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私は仕事がしたいのです!  作者: 渡 幸美
番外編

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春、う・ら・ら? その3

城から馬車で30分ほどの王都の南西部に、マーシル家の別邸、と言うよりは分家とでも言おうか、カリンの家、いわゆるミル達の()()がある。


ミルも、もちろん他のきょうだいも、ここで育った。学園に入れば寮だけど、みんな毎週のように帰って来ていた。今もレシオン以外は家を出ているが、皆マメに帰って来る。

9人いるきょうだい達は、長年の片思いを実らせて義父になったレシオンを筆頭に、マーシル商会に入ったり、役人になったり、薬草園や農園に入ったりと様々だ。

結婚しているのがレシオンだけだったりするのだけれど。

いろいろな自由が広がっているこの国で、それぞれに思うように暮らしている。そりゃあ、細かい大変なことなんかもいろいろあるけれど、それぞれに幸せだと思う。


ミルはカリンに憧れて、マーシル商会で商人になることを選んだ。いつか、カリンみたいに誰かを救える人になれたら……とか、大層な夢というか、理想もある。


(押し付けがましくてもあれだし、施すのとも違うし、難しいけれど。今日で第一歩が踏み出せた)


輸出草案を見た、エトルの反応は手応えがあった。少しでも前に進むだろう。いや、進ませる!と、決意と結果の報告に、ミルは実家に寄ったのだ。


「カリンー!聞いて!魔道具の輸出に関する規制案、通りそうよ!」


バタバタと到着するなり、玄関ドアをバーンと開けてミルは叫んだ。


「おやおや、ミルちゃん。はしたないですよ。先ほどお昼寝に入ったばかりのリアンちゃんが起きてしまいます」

「そうよー!ミル姉さま。しー!なの!」


この家には元々使用人はおらず、カリンのばあや様、テネ婆様だけがいた。カリンが外国などへ出ている時の家の管理も彼女がしていてくれて、ミル達が来た時も面倒を見て、マナーを教えてくれた先生だ。増えた家事は皆でやった。

皆の大好きなおばあ様的存在だ。


そして、可愛い義妹になる、ベルタ。今年で五歳のおしゃまさん。カリンそっくりで、レシオンがだらしなくなって仕方がない。

リアンは2ヶ月前に生まれた義弟で、レシオン似。まだぷくぷくで、天使だ。


「ごめんなさい。嬉しいことがあって、つい。ママはリアンとお昼寝?」

「うん!ママもお疲れだからお休みなの!これからテネ婆様とおままごとするの。ミル姉さまもやる?」

「そうね!入れてもらえる?」

「うふふ、いいよぉ」


ベルタが春の小花たちの様に様々な色を撒き散らしながら、ぱあっと得意気に笑う。

可愛い。うちの妹のこのどや顔、世界一可愛い。うちに天使が二人もいる。大変。ミルは無意識にぎゅーっ、とベルタを抱き締める。


「ミ、ミル姉さま、苦しいの」

「あ、ごめん。ベルタが可愛すぎて、つい」

慌てて腕を緩める。

「ふふ、ミルちゃん相変わらずねぇ」

テネ婆様に苦笑いされるが、ベルタが可愛いのだから仕方がない。


「リアンの顔も見たいし、今日はお泊まりしてもいい?テネ婆様」

「もちろんよ。ここはミルちゃんの実家よ。いつでも大歓迎」

「ありがとう」


優しい人に囲まれる時間は、本当に尊い。


ミルは、カリンと可愛い義弟がお昼寝から覚めるまで、大好きな人達と楽しく遊んで待った。




「ミル、お帰りなさい。ごめんね、すっかり寝ちゃったわ」

「ただいま!大丈夫よ。ベルタと楽しく遊んでいたもんねー!」

「ねー!」


またそのベルタの笑顔の可愛さに、ミルが強く抱き締めてしまい、苦しくて怒られる。


「ベルタの可愛さは理性を無くす……危険だわ」

「馬鹿な父親と同じようなこと言わないでくれる?ちゃんと頭を働かせて頂戴」


カリンに呆れられながら、ベルタを取られる。そして二人で散歩してきますと、テネ婆様と庭に出ていってしまった。寂しいが、カリンと話をしたいので仕方ない。


「リアンは?大丈夫?」


部屋を出る前に、テネ婆様がお茶を淹れてくれたので、カリンと二人でテーブルに移動しながら話す。


「ええ、まだ寝てるわ。ドアも開けているから、起きたら気づけるし。……で、輸出草案よね?どうだった?」

「ふふっ、バッチリ!だと思う!陛下にも見てもらうって」

「良かったじゃない!おめでとう!」

「ありがとう!カリンやお祖父様お祖母様たちのアドバイスのお蔭です」

「ミルは優秀だもの。私達の手伝いなんて、少しよ。じゃあ、今日は軽くおめでとうパーティーしましょうか!」

「わーい!カリンのミートパイが食べたい!」

「任せて」

「もちろん、準備は手伝うね!」


パーティーの準備に目をキラキラさせているミルを、カリンは目を細めて見て、そっと頭を撫でた。


「カリン?どしたの、急に」

「ミルも大きくなったなあと思って。みんな手が離れて行って、嬉しいけど寂しいわ」

「また、そんなこと……子離れも必要よ」


この人は、自分で子どもを産んだ後も、ミル達を変わらず大事な大事な子ども達として接してくれる。ミルはそれが嬉しくて、何だか少し恥ずかしくて、ちょっと可愛くないことを言ってしまうのだ。これが「甘えられる」と言う幸せなことなのだろう。


「簡単に子離れはできないわよ!」

「何、その開き直り」


なんて言いつつも、ちょっと嬉しくて、ミルはそわそわしてしまう。


「でも、ちょっと分かるかも。私もベルタとリアンから離れられる気がしない」

「でしょ?セレナとリーゼもこの前言ってたわ」

「そんなもんかあ。もう、リーゼ様のお子さまはうちと変わらないくらいだよね?」

「そうそう、それでも手出し口出ししちゃって怒られるって」

「あはは」


そこまで話して、ミルはふと、エトルを思い出した。


「そういえば」

「ん?」

「セレナ様とリーゼ様で思い出したんだけど。お二人って、エトル様と幼馴染みなんだよね?」

「……まあ、そうね。どうしたの?急に」


カリンの返事が少し間が空いたので、おや、と思いながらも、ミルは話を続けた。


「その、この前、お二人が揃ってリアンの出産祝いに来てくれたじゃない?」

「うん」

「その話をね、草案の話の後に流れで話したんだけど。その時ね、エトル様は優しく微笑んでくれていたんだけど、何だか、泣きそうにも見えて」

「……そう」

「ほんの一緒なんだけどね。やっぱり気のせいかなあ」

「……」

「カリン?」


見ると、カリンが困り顔でミルを見ていた。口を開こうとしては閉じる。決断力のあるカリンには珍しい行動だ。ミルはキョトンとしながらも、カリンの次の言葉を待つことにした。


数分は経っただろうか。カリンが意を決した顔でミルを見て、口を開く。


「正直、私が話すべきことかはわからないのだけれど。これから、ミルは輸出草案の事でエトルと関わる事が増えるだろうし……。もう、ほとんど噂話も出ないとは言え……私は直接の当人ではないけれど、他の有象無象よりは近くで事実を見てきたから、無責任な噂話がミルに入るくらいなら、私が話すわね。客観的に見ていて分かることだけ、よ」


カリンの真剣な顔に、ミルも同じように誠実に頷く。


「はい。お願いします」


ミルが聞いた昔話は、今の彼らからは想像もしていなかった話だった。


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