くからヴェントゥム王妃は大使として海外に派遣され、政治的な問題や、国同士の軋轢を生じさせないよう努めるのが習わしとなっていた。


「あー、ママに会いたいよ!

もう!早く明日にならないかな~。」

「まあ!その言葉遣い。

もう少し、おしとやかにならなくてはね。」

ナナは櫛をドレッサーに置き、

「さ、ではもうベッドにお入りになって。」

と、エリシアの肩にそっと触れた瞬間、少女の体から目もくらむ閃光がほとばしった。

その衝撃でシャンデリアのクリスタルが共鳴を起こし、時計の針は動きを止めた。

室内が昼間よりも明るい光で満たされる。

そのあまりにも強い光に、ナナは慌てて自分と少女の目を覆った。


「ナナ?どうしたの?

これ、何かのおまじない?」

エリシアに尋ねられ、ナナがそっと目を開ける。

部屋の中は月の薄明りが窓から差し込むだけの、いつもと変わらない光景。

「ひ…姫様は何も見なかったので…?」

と鏡に映るエリシアを見たナナは、息を呑んだ。

少女の胸元、ちょうど鎖骨の間に現れた蝶の羽のような模様が、うっすらと白い光を帯びて浮かんでいる。

その中心には古い文字で7を表す記号。

表情を変えたナナがエリシアの足元にかしづいた。

「な…何?

あ、分かった!私をからかってるのね?

そうでしょ?」

困惑するエリシアが椅子から立ち上がる。

ナナは深く(こうべ)を下げたまま、

「ご出現をお待ちいたしておりました。」

厳かな声でそう言った。

「やだ…、変な冗談はやめてちょうだい。」

エリシアは訳も分からず、この事態に狼狽している。

老女はようやく顔を上げ、

「可愛い私の姫様。

いえ、慈しみぶかき守護者七宮(しちぐう)とお呼びしなくては。

あなた様は創造の4柱、光のパラディンであらせられます。」

にっこりと微笑んだ、その頬を涙が伝っている。


ただオロオロするだけのエリシア姫の手を引き、ナナは“光の門”と呼ばれる特別なバルコニーへと彼女を導いた。

そして、ベイヤードの紋章の下に隠された古い装置のレバーに手をかけ、

「正義の灯火、ヴェントゥムの君主たる守護者七宮(しちぐう)が、今ここにご出現あそばされた!」

と、高らかに告げ、装置を起動させる。

壁の奥から重い歯車の回る鈍い音が響き、城全体が命を得たように振動をはじめる。

やがて城の4つの尖塔に据えられた鐘が、この時を祝福するように一斉に鳴り響いた。


挿絵(By みてみん)


その清らかな音色に、城下を歩く人々は足を止め、仕事に励むものは手を止め、皆一様に高台の城を見やった。

アカデミーの一角、暗い執務室の窓辺に佇むバジリオもまた、この奇跡に立ち会えたことを神に感謝せずにはいられなかった。


王都にいる誰もが静かに(こうべ)を垂れ、新たな守護者の出現に喜びと敬意を示した。


ヴェントゥムに新たな歴史を刻む、正当な王が誕生した瞬間だった。



                         第1章 完



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書きました。アブサロン


イラストはこちら ペイやん

小説への応援ありがとうございました。第二次ストーリーアークについては、近日中にニュースをお届けします。

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