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私は仕事がしたいのです!  作者: 渡 幸美
番外編

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澄み渡る空に その1

少し遅くなりましたが、3,000ポイントありがとう更新です。終わっても、じわじわと読んでくださる方々、ブクマをつけているままにしてくださっている方々、★を付けてくださった方々、ありがとうございます!!


一旦一区切りかなと思っていたので迷いましたが、別の連載で末っ子ミルを登場させたので、カリンとレシオン編にしてみました。


少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

レシオン=マーシル、18歳。本日、無事にグリーク魔法剣術学園を卒業した。


ここ、グリーク王国は慈愛の女神に守られている国だ。その加護のお陰か、国民の主要行事がある時は晴天になることが多いらしい。真偽は定かではないし、俺は雨も嫌いじゃないが、行事ごとの際は確かに晴れてくれた方がありがたいとは思う。


もちろん、本日も晴天だ。


そして、俺の心もこの空のように澄み渡っている。



◇◇◇◇◇



あれは学園に入学して、一年生が終わろうとしていた頃。友人と帰り支度をしていると、クラスメートの女子たちが、舞踏会がどうのとかと騒いでいる声が聞こえてきた。


「舞踏会?そんなのあったか?」

「あるよ!まだ俺たちは関係ないけどな。卒業式の後に開かれるんだ。レシオンは知らなかったのか?」

「へぇ。知らなかった。あんまり興味もないし」

「興味ないとか言ってられないぜ、レシオン」


そう訳知り顔で話すのは、友人のティンだ。彼は伯爵家の三男で商売に興味があるらしく、すぐに仲良くなった。俺もだいぶ勉強はしたとはいえ、まだ足りない貴族の()()()()的なことも教えてフォローしてくれる、ありがたい友人だ。


「そうなのか?」

「そうだよ。だって舞踏会に行って、一人で踊るのか?」

「……ああ、そうか」

「だろ?俺もお前も婚約者いないだろ?うーん、卒業までに婚約者とまではいかなくとも、彼女は欲しいよな!」

「………………」

「レシオン?」

「あ、ごめん、そう、そうだな」

「レシオンはモテるから、すぐだろうけどなー」

「何言ってんだ。そんなことないだろ」


二人でなんやかんやと話しながら寮へ帰る道すがら、俺はカリンと踊りたいと、それだけを考えていた。



それからすぐに学園は春休みになり、俺は当然家に帰った。ほとんど毎週帰って来るから、久しぶり感はまったくないが、やはりホッとする。

そして、いつものカリンの仕事の手伝いの日々だ。もちろん、課題もやる。


「レシオン、お手伝いは助かるけれど、たまには外で遊んで来ていいのよ?」


カリンは何度も言ってくれる。けれど。


「いいんだ。俺はこの家が好きだから。家の仕事も趣味みたいなものだし、やらせてよ」


カリンといたいからいいんだ。とは言えないが、俺は俺の意思で、ここにいたいと思っていると返す。これも、何度も言っている。


そして、ふと思い出す。


「そうだ、カリンの時も卒業式の後に舞踏会あったの?休み前に女子が盛り上がってた」

「あったわよ、もちろん!沢山カップルの生まれる日よね」


懐かしそうに、それにさらっと話すカリンにドキッとする。


「カリンは…誰、と、参加したの?」

「私?お兄様!」


笑顔での即答。ホッとしながらも、周りの男はなにをやっていたんだとも思う。こんなに魅力的なカリンに声をかけないとか、あり得ないだろ。そんな葛藤をしているのに。


「何だよ、モテなかったのか?カリン」


口から出たのは皮肉だった。情けない。


「失礼ね~!たくさん声かけていただきました~!けど、ルピナスシリーズで忙しかったし、結婚する気もないし、面倒なので全部断ってお兄様にお願いしたの!一定数、ルピナスシリーズに関わりたいとかって腹の奴もいたしね」


カリンが俺の頬を両手で引っ張りながら言う。痛い。痛いけど、そして結婚をしない宣言をされたようなものなのだが、安心してにやけてしまう。


「ほれじゃあ、ほはのひろたひもたいへんらったんやらいの?(他の人たちも大変だったんじゃないの?)」

「そうね。ローズとエマと…あと、セレナか。その三人以外は身内だったわね。いろんな事情も重なったし」


そう言いながら、カリンはようやく手を離す。引っ張られた頬がジンジンするが、この痛みがやはり、これは現実だと思わせてくれて嬉しいことに変わりはない。

誓ってMとかではない。


「そうかそうか。でも、レシオンもきっとあっという間に卒業の時期が来ちゃうわよ!今を大切にして、お相手も探しなさい?」

「…………分かってるよ」


母親としての温かな笑顔のカリンに、まだまだ半人前以下の俺は、カリンをエスコートしたいのだとは、とても言えなかった。



そのまま、カリンの言った通り、時は充実しながらも呆気なく過ぎ。俺は最終学年になった。


このままいけば学園の成績も、上位5番からは一度も落ちずに卒業できそうだ。


勉強をした。魔法も剣術も身に付いた。カリンの商会の仕事もたくさん覚えて、将来の右腕だなと周りにも言ってもらえている。


俺の女神は始めからカリンだ。カリンしかいない。それも全く変わっていないのだ。なのに。


舞踏会でエスコートしたい。その一言を言う勇気が出ない。


このままずっと、カリンの子どもでいるのは嫌だ。でもそれと同じくらい、余計なことをして、傍にいられなくなるのも怖いのだ。


本当に情けないけれど。


そう、本編では出ませんでしたが、卒業パーティーが実はあったのです(^^;

お披露目式メインで、触れず終いでした。

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